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リアクション
第4章 砂嵐の向こう側へ Story3
宝石使いの助力で、祓魔術を行使する者が潰せない。
ここはやはりクローリス使いを痛めつけて、不快な香りを止めてやるか。
ボコールはクリストファーに標的を変更し、彼の頭上に射的ようなマークを浮かべた。
「召喚者を狙いにきたか」
ターゲッティングで的確に、倒しにかかったきたようだ。
ディメンションサイトの空間認識能力で、風圧の流れを感じ取る。
「(アニス、クリストファーが狙われている)」
「(時の宝石を使えばいいんだよね♪)」
エターナルソウルに祈りを込め、風の刃を回避させようとさせる。
足元を崩そうとした一撃目、ニュンフェグラールを抱える腕を狙った二撃目は間髪かわせた。
しかし魔性の力を利用した攻撃は、それだけで終わらなかった。
彼らにとって邪魔な存在、クリストファーを執拗に狙う。
「(2人の詠唱が間に合わないか)」
和輝はアニスの視線に合わせて曙光銃エルドリッジを撃ち、ボコールの術の軌道を逸らそうとする。
気配が退いたように見えた、とテレパシーで伝えられたが…。
風の刃はポイント目掛けて軌道を変更しクリストファーへ迫る。
「(くっ、間に合わないか。アニス、すぐ近くにいるやつに宝石の力を!)」
「(う、うんっ)」
こくこくと頷いたアニスはエターナルソウルで夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の走行力を上げる。
「―…ぬぅう」
彼に倒れられては、ボコールを引き寄せているシィシャが真っ先に、呪いの餌食となる。
召喚者を守るべく壁となって背で受け止めた。
「すまない…!」
「気にするな。おぬしらのような、使い魔を扱う者を狙ってくるようだからな」
ガードを崩しにかかるとしたら、やはり彼らが集中的に襲われる。
さらに、それを守る者も同様だろうと理解し、ルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)が放つ光線の先を見る。
「砂嵐の中から、何かくるみたいなんだよ!」
アメーバーのような灰色の塊りを目的して声を上げた。
「む、いかん。甚五郎までターゲッティングされてしまった」
彼の頭の上に浮かぶマークを見つけた。
それがパートナーのほう目掛けて這うようにやってくる。
「甚五郎、召喚者を連れて離れるのじゃ」
草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)にはそれが何か、すぐに分かった。
クローリス使いを潰すために、彼が邪魔だと判断されたのだろう。
石化の魔法にかけられてしまったら、次に狙われるのはクリストファーだ。
ボコールたちもそう何度も回避を許すはずもなく、複数の術者がペトリファイの魔法で彼らを取り囲む。
「(和輝、アニスに助けさせるか?)」
エターナルソウルの力を与えて回避させてはどうかとリオンが言う。
「(いや、術者を倒すのが先だ。やつらは守り手を倒すのにやっきになっている。倒すなら今だ。進入が遅れるほど赤い髪の子供の心臓が奪われ、死なせてしまう)」
いまだに先発者を突入させられない状況に、ロスタイムはできないと告げた。
僅かな隙を見せた彼らを倒すなら今だろ、と和輝はかぶりを振った。
「(うーむ、だが…)」
「(ここで時間をかけるわけにはいかない。リオンは取り込まれた魔性の開放に集中してくれ)」
「(―…承知した)」
無愛想なリオンでも心苦しく思ったが、彼らに集中しているボコールを倒すことに専念することにした。
「ぬぁあっ」
「あぁ、クローリスくんがっ」
石化の魔法にかかり、満足に精神力を送れなくなったクリストファーのクローリスが帰還してしまった。
「甚五郎、クリストファー!」
血を肉にの魔法で石化を解除してやり、草薙羽純は2人を服を掴んで離れようとする。
炎の翼で彼らを運ぶ草薙羽純の背を目掛け、大気のトゲが絡み付こうとしてきた。
「呪いか」
砂嵐のほうから“女を捕まえたぞ!”と歓喜の声が聞こえる。
「く、…うぅ。急に力が入らなってしまったのじゃ」
だんだんと高度が下がり、砂の上に倒れてしまう。
「体力低下の症状が危険だね。ポレヴィークさん、解毒剤を作ってもらえる?」
苦しげに身体から汗を流し、なかなか立ち上がれない草薙羽純を目にしたクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、腐敗毒の治療薬を作ってほしいとポレヴィークに頼む。
「貴方がそう望むのなら、作ってあげなくもなくってよ」
召喚者のクリスティーに対して上から目線の態度をとりながらも、キレイな葉の器に丸薬を作ってやる。
「ふぅ、ずいぶんと下賎な輩に手間取っているようね」
「ディアボルスに捕まっている子供を救出するには、余力を十分に残しておかなくてはならないから。僕たちは、進入させるための支援だね」
「まっ、そのようなことは、理解している。さっさとそれを食べさせることね」
手伝ってやるのはそれくらいだという態度をして、呪いにかかった草薙羽純の姿を黄緑色の双眸に映す。
「そのつもりだよ」
「お待ちなさい」
草薙羽純のほうへ向かおうとする彼をポレヴィークが止めた。
「クローリスの力もなしに救助を?呪いの餌食にいくようなものだわ」
「エターナルソウルの力をもらえば…」
「それも、あちらは分かっているのでは」
すでに彼らに知られてしまっている面もある。
クリスティーの血の情報でポレヴィークはボコールが祓魔師について、どこまで知っているか把握している。
「リオンさんとグラルダさんが、術者を倒すまで待てというのかい?」
「貴方自身が、呪いにかからないようにするためならね」
「無理だよ…」
助ける手段が、手の中にあるというのに…。
見ているだけなんて自分にはできない。
ふるふるとかぶりを振り、草薙羽純の元へ駆け寄っていく。
「クリスティー、まだ来ちゃいけない!」
「自分の安全のためだけに、止まっていられないのだろう」
彼の優しさが足を動かしてしまったのだろうと甚五郎は小さく微笑する。
「しかし…」
「相手の能力で判断したのやもな。…それよりクリストファー、まだクローリスを呼べるか?」
周りの仲間を信頼してこその行動だろうと言い、また呪いを使われる前に召喚してくれと言う。
「あぁ、もちろんだとも」
クリストファーはニュンフェグラールを掲げ、クローリスを再召喚しようとする。
「甚五郎…、石化の魔法がくるのじゃ」
ふらつきながらも立ち上がった草薙羽純の目に、石化の魔法の接近が目に入った。
「おぬしは解呪に集中していろ」
「うむ、すまぬ…」
「(儂が壁になるしかあるまいて)」
3人の前で仁王立ちし、ペトリファイによる石化から守る。
「羽純さん、解毒薬だよ」
「かたじけない」
草薙羽純はクリスティーの手から受け取り、ほろにがい薬を噛み砕く。
体内の腐敗毒が死滅していき、元の血色へと戻ってきた。
「フフッ、待たせたね。…クローリスくん、もう1度キミの素敵な香りを分けておくれ」
クローリスは不満そうに文句を言いつつ、主である彼のために薄いピンク色の花びらを撒き散らす。
「夜刀神くん、ありがとう。今、元に戻してあげるよ」
石化してしまい動けなくなった甚五郎を、血を肉にの魔法で元の姿に戻す。
「ぬ…っ。クローリスの召喚に成功したようだな」
「おかげさまでね」
「さて、あちらの状況はどうだろうか。ルルゥ、気配を探知してくれ」
「うん!ん〜っ、重なっている気配が減ってきたんだよ。手前のほうまでだから、奥のほうはどうだか分からないけど」
「突入は可能だろうか」
「回復しながらじゃないと大変かもなんだよ」
いくら探知しても伝えきれず、傷を負ってしまう者もいるだろうと言う。
「途中までは同行しよう。儂は外でのサポート兼、やつらが町へ向かうか見張らねばならんからな」
「分かったんだよ!」
「(俺たちもそこまではサポートするか)」
和輝は突入組みのサポートをしようと、アニスとリオンを呼ぶ。
自分のスキルがどこまで通用するのか、銃を握ったまま砂嵐へ足を踏み入れた。
「(スキルで緩和できるか試す。それまで2人は外で待機だ)」
グラビティコントロールで砂嵐を緩和して進めるか試してみた。
「(―…っ、さすがにこのスキルだけでは厳しいか)」
エアリエルの力を利用したボコールたちの魔術により、風力を和らげるのは困難らしく、テレパーシでアニスとリオンにそれを告げた。
「(使わないよりは、マシだろう和輝)」
「(あぁ。…乗り物に乗っていては、風で押し戻されて飛ばされる危険がある。2人共、降りろ)」
「(ふむ…)」
運動せねばならんのか、と嘆息しつつアニスの手を握り、砂嵐の中へと進入する。
「羽純おねーちゃん、縄に巻かれちゃうんだよ!」
「ルルゥ、体調に変化はあるかのぅ」
「あれれ?へーきみたい」
「クローリスの効果は、風力を受けて散ることはないようじゃな」
特に変わった様子はなさそうだとルルゥを見る。
「はわわわ、羽純おねーちゃん。なんか飛んでくるんだよ!」
「妾から離れるでないぞ」
アークソウルの石化耐性力で先発者の前を進んでいたが、放たれたエアスライサーが進入を拒む。
「羽純、ルルゥ。なんとか耐えてくれ」
甚五郎はヒールで傷を治療しながら術者の盾となる。
「む、それほど傷ついていないように思えるが?」
「外で待機している2人が回復してくれているのじゃろう」
進入の手助けをする組が、何人か外に残っているのだと言う。
クリストファーとクリスティーの2人が、命の息吹と大地の祝福で砂嵐の外からサポートしている。
「―…は、羽純おねーちゃんっ。気配の数が多くなってきたんだよ!!!」
「ううむ。残してきてしまった弥十郎たちと交代するかのぅ」
本来のポジションに戻るべく砂嵐の外へ向かう。
「(術者からだいぶ魔性が離脱したようだ。俺たちも戻るか)」
風圧で息をするのも苦しかったが、彼らからエアリエルが離れたことで、だんだん呼吸が楽になってきた。
パートナーにテレパシーを送り、和輝も3人に合わせて外へ戻った。
「戻ってきたみたい。弥十郎、私たちも行くわよ」
「おっけー♪あ、グラルダさん。ここよろしくね」
「アタシと話すより、合流を急いだらどう?」
「冷たいなぁ〜。じゃあ頑張ってくるね」
冗談交じりに言い、先発者に合流しようと弥十郎は斉民と砂嵐に入った。
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