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【第四次架空大戦】ティル・ナ・ノーグ

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【第四次架空大戦】ティル・ナ・ノーグ

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06 襲撃3



 ダークスカルの放つ【エナジーバースト】により、勇者たちは苦境に陥っていた。
 その闇の衣はあらゆる攻撃を弾き返すため、勇者たちの攻撃が一切通用しないのだ。艦載用大型荷電粒子砲の直撃ですらもものともしない闇のエナジーに、次第に勇者たちは意気が消沈しかける。
 なにせ、クロガネと同じ存在であるはずのアカガネの攻撃ですら通じないのだから、その防御力は押して知るべきである。
【これは……なんなのだ……!? 知らない! 私は知らないぞ!!】
 そして、アカガネが狼狽える。それでも、子供たちは諦めなかった。
「情けないな守護者さんよう、俺達は、仲間を信じる。最後の最後まで、諦めない!」
 勇平はそう言って、倒れ伏したアルタグンを再起動させる。
「あつつつつ……さすがにきついなぁ……」
 コクピット内部で頭をぶつけた美羽が、タンコブのできたおでこをさすりながらつぶやく。
「大丈夫ですか?」
「平気平気。まだまだ行けるって!」
 ベアトリーチェの心配そうな声に、明るい言葉を返す。
「なんなんだあの黒い攻撃は……」
 フレイのつぶやきに、セイファーが答える。
「分析完了。カリバーンの善のオーラが反転されて物質化するほどに圧縮されたもののようです……」
「なるほど……そうなるとこちらも勇者のオーラをぶつけるしか無いわね」
 それに対して解決策を示したのは、香と一体化しているローザだった。
 クロガネやアカガネ、香などの存在は瀬良の図書館あるいはアカシックレコードなどと呼ばれるデータベースにアクセスできる上位次元の存在で、それゆえに引き出そうと思えば既知宇宙に存在しない情報すら引き出すことが可能になる。
「で、それで勝てるんですか?」
「どうかしら……どれだけの量のオーラが必要かわからない。下手をすればあなたも私も、命がないかもしれないわよ」
 勇平の質問に答えるローザに対して、ジヴァが大きな声で割り込む。
「大丈夫よ。所詮ここは夢の世界なんだから。現実じゃないんだから! やろうと思えばなんだってできるし、むしろ死んだら現実に戻れるかもしれないじゃない!!」
 その言葉に、勇者たちも、ハデスも、一様にショックを受ける。
「ふむ、面白いことを言いますねえ……では試してみるとしましょうか。次の一撃はあの大樹を打ち砕く――」
 ハデスがそう言って撃ちだした暗黒のオーラは、果たして天をも貫くオークの大樹を一撃で打ち砕き、大樹は半ばから折れて地面に激突し、ティル・ナ・ノーグに激しい揺れを巻き起こす。
「きゃあああああっ!」
 ラブが慌てて揺れる地面から飛び上がる。
「なるほど――」
 得心した様子のハデスは、再びそのオーラを勇者たちに向かって撃ち出し始める。
「わわっ!」
「あぶねえ!」
 美羽や勇平が慌ててそれを避ける。
 その周囲でリリーとミレリアが懸命に砲術戦を繰り広げる。
 だが、ただの攻撃ではカリバーンの防壁を突破することができず無駄撃ちに近い状況だった。
「くっそ……むかつくわねえ……オーラって何よ。これが現実じゃないなら、とっとと覚めなさいよ! こんな出来の悪い夢は、おしまいにしてやるんだから!!」
 ミレリアが絶叫とともに放った一撃は、不可思議な光をまとってカリバーンを直撃し、その防壁を貫いた。
「やったわ!」
「ミレリアさん、どうやったんですか!?」
 リリーの質問に、ミレリアは大きな声で答える。
「現実を肯定するか、否定するか、どちらにしろ信じることが重要なんじゃないの!? あたしは否定したけどねぇ!」
「――なるほどね〜。ねえ、未来ちゃん、あなたも泉の水を飲んだ。それなら、泉の中に還ったハーティオンの魂が力を貸してくれるって、信じて、信じ抜いて、祈ってみなよ!」
 それを理解した美羽が、未来に語りかける。
「そうだな、その泉には、ハーティオンだけじゃなく今までの勇者がみんないるんだ。きっと力強い味方になってくれる!」
 勇平がそれを後押しする。
「そうだ! できるさ、きっと!」
 フレイも、同調する。
「皆さん……分かりました!」
 未来は力強く頷くと、拳を重ねて目を瞑り、祈り始める。
 ハーティオンのことを思いながら。
 その間にも、勇者たちの攻防は続く。
 ミレリアがこつを掴んだおかげで、勇者の攻撃も徐々にカリバーンの防御を破るようになってきた。一方で、【世界を正しく認識した】ハデスが操る闇のオーラは、それよりも一層力強くなっていく。
(ふむ、現実を認識した今では、十六凪がとてもおマヌケなピエロにしか思えんな……見る限り彼はまだ現実を認識していないようだ)
 ハデスが考えるとおり、鈿女や十六凪といった技術陣は頭が良いだけに正しい現実を認識することができず、未だこの夢の世界の法則にとらわれているようだった。したがって、この攻防劇も、闇のオーラや勇者の力のやり取り、というこの世界の法則に基づいたものとしてしか解釈できていなかった。
(まあ、いいだろう。いつまでも【彼女】のお遊びに付き合っていられない。夢はいつか覚めるもの。一度死んで抜けだささせてもらうとしよう――)
 ハデスはそこまで思考すると、とあることを考えた。
 すると、未来の祈りに呼応するかのように泉が輝きはじめる。
「泉が!」
 フレイが叫ぶ。
「きたわね、ハーティオン。遅すぎよぉ!」
 ミレリアが興奮のあまりトリガーを引き絞り過ぎて艦載用大型荷電粒子砲が発射され、カリバーンに直撃する。
(くぅっ! わかっているとはいえ、一旦死ぬというのはなかなかに恐ろしいものであるな。まあ、なかなか出来る体験でもないし、せいぜい楽しませてもらうとしようか)
 そして、光が未来を通してカリバーンを包み、その動きを拘束する。
 それとともにカリバーンを包む闇の衣がかき消されていく。
「くっ、どうしたというのだ、エクス・カリバーン! ぐ、ぐわあああっ!」
 ハデスは、悪役らしいセリフを叫びつつも、酷い茶番だな、と考える。
 そして、ハーティオンの力を受けて強大化した聖剣デュランダルとバルムングが、一気にカリバーンを襲う。
「いっけえええええええええええ、デュランダル!」
「トドメだ、バルムング!」
「「二刀! 両断!!」」
 そして、カリバーンは綺麗に真っ二つに切り裂かれる。
「ヘルガイアの天才科学者である俺が、こんなところで敗れるとは……」
 そして、そのままコクピットの中でこの世界でのハデスは死亡した。

(――ハッ……どうやら目が覚めたようであるな。さて、元凶のコリマ校長のところに面会に行くのである。【彼女】のことで話を付けねばな……)

 そして、現実に戻ったハデスは、校長室の前でイーリャと鉢合せをしたのだった。