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 第6章 人狼は誰なり

 人狼達のことは恭也と唯依に任せ、マリア達は作戦を立てていた。
「確認しますわ、まず巨大人狼の指輪は半径1メートル以内にいる人を人狼に変えてしまう
そして、第2に人狼の弱点は銀。あと槍ですわねーーあ」
「えっ、僕?」
 後で合流したエリシアが淡々と説明する条件に、一斉に全員がコハクを見る。
 コハクの手にはまさに槍”サリサッサ”が握られている。
「槍は解決ですわ。あとは半径1メートル以内にどうやって近づくかですわ」
「僕のグラビティコントロールで足を押さえるよ!!」
 素早く宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)が声をあげる。
 この声で、全員の行動はすぐに実行へと移された。

「ミツケタゾにんげん」
「何が見つかったって?」
 エリスは上空に浮かんだまま、再び”シューティングスター☆彡”を降らしていく。
 これで、巨大人狼の気はエリスに引かれる。

「とっておきをみせてやるのですわ!」
 そう言うとエリシアは白銀でできた刀、”シルバーアヴェンジャー”を取り出すと
容赦なく目の前に立ちはだかる人狼達を切っていく。
 その隙に、義弘が”グラビティコントロール”を巨大人狼にかける。
「ウウウに、んげん……」
「今ですわ!!」
 エリシアによって切り開かれた道をすばやく、マリアとコハク達が突き進んでいく。

「グオオオッ にんげんっ!!!!!!」
 コハクは巨大人狼の胸めがけて槍を投げ飛ばす。
 全員がこれで一気に解決だと思ったそのときだった。
 キンッっという、鉄をはじく金属音が響く、しばらくすると、槍は地面に音をたてて転がっていく。

「人狼の長年の悲願がようやく叶いそうだというのに……目的の邪魔をしないでほしいですね」
 平然とした表情で、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)は、巨大人狼の前に立ちはだかった。
 巨大人狼が、ファンドラには攻撃しないことから、また協定を結んでいることがすぐにわかった。

「また……あなたたち?」
 祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)がうんざりしたように言う。
 ファンドラはそれに対して笑って答えた。
「ここは邪魔せず、おとなしくそこで見ていてほしい物ですね」
「それに今頃は……町の人々もほら」
 ファンドラは城の壁を指さす。そこには映写機のように町人たちが写っている。
 が、問題はその写っている町人たちはまさに、人狼達に迫られているようだった。
「……何をやってるのかわかってるんですか?」
「ええ、もちろん。人狼の助けですよ」
 マリアはわなわなと震えながらもファンドラに聞くと、ファンドラはあざわらいながら答える。
 マリアは突然銃を構えて、ファンドラに発砲する。
 が、ファンドラはそれを軽くよけていせると、マリア達に向けて”神の奇跡”を発動させる。
 次々と無数の武器が、マリア達を襲う。

 が、突然その無数の武器は”グラビティコントロール”によって止められる。
 それを発動させたのはメシエだった。
「たく……相手しないといけないのがグランツ教だけじゃなくなると、ややこしいことになるんでね」
 ゆっくりとファンドラへと近寄りながら、エースはファンドラをにらむ。
 マリアは嫌な予感が走っていた、前回と同じであればファンドラだけではない、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)がどこかに居てもおかしくない。
 それを耳打ちで聞いたメシエは目をつむり”ディメンションサイト”をかけ調べる。
 すぐに一人は見つかる。メシエはエリシアにこっそりと耳打ちをする。

「奥の手がやられてしまいましたね」
「おや、降参かな?」
 まったく、追い詰められている風には見えない、ファンドラに軽快しつつもエースは煽る。
 どうやらエリシアが、時計の塔へと向かったのがばれてしまったようだった。
 ファンドラは手元からなにやら丸い物を取り出すと空へと投げた。

 一方、エリシアは時計塔に入り、静かに2階へと入る。
 古い鍵穴をのぞき込むと、まさに窓からファンドラをのぞき込む刹那の姿があった。
(間違いないわね……)
 エリシアは勢いよく閉じられたドアを開ける。
「見つけましたわ!!」
「……」
「えっ、しかとですの?」
 エリシアは少しいらっとしながらも、黙り込む刹那へと近づく。
 が、これがまずかった。とつぜん刹那らしき体から白い粉が噴出する。
「これは……しびれ…………ぐ……すり」
 刹那の体とおもったものは、”空蝉の術”によって、刹那に見せられたただの枕だった。
 同時に、外では爆音が鳴り響いた。

「危なかったああああっ!!」
「……ふう、まったくだよ今のは爆弾のようだね」
「ええ、しかも爆弾をスナイパーが射貫いたようです」
 義弘をはじめとし、エースとメシエが目の前で起こったことを口々に言う。
 エース達の目の前では真っ白な煙があがり何も見えなくなっていた。
 ファンドラが直径3センチほどの丸いボールを投げたと、思ったとたん銃声とともに目の前で爆発が起こった。
 それを義弘は”行動予測”と”アブソリュート・ゼロ”により、爆発よりもいち早く、氷の壁をエースの前に展開したのだった。

 爆発の煙がようやく晴れたころだった。巨大人狼はうしろを向き、刹那とファンドラが見える。
「待ちなーーっ!!
 マリアは慌てて、巨大人狼へと銃を構えて突撃していこうとするが、突然、マリアの肩をめがけて、鉛の弾が貫いた。
 マリアは思わず痛みに立ち止まり肩を押さえる

「マスター刹那、コレでよいデスカ?」
「良くやったのじゃ、もうしばらくこいつらを威嚇しておくんじゃ。我らが去るまでのぉ」
「了解シマシタ」
 刹那は城の方を見上げて話す。
 イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)は城の遙か上から、スコープつきのスナイパーライフルを構えていた。

(このままじゃ逃げられるわね……)
 祥子は判断に迷っていた、このまま巨大人狼を逃がせばおそらくファンドラ達によって、おおいなる者が復活させられる。
 それに指輪を取り返さなければ、人狼達を元の人間へと戻せなかった。
 でも。それ以上にスナイパーに狙われた今、行動すれば自分の命も危うい。
 どうしたものかと思ったときだった、マリアがこちらを見てきた。
「……私がスナイパーをどうにかします……その間に指輪を」
 切れ切れに提案するマリアの言葉に、祥子は頷いた。
(不安はあるけど……かけるしかないわねっ)

「ちょっと借りるわよ?」
「えっ、別に良いけど……何を?」
 コハクの手から槍を借りると、祥子は静かに深呼吸する。

 自分の中で呼吸を整え終えると祥子は、勢いよく走り出す。
「!」
 走り出す祥子をイブは目視で確認すると、素早く位置を計算して、0.5秒後に来るであろう祥子の位置を予測しスナイパーライフルを置く。
「誤差プラスマイナス0.00000000001秒以内」
「させないっ!」
 マリアの声とともに銃声が鳴り響く。イブの銃声ではない。
 イブは自分ののぞき込むスコープが突然真っ暗になったことを確認した。
「スコープが弾丸にヨッテ負傷、スナイプ続行フカノウ」

 祥子はイブに撃たれることなく、そのまま、槍を構え突っ込んで行く。
 巨大人狼は、運良く後ろを向いていたのが良かった。
 ”経絡撃ち”+”疾風突き”により、槍は的確に巨大人狼の背後から胸へかけて、貫いた。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ!!」
「なんじゃとっ!?」
「バカな……」
 地響きをならしながら、巨大人狼は地面へと倒れる。

「終わりです」
 イブに撃たれる心配もなくなったマリア達が、ゆっくりとファンドラ達に近づいていく。
「くく……まさかまたやられてしまいましたか良いでしょう今回も潔く引きますよ」
「むむ、なんか納得いかないがしょうがないのぉ、イブ下がるぞ」
「了解シマシタ」
 その言葉とともに、また刹那達は白い煙幕に包まれて姿を消してしまった……。