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夏合宿、ざくざく

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夏合宿、ざくざく

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    ★    ★    ★

 さらにザブザブと進んで行った源鉄心たち一行は、7番区画に入りました。
「次は、ここですうさー。ここも、なんにも出ない……あれ、あれあれっ!?」
 ここもまた何もないと思ったティー・ティーでしたが、突然様子が変化していきました。海面からモクモクと霧がたちのぼり始めて、視界を奪っていきます。
「出ましたうさー!!」
 ティー・ティーが叫びました。ミニうさティーとミニいこにゃーたちがパニックになって、キャアキャアと逃げ回ります。
 霧の中から現れた娘が、逃げ回るミニミニ軍団を睨みつけました。
 娘は、海中に沈みもせずに、水面に爪先で立っています。まるで、重さがないかのようです。衣服を纏わぬその身体には、白く結晶化した蛇たちが幾重にも纏わりつき、朧に輝いて周囲を照らし出していました。まさに、幽霊という感じです。
「見ちゃダメですわ」
 すかさず、イコナ・ユア・クックブックが源鉄心の目を両手で塞ぎました。
「蛇さん……、ボーさんのお知り合いですかうさ?」
 ティー・ティーがインファントプレイヤーで幽霊とコンタクトをとろうと試みますが、返事はありません。
コウジン・メレ様?」
 テンク・ウラニアが軽く礼をしました。そこへ、結晶化した蛇たちが鞭か槍のように襲いかかってきます。
「降鈴!」
 錫杖のように光条ののびた鈴矛を一振りして、テンコ・タレイアが結晶化した蛇を砕きました。
「姿はどうあれ、どうやら、違うようですねえ。分身?」
「コピーでしょう。降弓!」
 すぐに、テンク・ウラニアも梓弓を取り出して応戦しました。
「本体じゃないんなら。やっつけた方がいいのか」
「ええ。本人を炙り出すためにも」
 なんだか、仲間なのか敵なのか、テンク・ウラニアがよく分からない態度をとります。
「本人? いいえ、私たちは本来一つ。あなたたちは知らない? 一つになる方法を。この世を、私で満たす方法を。無から、個への道を」
 散発的な攻撃を繰り出しながら、幽霊がつぶやくように言いました。
「その問いは、散楽の翁様にお訊ねなさい。憑きし者よ。そこが、お前の終の場所」
 光条の破魔矢を放ちながら、テンク・ウラニアが言いました。
「ウラニア……」
 何を言うのかと、ちょっとテンコ・タレイアが驚いた顔をしました。
「散楽の翁……。求心の虚像から私を救い、私を封じた者……?」
 そのテンク・ウラニアの言葉を、幽霊が吟味するかのように考え込みました。その一瞬です。逃げ回っていただけのミニいこにゃーの一団が、スイカを投げつけました。ゴツンと、みごとに幽霊の頭に命中し、幽霊の姿がわずかにゆらぎました。
「今、うさ!」
 そこをティー・ティーが神威の矢で狙い撃ちます。さらに、テンク・ウラニアの破魔矢が幽霊の身体に突き刺さりました。姿形を維持できなくなった幽霊が、周囲の霧と同化していきます。
「悪しき影よ、去れ!」
 遅ればせに、源鉄心が悪霊退散で祓いました。すーっと、霧が消えていき、辺りが元のように晴れ渡ります。
「やっつけたみたいですうさ」
 幽霊がもうどこにもいないことをミニうさティーたちに探させて、ティー・ティーが言いました。
「ああああ、スイカにゃあ!!」
 幽霊にぶつかって粉々になったスイカの破片をミニいこにゃたちにおずおずと差し出されて、イコナ・ユア・クックブックがあらためて悲鳴をあげました。
「終わったでござるか?」
 ちゃっかりサボりを決め込んでいたスープ・ストーンが、あらためて訊ねました。
「いや、あの幽霊は本命じゃなかったんだろう? 頑張って、本体を探すんだ。次の場所にむかうぞ」
「うん、見つけちゃうぞー」
 源鉄心の言葉に、テンコ・タレイアが応えました。

    ★    ★    ★

「なんや、騒がしなあ。近くで幽霊でも出たんやろか」
 念のために殺気看破で第9区画の周囲を警戒しながら上條 優夏(かみじょう・ゆうか)が言いました。
「ひとまずは、近くにはおらへんようやな」
 周囲に殺気を感じないので、上條優夏がちょっとほっとしたように胸をなで下ろしました。
「あたしのサンダーバードも周囲を警戒しているから、大丈夫だよ!」
 深みで転ばないようにと、チルナ・クレマチス(ちるな・くれまちす)の手をとったフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が、自信たっぷりに言いました。海のの中なので、さすがにビキニの水着です。それを見た上條優夏が、ちょっとドキドキして顔を赤らめます。
「あたいは、がんぱってすっごいたからものさがしたあい〜」
 スクール水着を着たチルナ・クレマチスが、やる気満々で言いました。どちらかというと、殺気看破に、幽霊の殺気よりも、チルナ・クレマチスのやる気の方が引っ掛かりそうです。
「よっしゃ、思いっきりきばりなはれや」
 その心意気やよしと、上條優夏がチルナ・クレマチスの潜在を開放しました。
「む〜ん」
 チルナ・クレマチスが、トレジャーセンスを全開にします。ピコン。真下の方から、何かの反応がありました。足許に何か埋まっているようです。
「よっしゃ、任せとき」
「頑張ってね、優夏」
 フィリーネ・カシオメイサに声援を送られながら、上條優夏が張り切って海底を掘りました。
「ぷっはー」
 ほどなく、埋められていた宝箱と、海底にあった桜貝の貝殻を両手に持って掲げます。
「はいな、お宝はチルナに。フィリーネにはこちらの桜貝を……」
「わーい」
「桜貝かあ。綺麗だよね。ありがとう♪」
 上條優夏からお宝を渡されて、チルナ・クレマチスとフィリーネ・カシオメイサが喜びます。
「ゆーかとふぃーって、ぱぱとままみたいになってるね〜」
 嬉しそうなフィリーネ・カシオメイサに上條優夏が桜貝を手渡す様を見て、チルナ・クレマチスが言いました。
「パパとママかあ、それも悪くないかも」
 ちょっと頬染めたフィリーネ・カシオメイサのつぶやきに、釣られて頬を染めてしまう上條優夏でした。
「それで、チルナのお宝はなんだったんや?」
 上條優夏に言われて、フィリーネ・カシオメイサが宝箱を開けてあげました。
 中から出て来たのは、『パンツーハット緑』です。
「わーい、ぱんつー」
 チルナ・クレマチスが嬉しそうに、緑色の大人パンツを高々と掲げます。これで、はれてチルナ・クレマチスはP級四天王グリーン番長です。
「いや、それは、どないせいちゅうねん」
ひとまず、預かっておくよね
 さすがに、フィリーネ・カシオメイサがいったんパンツーハットを預かりました。
「えーっと。じゃあ、ぱぱゆーかのぶんも、おたからさがしにいくうー」
 そう言うと、チルナ・クレマチスは、ザブザブと岸にむかって歩き始めました。