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 現在から8年後。

 とある忍者の邸宅一室。

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! 我らオリュンポスは、今後、この紫月邸を拠点に活動するとしよう!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)の高笑いが室内に響く。先の決戦にて拠点を失うもオリュンポスに所属する紫月 結花(しづき・ゆいか)のツテを頼りに紫月邸という新たな拠点を入手していた。
「なんかうるさいと思ったら……というか前に蒼空学園の決戦で大負けして吹っ飛ばされてなかったか?」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が聞き知った声を耳にして部屋にやって来た。そしたらいつの間にやらハデスがいたという。
「何を言う。あのような事ぐらいで我らオリュンポスが諦める訳がなかろう。我らは何度破れようとも不滅だ。世界征服を達成するまで我らに休息は無い」
 先の蒼空学園での決戦にて正義の契約者に大敗したはずなのにハデスは変わらずの元気さである。
「……まだソレ言ってんだな。ある意味すげーけどさ。歳を考えた方がいいんじゃねぇか。とりあえず、部屋をめちゃくちゃにするなよ」
 34歳とそれなりに年齢を重ねたためか唯斗はハデスのテンションを普通に感じるようになり拠点にされた事も室内が秘密結社仕様になっているのも受け入れていた。
 声の主を確認した唯斗は部屋を出て行った。

 唯斗の退室後。
「……しかし、この歳になると、正義の契約者に負けて吹き飛ばされた時の傷の治りが遅くなっていかんな」
 疼く傷に眉を寄せる30歳のハデス。加齢による肉体の限界を徐々に感じているらしい。
「さて、先の決戦にて戦力を消耗したオリュンポスにとって戦力の立て直しが急務だ!
我がオリュンポスの一員、紫月結花よ!」
 ハデスは表情を戻し、オリュンポス立て直しのため部下である結花を呼びつけた。
「何か用? ハデス」
「お前に任務を命ずる! 紫月唯斗をお前の魅力の虜にし、我らオリュンポスの戦力として取り入れるのだっ!」
 現れた結花にハデスは重要任務を命ずる。
「分かったわ。必ず私が唯斗兄さんを誘惑してみせるわ! ふふふ、魔女の秘術で若さを保っているこの私の美貌。この最大の武器を使えば兄さんは必ず私の虜になるはず」
 結花は任務を引き受けた後、魅惑の笑みを口元の端に浮かべた。結花は26歳だが、魔女であるため肉体年齢は20歳前後の外見を保持したままである。

「急に人が増えたな」
 唯斗は増えた人数込の夕食の買い出しに出掛けようとする。
 そこに
「唯斗兄さん!! 私のこと、どう思っていますか?」
 使命を帯びた結花は唯斗の前に立ち塞がった。
「……いきなり現れて何を聞くかと思えば、どうっておめぇさんは自称妹だしなぁ」
 と唯斗の結花の認識は昔と変わらずであり、今では何となく受け入れてもいる。
「……虜になりませんか? こんなに若くて美人で」
 結花は魅惑のボディをさらに主張するが、邪魔が入ってきた。
「結花さん! 何言ってるんですか」
 野菜の入った籠を抱えた紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が二人の間に割り込み、唯斗を護るかのように立ち塞がった。睡蓮ももう26歳。アリスであるが出自が特殊なため普通に身長も伸び、胸も大きく膨らみ成長していた。現在では美人巫女として近所の人気者である。手に持つ野菜は貰った物だ。
「むっ、睡蓮さん、また私の邪魔ですか。どういうつもりですかっ!」
「邪魔も何も自分で実妹って言ってるんですから諦めたらどうですか!」
 結花と睡蓮の馴染みのあるやり取り。
「……相変わらず仲良いよなー」
 見守る唯斗は和むばかり。互いが優先するのは唯斗の存在であるが仲良しではある。
「……そんなの何の障害にはならないわ。私と唯斗兄さんが結ばれるのは絶対の摂理なんだから」
 睡蓮の正論などに負けない結花。任務いや自分の望みを叶えようと必死である。

 それを遠巻きに眺めるのは
「……可愛いですね、結花様は。あの薄幸な感じが堪りません。マスターの嫁どうこうは愛人である私には関係無いのですが、あの可愛さに引き寄せられて参戦でも致しましょうか」
 昔と変わらぬ姿を保つ無表情美人プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)である。プラチナムは早速参加するべく馳せ参じた。
「結花様」
「むぅ、あなたも私の邪魔をするつもり!?」
 登場したプラチナムに嫌な顔をする結花。
「いえ、事実を述べようと思いまして」
「事実?」
 敵対するつもりがなさそうな事から結花はプラチナムを促した。
「はい。魔鎧である私はこの通り美貌永久保存版であるという事実です」
 プラチナムは淡々と昔と変わらぬ美貌を主張し始めた。
「……くぅう」
 改めてプラチナの姿を確認した結花は言葉を失い、がっくりと肩を落として震えた。
「ああ、ちょっと凹んだ結花様、可愛いです。部屋に連れ込みたいです……ハァハァ」
 あまりにも可愛らしい結花の姿にプラチナムの悪い虫が騒ぎ始める。
「プラチナさん?」
 睡蓮が怪訝にプラチナムの様子を窺う。
「睡蓮様、マスターとハデス様はお任せしました。私は結花様とちょっとお話をするため数時間部屋に籠らせて頂きます」
 プラチナムは睡蓮に後の事を任せ、
「さぁ結花様、ちょっと私の部屋へ来て頂きます」
 そう言うやいなやプラチナムは結花を抱える。
「ちょっ、どういうつもり!?」
 何とか逃れようと四肢をばたつかせるも結花とプラチナムでは身長差があるためか逃れられない模様。
「あの……」
「大丈夫です。通常運転ですのでご安心を。それでは」
 結花の様子に心配を深める睡蓮にさらりと言ってプラチナムは自室へと結花を連れ込んだ。
「……大丈夫ならいいですが」
「ったく、あのアホ魔鎧が。というかまた新たな客だ」
 残された睡蓮は結花の身を案じ、唯斗はプラチナムに呆れるも新たな来客に視線を向けた。この後、プラチナムの部屋から結花の悲鳴などが聞こえるも誰も気付かなかったとか。
「あぁ、アルテミスさんとキロスさんですね。あの二人相変わらず同じ事を繰り返していますよね。二人とも素直に話せばいいのに」
 睡蓮は窓の外で繰り広げられていアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)の激しいいちゃつきに溜息の一言。
「二人がいちゃついて庭を破壊し尽くさないように見張っててくれ。俺は買い出しに行って来る」
 唯斗は後の事を睡蓮に任せて買い出しに出掛けた。
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
 睡蓮は唯斗を見送り、野菜を片付けてから庭の方へと様子を見に行った。

 庭。

「……ふぅ、キロスさんの事を考えると胸が締め付けられるように苦しいです。これは……」
 24歳の美しい女性に成長したアルテミスはベンチに座り胸に手を当てながら痛みの原因について考えていた。
 そして、成長したアルテミスが出した答えは
「……あの時の蒼空学園の決戦で敗れた痛みですね! となれば、キロスさんに勝利すれば解放されるはず!!」
 昔と同じでブレていなかった。端から見れば恋心と一目瞭然なのだが当人は恋心と敵対心を勘違いしたまま。
 その時、
「……ようやく突き止めたぜ。よくもまぁ、あの決戦から生き延びたもんだな」
 オリュンポスを完全に殲滅するためにキロスがやって来た。実は、決戦にてオリュンポスを壊滅させた剣士でもある。
「キロスさん!!!」
 キロスのまさかの登場にアルテミスは剣を取り、斬りかかった。
「うぉっ!?」
 キロスは不意の攻撃に驚くも難なく避けた。
「キロスさん、貴方には負けません! キロスさんを倒し、この胸の苦しみから解放されてみせます!」 
 アルテミスは剣を構え直し、 敵対心と勘違いした恋心を口にした。
「はぁ? 胸の苦しみ? 何言ってんだ?」
 訳の分からぬアルテミスの発言に間の抜けた声を上げるキロス。
「オリュンポスの騎士アルテミス、いざ、参ります!」
 威勢の良いかけ声と共にアルテミスは再び攻撃を仕掛けに行った。
「来るなら仕方ねぇ」
 キロスは武器を構え直し、迎え撃った。
 交戦開始後しばらく
「……これ以上荒らされては兄さんが困ってしまいますね」
 程々の所で睡蓮が矢を放って止めた。

 その頃、屋敷の一室では
「……次なる作戦は、空京銀行の襲撃だ! 早速、準備を整えねば」
 ハデスが次なる作戦を閃いていた。

■■■

 覚醒後。
「如何なる苦境とて我らオリュンポスを阻むものとはならんな」
 世界征服を諦めろという未来の訴えなどハデスの前では塵に等しいようであった。
「……それなりに楽しい未来でしたね」
「……」
 それなりに満足のプラチナムと顔色の悪い結花。
「いつもと変わりませんでしたね」
 睡蓮は唯斗に今とそう変わらぬ未来に笑いながら言った。
「それが一番だ」
 唯斗にとって皆で笑っていられる世界こそが幸せなのだ。
「……いつもより胸が痛いです。薬の副作用でしょうか」
 勘違いしたままのアルテミス。未来は明らかに恋心に気付けと訴えると共に登場したキロスは明らかに正義感と秘密結社の任務との間で揺れ動くアルテミスの葛藤の象徴でもあった。
 唯斗達は明るい未来をハデス達は暗い未来を体験し、皆それなりに満足していた。