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ニルミナスの休日2

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ニルミナスの休日2

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「えーっと……確かこのあたりが遺跡の入り口だって話だけど」
 プレライブ前日。観光がてらにニルミナスを回っていたリネンはその締めとして遺跡都市アルディリスの様子を見に向かっていた。遺跡は封印されているという話だが、その様子も含めて見ておこうとリネンは思っていた。

「やっぱりレバーやスイッチがあるはずよ」
「きっと合言葉で開くの」
「……流石にそんな単純な仕掛けではないと思うのであります」
「でも、意外と正攻法で開くんじゃないでしょうか?」

「あら、先客がいるのね」
 遺跡の入り口、封印されているというその場所には、封印を解けないかと調べている様子の四人の契約者。鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)及川 翠(おいかわ・みどり)大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)徳永 瑠璃(とくなが・るり)の姿があった。
「どう? 封印は解けそう?」
「難しいでありますな。ここを封印したと見られる人のメッセージは見つけたでありますが」
 肝心の封印の解き方については手がかりはないと剛太郎はリネンの質問に答える。
「こんな封印レバーさえ見つかればすぐに解けるのに」
 剛太郎に封印を解こうとせがんだ本人である望美はそう言ってずっとレバーやスイッチがないかと封印の周りを探し回っている。
「でも、この封印の奥って何があるんですかね? これだけ強固な封印ということはそれなりの何かがあるはずですけど」
「何があるか楽しみなの。ここの封印を解いて鍾乳洞を制覇なの」
 瑠璃と翠の言葉。その二人の言葉に他の三人は目を丸くする。
「もしかして、この奥に何があるか知らずに封印をとこうとしていたのでありますか?」
「? そうなの」
 剛太郎の言葉に首を傾げながらも頷く翠。
「ここは遺跡都市アルディリスの入り口よ。……といってもあたしもそう言う話を聞いてるだけだけど」
 と望美。
「遺跡さんなの!? どんなところか気になるの!」
「私も興味があります。まだ探検が本格的にされていない遺跡はパラミタではもう珍しいですから」
 好奇心が強い翠と瑠璃の二人はそう言って目をさらに輝かせる。先程までより封印を解こうと言う意気が強いことが一目でうかがえる。
「よし、それじゃ、早くレバーを見つけるわよ」
「開けゴマ!なの」
「……そして振り出しに戻るのでありますな」
 楽しそうな望美と翠の様子にそれでもいいかと思ってしまう剛太郎。
「メッセージ以外で何か分かったことはないの?」
 封印を前に考え込んでいる瑠璃にリネンは質問する。
「そうですね……この封印は封印をされてから正規の手段で開けられた形跡はありません。それで無理やりこじ開けられた様子もありません」
 封印の状態を観察して分かったことを瑠璃は言う。
「そうなの? 遺跡の封印は一度解かれているって聞いたけど……」
「そうなんですか?」
 おかしいですねと瑠璃は言う。
(……もしかして粛正の魔女?)
 村を観光する間にそういった存在がいることをリネンは聞いていた。
(……封印が解けたタイミングを考えるとその可能性が高いかも)
 その考えをリネンはひとまず自分の中に整理した。

「翠? そろそろ宿に帰るわよ?」
 封印の解き方をあれこれ模索している翠のもとに保護者であるミリアが迎えに来る。
「えー……封印さんまだ解けてないの」
「いいから。アンナさんがお腹空かせて待ってるんだから。………………待ってるわよね? 迷子になってたりしないわよね?」
「それをずっとここにいた私達に聞かれても……」
 あははと苦笑する瑠璃。
「急に心配になったから早く帰るわよ」
「うーっ……じゃあ明日も来るの」
「いいの? 明日は瑛菜さんたちがライブするって話を聞いたけど」
「ライブなの!? いきたいなの!?」
「じゃあ、明日はなしね」
「じゃあ、明後日はここに来るの」
「残念。明後日はもう帰る日よ」
 ミリアの言葉に残念がる翠。
「翠さん、また今度機会があれば来ましょう」
 瑠璃はそう翠を励ます。励ましながら自分自身封印を解いてみたいという好奇心は隠せていない。
「うぅ……次こそは鍾乳洞を制覇なの」
 翠はそう気合を入れるのだった。

「うーん……あたしたちもそろそろ帰ろうか? お兄ちゃん」
「そうでありますな」
「でも、レバーどころか手がかり見つからなかったのは残念だったわ」
「そうでもないでありますよ」
「? お兄ちゃんは何かに気づいたの?」
「今回の調査で見つけたものはなんでありますか?」
「えーっと、メッセージ?」
 五千年前の物と思われる魔術を利用したメッセージ。それが封印の片隅に貼り付けられていた。
「でも、あれって特に暗号のようにもなってなかったと思うけど」
「でありますな」
「……なぞなぞ?」
 剛太郎が何を言いたいのかわからないと望美。
「ヒントはそうでありますな……エロ本の隠し場所であります」
「…………何言ってるのお兄ちゃん?」
 従兄を少し引いた眼で見る望美だった。


「粛清の魔女に遺跡都市アルディリスね……あの子が聞いたら飛びつきそう」
 遺跡の封印を触りながら一人リネンはそう呟く。
「今すぐどうという話はなさそうだけど波乱はありそうね」
 ニルミナスの視察を終えてリネンはそう感想を持つ。
「帰りに村長のミナホって人に会いに行ってみようかな。荒事なら力になれるって伝えときたい」
 きっと今後ニルミナスはもっと多くの力が必要になる。そんな予感がするリネンだった。


『キシャーッ』
 そんな声を上げて襲い来る『本』をイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は剣の背で本がバラけない程度に叩き落とす。
「……本が襲ってくるとは相変わらず魔境であるな」
 イルミンスールの大図書館。そこでパートナーたちの護衛をしているイグナはそう言う。ニルミナスについて調べようと少し奥の階層に向かったイグナたちを待っていたのは本が襲ってくる階層だった。しかもその本自体も大切な情報を持っているらしく切り伏せたり燃やしたりするわけにもいけない。
「この本の調査もお願いするのだよ」
 叩き落とした本をアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)にイグナは渡す。
「ありがとうございます」
 イグナに渡された本を大事に受け取るアルティア。
「何か、分かったことはあるのであるか?」
「そうでございますね……アルディリスは生まれてから100年ほどしか存在しなかった街のようなのでございます」
 5000年ほど前に滅んだと思われるアルディリス。そこから年をさかのぼりその時代にあった街などを調べていったアルティアは、アルディリスの存在が5100年ほど前に地図からなくなったことをイグナに伝える。
「それでいて5000年ほど前はシャンバラでも有数の発展を遂げていたようでございます」
「ふむ……短くも繁栄を極めた街……いや、都市と言ったほうが正しいのであるか」
 他にはとアルティアは続ける。
「ゴブリンやコボルトたちが住んでいる森。今はイルミンスールの森の拡大でその一部になっているのでございますが、あの森は5000年前にも存在していたようなのでございます」
 そしてとアルティア。

「その森は『ミナの森』と呼ばれていたようなのでございます」


「どうして、あの時『ワルプルギスの夜』の夜が聞かなかったのか謎ですわ」
 本からは少し目を話してそう言うのはユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。
「一応、『ワルプルギスの夜』魔女の力ですのに」
「……多分、それを契約者の力によって強化されているからでしょうね」
 契約者になってから覚えたスキルはもちろん、本来持っている力もなんらかの形で契約者の力は強化し、その影響下になっているのだろうと非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はユーリカの質問に答える。
「そうだとしても納得いかないことがありますわ。ユニコーン防衛の方では雷の魔術が威力は落ちてもある程度は効いていたらしいのですわ」
 それなのに自分のワルプルギスの夜や裁きの光はほぼ無効化されてしまったのかと。
「……物理現象として説明できるかどうかじゃないでしょうか」
「どういうことですの?」
「完全な物理現象としてなっているものであればそれはもう契約者の力を離れているんじゃないかと思います」
 例えば火属性の魔術を使う。その火自体は魔術の結晶だろう。だがその火によって木が燃え始めるのは単なる自然現象だ。そこにはもう魔術も契約者の力も関係ない。
「『炎熱』『雷電』『氷結』の単一属性の魔術であればある程度粛正の魔女にも効くと思います」
 あくまで仮説ですがと近遠。
(ですが、そう外れていないはずです)
 黄昏の陰影と呼ばれる粛正の魔女の加護を受けた襲撃者たち。彼らに対して近遠はまるで異世界の存在のように感じていた。まるで画面の向こうの存在だと。だからこそその存在が感じにくく、力も通りにくい。
(まるで自分たちとは違う理にいる存在)
 だからこそ同じ理である物理現象を通してなら彼らに影響を与えられる。
「……同じパソコンの中に別々のOSを入れて、それぞれでハードディスクにあるファイルを動かしているような感じでしょうか」
「何を言ってるんですの?」
「……例えが難しいですが、簡単に言うと粛正の魔女とボクたち契約者は互いに違うシステムにしたがって存在しているということですよ」
「……それもよくわかりませんわ」
 難しい顔をするユーリカ。
「『炎熱』『雷電』『氷結』の単一属性の魔術ならある程度効くと分かっていれば大丈夫ですよ」
「それなら分かりますわ」
 頷くユーリカ。
「さぁ、もう少し調べましょうか。いろいろとまだ分かるかもしれません」
 理論を現実に近づけるため、近遠はまた調査に移る。



「すまんの。あの子は涼しい部屋から一歩も出たくないといっての」
 イルミンスールの大図書館。アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は自分のパートナーを訪ねてきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)にそう言う。
「らしいですね。そういうことならまた今度にします。少し相談したかったんですけど」
「私でよければ少しなら相談に乗れるのじゃ」
「ニルミナスって村を知っていますか? ここから結構近い位置にある村で、アゾートも何度か行ったことのある村なんですけど」
「もちろん知ってるぞ」
 ルカルカの言葉にアーデルハイトは頷く。
「行ったことあるんですか?」
「いや、行ったことはないの」
 じゃがとアーデルハイト。
「あの村の村長とは旧知での」
「ミナホと知り合いだったんですか?」
 意外な所で繋がっているとルカルカは思う。
「ミナホ? はて、どこかで聞いた名ゃが……あの村の村長はミナスであろう?」
「ミナ……ス? ミナスって『ミナスの言い伝え』のミナスですか?」
「うむ。少しだけ懐かしいの。最後にあったのはパラミタが再出現した頃だったかの。今から、10年ほど前か。その時に互いにパラミタに戻ってから何をしたいか話たものじゃ」
 懐かしむように続けるアーデルハイト。
「自分の住んでいた街が滅んでいたらその近くに村を作りたいとミナスは言っておっての――」
 アーデルハイトはまだなにか言っているがルカルカの頭には入ってこない。
(……ミナスは10年前まで生きていた?)
 イルミンスールの大図書館。その迷宮を効率よく探して行ったルカルカだが、そこで得た情報よりも今アーデルハイトのもたらした情報は大きい。
「――それで、ミナスはネーミングセンスが残念での。『ニルミナス』という名前は実は私が考えたのじゃ。村が大きくなったら招待してくれるという話じゃったが……」
 早く呼ばれないかとアーデルハイトは言う。
(……カルキに連絡しよう)
 このことを知っているはずの人の近くにカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はいるはずだから。


「なぁ……前村長。ミナスは今どうしているんだ?」
 カルキノスはルカルカの情報から単刀直入にそう聞く。
「『ミナスの言い伝え』のミナスですか? 死んだのではないですか?」
「それが、10年前にも生きてたらしい。ニルミナスを作ったのもミナスだそうだ。……知らないはずないよな?」
「私以外も村を作った人間はいますよ。みなミナスなどその言い伝え以外知らないと言うはずです」
「……自分が知らないとは言わないんだな」
「…………」
 前村長は答えない。
「なぁ、10年前。村が出来る時何があったんだ?」
「………………」
 前村長は答えられない。
「……そんなに辛いことがあったのか」
「……それが、私にとってのすべての終わりで……ミナホとの歪んだ親子関係の始まりだったんです」
「……今、それを話すのは無理か」
「すみません」
「いつか話してくれるよな?」
「私にとってのすべてを失う前には必ず」
 カルキノスは静かに頷いた。






「うーん……三日間歌の師匠探したけど見つかりませんね」
 とぼとぼとミナホは重い足取りで歩く。
「やっぱり瑛菜さんに頼むしか…………」
 そう思っているミナホの目にちょうどギターを弾く瑛菜の姿が映る。
「―――♪」
 歌いながらギターを弾く瑛菜を子どもたちがキラキラとした目で見つめている。

「………………子どもたちの先生を奪うことはできませんね」
 寂しい足取りでミナホはウエルカムホームへの道を進むのだった。