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第2章  ハイナと良きかな御食事会


 かくして、白線の内側にはただ独りの選手だけが立ち残っていた。

「きゅー♪」

 そう。
 誰もかもが、予想だにしていなかっただろう。
 というか、低身長すぎてその存在さえ忘れていたのではなかろうか。

「きゅきゅー?」
「わーい!
 くるみおねえちゃーん!」

 最後に残ったのは、胡桃だったのだ。
 フランカのポンポンが、色とりどりに舞った。

「勝者、ハイナチーム!」
「でかしたでありんす〜!」
「なんですって……」

 房姫の審判に、喜びと哀しみが溢れ出る。
 いろいろな声が、想いが、房姫へとぶつかって、儚く消えて。

「よい試合でした。
 どちらもお見事でしたわ」

 微笑みとともに、房姫は拍手を贈った。

「さぁ〜てと、俺にとっちゃぁこっからが本番だぜ。
 おぃ、ハイナ!」
「む、なんじゃ?」
「悪い話じゃないさ。
 昔の知り合いと、久しぶりに会ったんだろ?」
「ぁ、うむ……」
「そんなに喧々しないでさ。
 勝負が終わったなら、今度は一緒に楽しもうぜ!?」

 そう言って、垂はハイナとアリスの眼前へと酒瓶を突き出す。
 腹を割って話すには、呑むのがイチバンだと考えたからだ。

「ルカルカ達も、お茶会の準備をしてみたんだよね。
 お酒も一緒にさ、みんなで打ち上げでもしようよ!」
「そうだぜ。
 いがみ合っていても、なにも生まれないからな!」

 垂の話にのってきたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
 ハイナを想う一人として、ハイナとアリスの関係性を回復したいと考えたのだろう。

「忘れるな〜俺もいるぜ〜!」
「お、カルキノスが戻ってきたね〜」
「よいしょっと。
 食堂でご飯を食べ物も準備してくれるそうだ!
 葦原の上手いモン、今日もたらふく喰ってかえるぜ〜っ!」

 ルカルカが振り返れば、こちらへ歩みくるカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の姿が。
 串を加えており、既になにかしら食していることが見てとれる。

「んじゃまぁ、早く移動しよう……」
「そうかそうか!
 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!
 皆の者、俺についてくるがよいっ!」

 試合の参加者に呼びかけようとした、言葉はまだ最後まで言い終わっていなかったのに。
 カルキノスの台詞に被せて、ハデスが名乗りを挙げる。
 ばさぁっと翻した白衣に、人によってはなんとなくだったり喜んでいたりしつつ、ついて歩き始めた。

「っちょ、おいっ、俺の手柄はっ……」
「ドンマイだね」
「ありがとうでありんす」

 いつの間にか殿となったカルキノスは、アリスとハイナに慰められることとなった。
 とぼとぼと3人で食堂の扉をくぐれば、既に宴会の会場と化しているではないか。

「ハイナ〜っ、こっちこっち!」
「ぁ、うむ」

 ローザマリアの手招きに、腰を下ろすハイナ。

「アリスさん……よろしければ、こちらへどうぞ……」
「わぁ、ありがとう!」

 一方のアリスは、悲哀の隣へちょこんと座る。
 奇しくもそれは、お向かいのお誕生日席だった。
 近くもなく、遠くもなく。
 ただ伸ばすだけでは手も足も届かないので、喧嘩にはならないだろう。

「皆、揃ったようだな。
 さぁここからは無礼講だ、楽しくいこうじゃないかっ!」
(「ハイナは倒せなかったが、恥ずかしい秘密とやらは暴露させてみせるのだよ!」)

 実は、ハデスには、そして大半の選手達にも、本人達には言えない目的があったのだ。
 そりゃあ、秘密と言われれば知りたくもなる。
 ハデスの土俵に乗っければ、あとは根掘り葉掘り訊いていくだけ。 

「さぁさぁ、呑むぞ〜っ!」
「未成年者はジュースをお飲みくださいね」

 どどんっと、机上に酒瓶を並べる垂。
 『珍酒「黄泉返り」』や 『妙酒「霧霞」』など、超有名銘柄の日本酒がずらり。
 加えて房姫が、その脇にジュースや御茶を準備してくれた。
 緑茶を注ぐ湯飲みからは、白い湯気が立ち上る。

「ハイナ。
 よければアリスとの想い出を、アリスの反応も含めて幾つか教えてくれないか?」
「む……ん〜?」

 ルカルカの問いかけに、腕組み考えこむハイナ。
 アリスは勿論、皆もわくわく。

「ぁ。
 あれはアリスと初めて会うたときのことでありん……」
「っっちょっとっ!
 それは誰にも言わないって約束でしょう!?」

 言い終わらないうちに、被せられた台詞。
 おやおや、これは。

「あはは、済まぬ。
 ではこの話はどうじゃ、ほれ、2年生に上がったとき……」
「ぅあ、それも駄目っ!」
「なんじゃ、我が儘よのぅ……なればこれか!
 卒業式の朝、別れがイヤすぎて泣い……」
「あぁーーーーーーーーーーっ!」

 なんて、分かりやすい反応だろう。
 ハイナの思った通り、終にアリスは耳を塞いだ。

「なるほど……」

 アリスの態度やら言葉やらをまとめて、ダリルは呟く。
 封筒から取り出した資料と照らし合わせて、ひとつ頷いた。

「俺の事前調査の結果といまの諸々を基に分析すると、だ……」
「え、そうなのっ!?
 ハイナに構ってほしい、認めてほしいってこと?」

 ダリルからの報告を受けて、唖然とするルカルカ。
 アリスは、ハイナのことをまったくもって嫌いではなかったのだ。
 というかむしろ、好きだったのだ。

「ぅあ……」
「はぁ?」
「そうだったの……けど、誤解が解けてよかったわね」

 言葉の出ないアリスに、これ以上ないほど呆れ顔のハイナ。
 すかさず、ローザマリアがフォローの一言を差し挟む。
 ここで2人ともが素直にならないと、またややこしいことになりかねない。
 この場にいた誰もが、そんな雰囲気を感じ取っていた。

「はいは〜い、お料理をもらってきたわよ」
「仲直りに、皆で葦原のうまいもんを食べよう?」

 カウンターでタイミングを図っていた、セレアナとセレンフィリティ。
 和ませるためのベストなタイミングで、料理を運んできた。
 所謂、和食が所狭しと並べられていく。

「ハイナにアリスさんも、わたくしがおとりいたしますわ」
「かたじけない」
「ありがとう」
「いえ、いつもやっていることなので」

 人数分の小皿に、品よく料理が取り分けられた。
 エリシアは父の御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に躾けられているので、慣れっこさん。
 出された相手がいかに美味しそうに食べられるよう盛るか考えなさいというのが、陽太の教えだ。

「悲哀、このお皿をお隣へまわしてくださいますか?」
「ぁ、ぇ……」

 戸惑う悲哀に、エリシアが軽くウインク。
 胸のうちに抱く想いを、試合中に感じ取っていたから。

「えぇと……あの、燿助さん……どうぞ……」
「ぁ、いいの?
 悲哀ちゃん、ありがと〜♪」
「ぃえ、どういたしまして……」

 頬を紅く染めながらも、悲哀は燿助へと皿を手渡した。
 そのやりとりが嬉しくて、幸せいっぱいだ。

「こちらもどうぞ、仁科殿」
「ぉ、サンキュー!」
「仁科殿には、心から礼を言いたい」
「いやいや、淵のボール捌きもすごかったよ〜」

 燿助の反対隣には、淵が座っている。
 一緒にプレイしたことは、よき想い出となっただろう。 

「しかしまぁ。
 聴けば聴くほど、アリスからは少しだけ似たような気配がするぜ……」
「どういうこと?」
「いや……」

 アリスと話していた唯斗だが、ここまで喋って言葉を切る。
 そっとアリスの耳許へと近付き、声を小さくして言った。

「お互い、ハイナ絡みで苦労してきたんだなぁと思ってさ」

 ばっと唯斗の方を向き、ぶんぶんと首を縦に振るアリス。
 がっしりと握手を交わして、同士として意志を確認し合った。

「休みが取れたら、ハイナも1日でも良いから故郷に帰ってみたら?
 逆に、アリスさえよければ葦原に暫く逗留もありなんじゃない?」
「シャンバラはうめぇもんが一杯ある。
 案内してやろうか?」
「えぇ、お願いしたいわ!」
「んじゃ明日な!
 とりあえずこれも食っとけ!」

 出過ぎた真似かなと思いつつも、ハイナとアリスが歩み寄れるよう提案を続けるルカルカ。
 カルキノスのアシストもあり、アリス側は少し、穏やかになりそう。

「お〜い、ミーナ殿〜っ!」
「ぇ……」

 料理は終わりに近付き、陽も傾き始めた頃。
 食堂の入り口から、ミーナを呼ぶ真田佐保(さなだ・さほ)の声が響いてきた。

「ミーナ殿、まだいてくれてよかったでござる」
「ぁ、ぇ、真田、先輩……」
「往きたいところがあるのでござるが、拙者と一緒に来てはもらえぬでござろうか?」
「はっ、はいっ、往きます!
 ぜひご一緒させてください!」
「やったぁ〜っ!」
「きゅ〜♪」

 思わぬ展開に、ミーナのテンションは上がりっぱなし。
 よかったねと、フランカも胡桃も微笑んだ。

「それでは、これでお開きにしましょうか」
「うむ。
 アリス、懐かしかったでありんす。
 皆、妾と友のために汗を流してくれて、感謝いたす」
「ドッジボールに負けたのは悔しかったけど、私も楽しかったわ。
 来てよかった……」

 房姫とハイナにアリスの言葉が、参加者達を笑顔にする。
 はてさて、結局。
 ハイナの秘密は暴かれぬまま、今回の対決は終焉を迎えたのであった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅倉紀音

▼マスターコメント

お待たせいたしました、リアクションを公開させていただきます。
皆様とてもがんばっていただいたので、素敵な結果となりました。
ハイナとアリスは、きっとこれからも交友を続けていけることでしょう。
楽しんでいただけていれば幸いです、本当にありがとうございました。