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平行世界からの贈り物

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平行世界からの贈り物
平行世界からの贈り物 平行世界からの贈り物

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 誘いを受けたリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)は上映会に参加し、流れる映像を楽しんでいた。

 ■■■

 イルミンスール魔法学校、お昼休み。

「全くあの子達は……ここにもいないわね。騒ぎばかり起こして」
 マーガレットは騒ぎを起こした双子を注意すべく捜し回っていた。
「今回はきっちり校則を理解させないと……大広間ならあの二人も通るはず」
 校則に煩い生真面目な優等生であるマーガレットは風紀を乱す生徒を注意せずにはいられない。実は、クールで知的なリースの一番上の姉をリスペクトしているのだ。
 マーガレットは大広間に向かった。

 大広間。

「……今日も賑やかじゃな」
 白い口髭と顎鬚を携えた魔女学の非常勤講師のアガレスが両手を後ろにすれ違う生徒を微笑んで見送ったり、雑談に花を咲かせる生徒を眺めながらのんびりと歩いていた。現実では白鳩だがこちらでは人の姿であり類稀なる実力を備えた魔法使いでもある。
 散歩を楽しんでいた時、
「あの双子を見かけなかった?」
 マーガレットが現れ、アガレスに訊ねた。
「いいや、見かけなかったが、また何かしでかしたのかのぅ」
 アガレスは軽左右に頭を振り、答えた。
「えぇ、だから今日こそは校則を教え込むつもりよ。付近で待ち伏せでもしておこうかしら」
 マーガレットは双子を捕らえるための待ち伏せをするためどこかに行った。
「本当に元気な子達じゃな」
 アガレスは楽しそうにマーガレットを見送った。
 その入れ違いに
「あ、お師匠様、お散歩ですか?」
 リースがやって来た。顔や声は現実と同じだが筋骨隆々でボディビルダーのような体つきで随分逞しい。
「そうじゃ、リースはどうしたのじゃ?」
「マーガレットが双子さんを追いかけていたみたいで、気になって」
 訊ねるアガレスにリースが答えていた時、探し物が向こうからやって来た。
「二人共待ちなさい!」
 必死に追いかけるマーガレットを
「待てと言われて待つわけないでしょ」
「そうそう」
 笑いながら逃げ回っている双子。全く捕まる気などない。
「あ、あれはマーガレットに……と、止めないと」
 加勢せねばと思い立ったリースは手近の物を使おうと咄嗟に掴んだのは
「リ、リース!?」
 アガレスの腕。そして、『ドラゴンアーツ』の能力で片手で振り回し始めた。
「うわぁ!!」
「ちょっ、危ないよ」
 いきなりの攻撃に驚くも瞬時に動きを読み、ジャンプをしたりして避け、別の方向へ逃げた。
 リース達に合流したマーガレットは
「またどこかに逃げたわね。もうどこに行ったのからしら」
 腰に両手を当て呆れながらぼやいた。毎度馴染みの展開のため溜息しか出ない。
「あ、あの、お師匠様……」
 リースは咄嗟とは言え、アガレスを振り回した事を思い出し、解放したアガレスに謝ろうとするが、
「心配はいらぬ。この通り大丈夫じゃ」
 アガレスは平気だとばかりに笑みを湛えた。
 その時、丁度双子が消えた廊下の方から
「きゃぁぁぁぁあぁぁ」
 甲高い聞き覚えのある叫び声が響いてきた。
「あの叫び声はあの二人だわ。何かあったのかしら」
「よ、様子を見に行ってみましょう」
 マーガレットとリースは双子の尋常ではない叫び声に急いで現場に向かった。

 ■■■

 鑑賞後。
「……校則、校則って人を追い回して……」
 マーガレットは苦手とする堅物な性格になっていた事にすっかり落ち込んでいた。
「あ、あの、ごめんなさい。あんな事をしてしまい」
 リースは平行世界での自分の所業を近くの席にいる双子達に涙目で謝った。
「いいって」
「気にすんなよ」
 双子は平行世界での仕業だからとあっさり。
「皆、あれこそが我輩の本当の姿じゃ」
 アガレスは周囲に自分の真の姿を信じさせようと話し始めた。
「本当の姿って、あれがか?」
「たまたま人バージョンの平行世界って事じゃねぇの。ほら、性別が逆転したみたいに」
 聞いていた双子は信じていないのかツッコミを入れる。
「何を言っておる。我輩のこの姿は呪いによるものであって……」
 アガレスは負けずに白鳩になった経緯を話そうとした時、
「次、始まるぞ」
「しかし、最後の叫び声何が起きたんだ」
 空気を読まぬ双子は次の映像に好奇心を向けた。

 同時刻、暇であったため上映会に参加しに来た葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は席を探して歩いていたが、自分の映像が流れ、足を止めて見入っていた。

 ■■■

 イルミンスール魔法学校、廊下。

「……騒がしいでありますね。そう言えば、あの双子が何かしたとか言っていたでありますな。捜し出して様子を見るでありますよ!」
 偶然ここに来ていた吹雪はふと耳にした話を思い出し、こちらでも恒例となっている双子を捜索し監視する事に決めた。
 少し歩いた所で
「……早速、発見であります。追いかけられていたようでありますな」
 マーガレットを撒いた双子を発見し、手慣れた様子で静かに吹雪は近寄った。

「ここまで来れば大丈夫」
「ふぅ、危なかった」
 危機が迫っている事も知らずのんびりとする双子。
「これからどうする? まだ試していない魔法薬があったよね」
「試す?」
 安心した所で双子は何やら悪戯の相談を始めだした。
 その時、背後に迫る恐怖の影。
「……?」
 嫌な気配を察した双子は冷たい汗を垂らしながら背後を振り向いた。
 そこにいたのは……
「きゃぁぁぁぁあぁぁ」
 切り裂かんばかりの甲高い悲鳴と共に世界は真っ黒になった。

 ■■■

 鑑賞後。
「これがさっきの答えかよ」
「一体何があったんだ」
 双子は悪夢を掻き立てる終わり方に青い顔になっていた。
 その時、
「……ま、まさか……」
 背後に冷たい恐怖の気配を感じゆっくりと同時に振り向く双子。
 そこにいたのは……
「ふぎゃぁぁぁぁぁ」
 双子は両手で庇い、悲痛な悲鳴を上げた。

 しかし、身体のどこにも痛みはなく、
「いきなり悲鳴とは失礼でありますな」
 知った声が双子にかけられた。

 数秒後。
「な、なんだ……げ、現実か」
「は、背後に立つなよ」
 正気を取り戻した双子は吹雪の姿を確認し、胸を撫で下ろした。
「どちらの世界でもお互い変わらないでありますな」
 そう言うなり吹雪は着席した。丁度双子の後ろの席だ。
 それを見て
「ちょ、待って何でここに座るんだよ」
「別の席に行けよ」
 双子は抗議の声を上げる。また怖い目に遭わせられると怯えているようだ。
「どこに座るかは自分の自由であります」
 吹雪はいつもの事なのでまともに取り合わない。
「何か悪い事でも企んでるのかな」
 キスミの隣に座る孝明が怖い笑顔を双子に向けた。明らかに何か悪さをしたら懲らしめるぞと目の奥で語りながら。
 孝明の隠れたメッセージを受け取った双子は
「……いや、何でもないというかもう嫌だ。このテーブル」
「……席替えしないか。チェンジ!」
 悲鳴じみた声で懇願するのだった。何せ、悪戯が出来ないように完全包囲され、もしすれば確実に仕留められる。ただの地獄である。
「……自分はこの席が気に入ったので動かないでありますよ」
 双子を知る吹雪は一切双子の要求は聞き入れなかった。他の同席者全員同様であった。
「……はぁ」
 双子は同時に溜息をつきつつも現在の席を動かなかった。いや動けなかった。