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正体不明の魔術師との対決準備?

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正体不明の魔術師との対決準備?

リアクション

「……これが装置なのよね」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は装置を手に取りながら、本当に効果があるのかとまじまじと確認していた。
「この装置……」
 ゆかりの隣に立つマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)も手に取り装置を確認していた。前回の事件からまだイルミンスールに滞在していたゆかり達は装置設置を手伝っていた。
「……(あの時、私が別世界に囚われた間、何があったんだろう)」
 ゆかりは装置を確認するマリエッタの横顔をちらりと見ながら赤面していた。頭の中はこの間起きた別世界に囚われる事件に巻き込まれた事を思い出していた。
「…………(カーリーのおかげで助かったのは確かだけど、何であんな……)
 現実に戻った際、なぜか相方と一糸まとわぬ姿でベッドで抱き合った件についてあれこれと疑惑が渦巻きとんでもない事に。
 しかし、
「カーリー、早く仕事を済ませよう」
 ゆかりの苦悶を知らぬマリエッタは平時と変わらぬ様子で作業に取り掛かり始める。
「……そうね。というか、本当にこれで魔法を凍結させる事が出来るの?」
 マリエッタの普段と変わらぬ声に我に返ったゆかりは装置について訊ねた。何せ魔法についてあまり精通していないので効果のほどについて不安だったり。
「出来るけど、それ以上に厄介なのはこれが起動している間、あたし達も魔法が使えなくなってしまう事よ」
 マリエッタは作業の手を止め、装置について話し始めた。魔女で魔法に精通するメイガスだけに効果だけでなく不安要素が見えていた。
「……それはまずい事よね」
 ゆかりはじっと手の中にある装置を見ていた。魔法が使用出来ないなら設置しない方が良いのではと思いながら。
「えぇ。でも魔法以外に戦闘の手段はあるからそれほど問題は無いとは思う。対策も立てようと思えば立てられるだろうから。それよりも凍結した後の事が気になるわ」
 マリエッタが強く不安を抱くのは魔法不使用よりも魔術師を凍結した後の事。
「……凍結した後」
 ゆかりが話を促す。
「凍結させて粉々に打ち砕くのか封印という形を取るのか。どの方法を取るにしても得たいが知れない相手だけにあらゆる事が考えられるのよ。打ち砕いたらまた再生するかもしれないとか封印だと解除されるかもしれないとか。対策はあるとは思うけど」
 マリエッタは長い解説を終えて少しばかり得意げだった。いつもと違って今回は主客逆転だから。
「……どちらにしろ二度と騒ぎが起きないようにしないと」
 ゆかりはマリエッタの指示の下、装置を設置した。
「……ところで、マリー、少し聞きたい事があるんだけど」
 設置を終えてからゆかりは恐る恐る気になっていた事を訊ね始めた。
「装置についてまだ気になる事でも?」
 装置の事だろうと思っているマリエッタは軽く聞き返した。
「……そうじゃなくて、この前、ほら、私が事件に巻き込まれて倒れた時」
 マリエッタの予想は外れ、ゆかりが口にしたのは前回の事件についてだった。
「……」
 思わず口をつぐむマリエッタ。もう何を聞かれるのか分かっている。
「……目が覚めたらどうしてあんな事になっていたの?」
 ゆかりは少々赤面気味に訊ねた。頭の中で考えるよりも事情を知っていると思われるマリエッタに聞く方が早いだろうと。
「……それは……カーリー、それより、あれ」
 聞かれたマリエッタの顔はみるみる赤くなり、返答に困り視線をゆかりから逸らした時、目の端で薫達から逃亡しはしゃぐヒスミをとらえ、注意をそちらに向けて話を誤魔化した。
「……ん、あれは逃亡中の」
 誤魔化されるもゆかりは無責任が嫌いであるためヒスミの話題から本筋に戻すような事はせず、ヒスミに声をかけに行った。事情は薫達の連絡で周知済み。
 そして、
「仕事をほっぽり出して遊んでいる場合じゃないでしょ」
 怒り心頭で叱るゆかり。
「……遊んでなんかいないぞ。仕事だってちゃんとしてるし」
 叱られてヒスミは怯まず口を尖らせ、身勝手な主張をする。
「仕事をしているようには見えないわ。そもそも大事な仕事を任されているのに少し無責任でしょ。ほら、仕事に戻る」
 我慢ならないゆかりはヒスミの腕を引っ張り、引きずってでも仕事に戻らせようとする。
「えー」
 ヒスミは不満の顔で踏ん張っている。せっかくの自由を諦め仕事に戻る気などさらさら無い。
「……そう、戻る気は無いのね」
 なかなか動こうとしないヒスミに業を煮やしたゆかりはにこにこと笑いながら『放電実験』を浴びせ軽くお仕置きをした。
「うぉっ!!」
 ヒスミは軽く悲鳴を上げ、そのまま気を失った。
「……カーリー、どうするの?」
「目を覚ましたらしっかりと仕事をさせるわ」
 ヒスミの処遇を訊ねるマリエッタにゆかりはにこやかに笑いながら答えた。
 この後すぐにヒスミを見つけた他の装置担当者が回収にやって来た。
 結局、ゆかりは前回の事件について今回はマリエッタに誤魔化されたまま再び訊ねる機会を失った。

「……設置ついでに双子捜しでもするか。どうせ他の誰かが保護している思うけど。あの二人は懲りないからな。隙を見て逃亡するだろうし」
 装置設置担当の一人である酒杜 陽一(さかもり・よういち)は設置場所に向かいながら溜息をついていた。マーガレットからの連絡で双子逃亡はすでに耳に入っていた。双子が元気になったのは嬉しいが、いつも通りの様子に呆れるも放っておく事は出来ないでいた。
 この後、すぐに『イナンナの加護』で遺跡に迷い込み怪物化した飼い犬に遭遇し、陽一は『ヒプノシス』で眠らせた。
「とりあえず、眠らせて大人しくしておくか。魔法薬なら薬を抜けば元に戻りそうな気はするが、詳しい事は探索をしている人からの報告を待つしかないな。それもなかったら上に任せるか」
 この後、探索者から獣正気化の手掛かりを含む情報を得た。陽一は博愛主義ではないが獣達が帰るべき場所に帰れる事を知ってほっとしていた。
 獣の次に出会ったのは魔法中毒者の男の幽霊だった。
「あぁ、あいつめ。あいつめ、私の、私達の試行錯誤したレシピを奪って逃げやがって……あいつめ……あいつめ……許さない……ははは、ようやくあの魔術師と同じ姿になった……いや、違う……どこか違う」
 男は憤怒や狂喜の顔になったりと忙しく顔色を変え、最後は諦念と絶望の顔をして消滅してしまった。
「……あの者が例の魔術師に関わり、同じになろうとある実験をした者か。身体が魔力の拒否反応を起こす者。抜け出した者がいくつか奪った特別なレシピ。気になる事ばかりだな。しかし、本当、幽霊には縁があるな」
 陽一は探索者から得た情報と照らし合わせながら遭遇した男について考えていた。古城変死伝説や幽霊老夫婦といい幽霊には会ってばかりだ。情報は忘れずに拡散した。