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指輪物語




朝倉 千歳(あさくら・ちとせ) イルマ・レスト(いるま・れすと) 林 則徐(りん・そくじょ) 



家具職人のアーヴィンの養子のオリバー。
それが俺だ。
マジェにあるロンドン博物館へお使いにいかされるのは、ガキの頃からのずっとやっている仕事で、大馬鹿親父のアーヴィンから渡された、手紙や品物を館長のデュヴィーン男爵に渡してくるだけの簡単な仕事だった。

「これは大事な仕事だ。人任せにはできねぇ。俺の息子のおまえだから任せられるんだ。
いいな。オリバー。必ず、男爵本人に渡すんだぞ。
待て、と言われたらいくら待ってもかまわない。
おまえが自分で男爵に会っておいてくるんだ」

アーヴィンが、働き手欲しさに孤児院から引き取った養子の俺をどれだけ信用しているか、俺にはわからない。たいしてされちゃいないと思うな。
でも、とにかく俺はガキの頃からもう10年以上も、アーヴィンの家でクソじじいと2人で暮らしてきた。
あいつがどんなに最低な野郎でも、仕事は一緒にしてやるよ。

仕事が早いくらいしかとりえのないアーヴィンから、渡された手紙を太りすぎで博物館よりも肉屋が似合うデュヴィーン男爵に渡して、それで、お使いは終わり、俺はまっすぐ家に帰る。
けど、今日は違う。
俺は、便器の上にのぼって、トイレの天井板をずらし、天井裏に入ると、デュヴィーン男爵がいるはずの館長室の真上に這ってむかった。
偶然、見かけた女の子、ブタ野郎のデュヴィーンが、俺の前でなれなれしくキャロルと呼んでいた女の子が気になったんだ。
マジェには娼館はごまんとあるし、娼婦だって掃いて捨てるくらいいる。
ついでに、娼婦と遊ぶ男連中も、まとめて山にして燃やしちまいたいほど大勢いやがる。
そっちの遊びのためにマジェにくる観光客も、一日に千や二千人はくだらないよな。
俺は、そんな連中の相手をしてる娼婦たちをどうとも思っちゃいない。
俺を産んで捨てたおふくろも、たぶん、娼婦だろう。
きっと、生きるのに精いっぱいで、それしかやりようがなかったに違いない。

単純に、デュヴィーンの白ブタが昼間から、俺よりも若そうな女の子を職場の部屋に引っ張り込んで、コトをしてるらしいのに、俺は、腹が立った。
昼間からだからか、ここが仮にも博物館だからか、ブタ人間が館長様だからなのかは、わからない。
とにかく、俺はやつのお楽しみを放っとけなかった。
ようするに、俺は、キャロルが気に入っちまったらしい。
超がつくような美人じゃまいけど、とにかく俺は気に入ったんだ。
一目ぼれってやつか。
這いつくばって館長室の上まできた俺は、天井板の隙間から部屋の中をみおろした。
キャロルとブタがおっぱじめてるんなら、キャロルがすこしでもイヤそうなら、板を蹴破って飛び降りてもいい。
あとで、アーヴィンに怒られても、かまわねぇ。

「ここには、なにもありませんね。
表にでている書物、装飾品も、見せかけばかりで、これといったものはありません。
らしいものを一通り揃えて並べているといったところです。
いやしくも博物館の館長職にあるのものならば、もうすこし知性を感じさせて欲しいですね」

室内でのたまわっているのは、メイドだった。
部屋にはキャロルもブタもおらず、メイドと、黒髪のアジアンの女の二人がいる。
メイドはあれこれ文句をつけながら、書棚や花瓶、絵画などの部屋の調度品をみていた。
東洋人の女は、男爵の机の引き出しをひとつずつ開け、中身を調べている最中だ。

「しかし、ここの警備員もたいがいのものだ。
ブラッドリーといったか。
私がジャスティシアだと知ると、自分の上司の部屋に、上司自身の許可もとらずに通してしまう。
あげく、こちらが聞きもしないのに、デュヴィーン館長は裏で犯罪を行っていっても怪しくない人間だなどと言って。
あいつは、私に媚びを売ってるつもりか。
ブラッドリーこそ人の中身ではなく、肩書きに尻尾を振るタイプの人間だな」

「千歳は人に期待しすぎるのです。
地球からの密輸や模造品に手をだす館長も館長なら、部下もその程度の人間以下のクラスのものしかいなくて当然ですよ。
優秀な人間は仕える人を選ぶものです」

「とすると、ブリジットは、イルマが仕えるのにふさわしい人間となるが」

「もちろんでございます」

「いま、笑わなかったか」

「いいえ。笑っておりません」

ジャスティシア。
密輸。
模造品。

デュヴィーンのクソは、かなりヤバイところに手をつっこんでるみたいだ。
マジェのヤードの指名手配どころじゃねぇ。
野郎。
国際規模の犯罪者かよ。
こいつらは、男爵の尻尾をつかみにきたんだな。
ブラッドリーのボケは、さっそく強そうな方に馬を乗りかえたってわけだ。
にしても、ブタ男爵とキャロルはどこだ。
どこへ行った。

俺は男爵たちを探すために他の部屋の上に移動しようとした。

「動くな。家具職人アーヴィンの息子のオリバーだな。
教えてもらおう。デュヴィーン館長はどこにいる」

いつの間にか横にきていた、俺と同じように這いつくばった姿勢の女が、燃えたぎる炎のかたまりを片手にのせ、レンズの奥の目で冷やかに俺をみていた。