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白雪姫へ林檎の毒を

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白雪姫へ林檎の毒を

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 シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)はこの日、何時もの通りリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の頭の上で『カツライフ』――ではなく、珍しくソロ活動を行っていた。
 (便宜上)彼の心の中に、一月ほど前から一つの罪悪感があった。

『ジゼル・パルテノペーの勝負ぱんつを被ってしまった』

 実際に『やり取りした』のはリカインでも、『直接被った』のは彼女ではなくリカインのカツラと化していたシーサイド・ムーンの方だから、複雑過ぎる感情を背負うのもまたシーサイド ムーンの方だったのだ。
 ジゼルはそれを知らないらしいが、知らないからって黙っていて良いものだろうか。
 ――お詫びの気持ちというか、自己満足というか。
 兎に角ジゼルを守る事で気持ちを返そうと、シーサイド・ムーンはジゼルの護衛の中に迷彩塗装で紛れていた。
 ところで向かいの観葉植物、あの後ろに下手くそな感じで隠れているのはリカインではないか――?
 そんな折にミリツァとオルフェリアのやり取りがあったのだ。
 強い言葉で追い払われたというのに、オルフェリアは「またお話しましょうねー」と優しい笑顔でその場を去った。
 ロビーの中に一人残されて、ミリツァは何かに耐える様に唇を噛み締めている。
 暫くの沈黙の後、彼女は急に何かに気がついてソファから立ち上がった。
 周囲を見回して顔を青くた直後、彼女の右の瞳が赤紫に光る。
(あれは――!)
 物陰からそれを見ていたリカインは、その瞬間、ミリツァと同じ様に能力を発動させた。
(ジゼル君、そして豊美君への真摯(……紳士?)な態度を知った今、そしてあの時の言葉……。
 誰が何の為に動いているか確かめる!)
 リカインの力が、ロビーを空間ごと包み込んでいく。
(アレ君がジゼル君の傍に居ない事、間違い無く何かある。恐らくはこの、ミリツァ君に深く関わる形で。
 けれど今はアレ君に負担を掛けたく無いから――私は私の見届け方で、彼を助けよう)
 ワールドメーカーのリカイン。彼女が駆使したのは、真実の表情を見る力だった。
 以前アレクに掛けた時は、『無表情』を見ただけだったが……。
(この表情……なんて…………悲しいの……)
 リカインの目に映ったミリツァの真実。ジゼルの歌に解放されて、ミリツァの『友達』は消えてしまった。それに気づいた瞬間のミリツァの表情を、リカインは読み取っていたのだ。
 ――孤独の中で泣き叫ぶ幼い少女。それがミリツァの真実の表情だった。
 ミリツァは知っていたのだ。兄の心はもうミリツァと『二人きり』の場所に居ないのだと。彼に気づいてくれた優しい人たちとジゼルに手を引かれて、アレクはもうこの世界から居なくなってしまった。
 だったら一人残されてしまったミリツァは、どうすればいいのだろう。
 ミリツァの心は、本心は、『一人になりたくない』と誰かを求めて必死に藻掻いていたのだ。
(だからミリツァ君は、アレ君を離したく無かった。
 アレ君を連れて行くジゼル君が邪魔で、引き離したかったのね……)
 全てを理解してリカインは考える。この事はアレクに言うべきだろうか。ミリツァの口から直接言うべきかもしれない、或はアレクが自分で気づくべきなのかもしれない。
 ただあの不器用な兄妹がそのどちらも出来ないのなら、後押ししてやれるのはリカインだけだ。
(どうしようか……)
 逡巡するリカインの意識が、何故か遠のいていく。
 シーサイド・ムーンが己の契約者を不審者と捉えて麻酔針を放っていたのだ。

* * *

 カラオケ店の前の喫茶店。
 作戦が概ね終了した事で安心している筈のキアラは、何故かソファの上で踞る様に頭を抱えている。
[――するとジョルジョは、キアラのえっちな場所へ手をすすすーっ。全身を襲うモーレツな気持ち良さにキアラのロケットおっぱいがぼよよーんと揺れた。うあ、すごい。とジョルジョは思った。キアラのえっちなカラダがくねくね動く。「しゅごいぃっしゅごいよほぉっ! 最高らよっ! はうっおねえひゃんいっぱいれ頭わからなくなっちゃうッ!」]
「……うう…………」
 武尊による執拗な攻撃。これにキアラは遂に厚い唇から声を漏らした。
 実は武尊の作戦は、ジゼルがアレクに接触する直前から始まっていたのだ。しかし今日一日、キアラはこれに耐えていた。
 時に[ぱんつぱんつぱんつぱんつぱんつぱんつ]と連呼するだけの声。時にキアラの大切な姉貴分トーヴァのぱんつの素晴らしさを伝える懇切丁寧な解説。尤も強烈なのはこの官能小説の朗読だったが、指揮官として皆を守るという信念の元、折れない柱になっていたキアラはそれらを受け入れようとしなかった。
 だが上司としての信頼『は』寄せているアレクの通信を受けた瞬間から、緊張の糸が一気に解れたのだろう。まるでダムが決壊するように、武尊の攻撃は一気にキアラの中へ押し寄せ始めた。
 そこで虎の子の一番きっつい気分になるこの小説を、武尊は取り出す。更に悪ノリのように攻撃の効果を倍増させている『登場人物の名前をキアラとその周囲の人物の名前に変える』という手法はトーヴァのものだ。因にジョルジョとは、キアラの糞生意気な弟の名前である。これが地味にきた。
(ダメージが蓄積してそろそろ限界だろうな。このままキアラ嬢を行動不能にしちまえば、プラウダ側の作戦は破綻し、こっちの勝利確定だ。
 ……キアラ嬢には悪いが、ミリツァ様のパンツを貰う為の踏み台になって貰うぜ!)
 トーヴァから餞別代わりに貰った二枚目のパンツの温もりを懐に感じながら、向かいのカフェのオープンテラスにいるキアラを見て、喫茶店に潜む武尊は凄惨な笑みを浮かべてページを捲る。
[キアラはわんわん泣いて両手をぱちんと合わせジョルジョにかわいいおねがいした。「あうぅ……きもひいよほっ! もっろおっもっろぉ!」ついに期待していたものがくるのに、女子校生おっぱいをゆらゆらしてキアラはきゃーと叫んだ「ああん! おっきなパスタきちゃうううっ!!」]
「もうらめええええええッ!!」
 キアラは白目を剥いて、断末魔の声と共にテーブルに頭をごんっと打ち付け失神した。