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リアクション
祭の雰囲気
「小さな企画も結構やってるわね」
祭をゆっくりと歩きながらルカルカ・ルー(るかるか・るー)はそう言う。契約者が企画した以外の企画もこのミュージックフェスティバルでは行われており、全てを回るのにはそれなりに時間がかかりそうだった。
「あっ、カルキだ。おーい」
屋台のスペースに通りがかったところで、大きな巨体をしたパートナーの姿を見つけてルカルカは声をかける。
「ん? ルカか。楽しんでるみたいだな」
大きな肉の料理を持ったカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はそう言う。
「カルキは……聞くまでもないというか……食べた後の容器がすごいことになってるんだけど。食べすぎなんじゃない?」
「これくらい序の口だろ。……そうだ、食い物屋台巡りして巡った数で勝負しねぇか?」
「……龍族の胃袋となんか勝負になるわけないでしょ」
そう言いながらもルカはカルキと一緒に祭を回り始める。
「……けど、ミナホ、忙しいみたいね。……一緒に回りたかったんだけど」
祭のあちこちに配置されたラジオ。そこから流れるミナホの声にルカルカはそう言う。
「はい? 私がどうかしましたか?」
「ミナホ? って、あれ? ラジオは?」
振り向いた先にいたミナホにルカルカは首を傾げる。ラジオからは相変わらずミナホの声が流れている。だが、そこにいるミナホはどう見ても本物だ。
「もしかして録音してるのを流してるとか?」
「いいえ、生放送ですよ」
「……じゃあ、今ラジオから流れているのは?」
「ホナミちゃんが私の声真似してるだけです」
「……だけ?」
その使い方はあってるのだろうかとルカルカは本気で悩む。ラジオから流れる声はどう聞いてもミナホ本人としか思えない。
「もしかして、ずっとホナミの声真似だったのか?」
悩むルカルカに代わりカルキノスはそう聞く。
「いいえ。さっきの休憩のときに交代してもらいました。一通り問題がないか見回ったらまたラジオに戻りますよ」
「忙しそうだな。……そういや、前村長を見ないんだが、何してるか知ってるか?」
「いいえ。父のやることなんて私には分かりません。……何も話してくれませんから」
カルキノスの質問にミナホは少し寂しげに答える。
「やっぱり忙しそうだね。一緒に回りたかったんだけど」
立ち直ったルカルカがそう言う。
「そうですね。一緒に遊ぶというのは難しそうです。ただ……」
「ただ?」
「ラジオに戻るまでの見まわりを手伝ってくれるとありがたいです」
「そういうことなら喜んで」
そうしてルカルカはミナホがラジオに戻るまでの間、ミナホの見回りを手伝うのだった。
「こんにちは。また遊びに来たわよ」
祭の喧騒を離れたところで目当ての人物を見つけたリネン・エルフト(りねん・えるふと)はそう声をかける。
「ん? あんたか。悪いが今は忙しいからデートのお誘いだったらお断りだぞ」
ユーグと呼ばれる男はリネンにめんどくさそうにそう返す。
「デートの誘いじゃないわよ、私が誘うのは一人だけなんだから」
「……惚気か。どっちにしろ遊んでる暇はないんだが」
ひとつため息をついてユーグは言う。
「その割にはこんなところで突っ立ってるだけじゃない」
「……八方塞がりなんだよ」
「ねぇ、結局ユーグは何をしているの? 単なる家事手伝いだなんて言わないわよね?」
「言わなかったか? この村が滅ばないように動いてるって」
ユーグの煙にまくような言い方にリネンは少しだけ視線に力を込める。
「私にごまかしは聞かないわよ? 具体的に何をしているか聞いているの」
「……はぁ。ま、言ったところでどう変わるとも思えないんだが」
仕方がないとユーグはため息をつく。
「やっていることは二つだ。一つは最悪の事態をさける方法。といってもこれに関しては既に手を打っている。今できるのは経過を見守るくらいだ」
「それはなに?」
「さて……俺はまだ死にたくない。あんたがどんな反応をするか分からないから黙秘させてもらう。……どうせ時がくれば分かるしな」
「……それじゃ、もう一つは何?」
「一つ目の方法じゃ納得できない奴が多そうだからな。その方法以外で村を滅ぼさせない方法を探している」
「具体的には?」
「ミナスが残した本を探しているんだよ。それさえ見つかればあるいはと言ったところだ」
ただ、とユーグは続ける。
「現状しらみつぶしに探したが見つからない。もともとの手がかりが少ない上に、5000年前の本で本当に残っているかも微妙だ。……さっきも言ったとおり、見つかったとしてもあるいはってレベルの話でもある」
「つまり……?」
「八方塞がりだって言ってんだろ」
はぁとまたため息をつくユーグ。
「でも、そういうことだったらなおさら遊びに行ったほうがいいんじゃない? 気分転換をしたほうがいいわよ」
「そうだな。まぁ、あんたと一緒に行くのは遠慮するが」
「なんでよ?」
「女の嫉妬は苦手なんでな」
ユーグはただそう答えた。
「しかし、良かったのですか? 和輝」
かつてアルディリスと呼ばれた遺跡都市にて、スフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)はパートナーにそう聞く。
「アニスのことか?」
聞き返しながらも佐野 和輝(さの・かずき)は調べる手を止めない。和輝はこの都市にあるエネルギー――機晶エネルギー――を発生させる装置を調べていた。
「アニスのことも含めてです。せっかくの祭です。たまにはゆっくりしても良かったのではないでしょうか」
「最低限祭の準備は手伝った。……楽しむのはアニスに任せるさ」
「アニス一人では満足に楽しむのは難しいと思いますが……」
人見知りな少女を思い浮かべスフィアは言う。
「楽しみ方にもいろいろあるさ。………スフィアの言うとおりか。この施設。機晶エネルギーを確かに生産しているのにどこにも機晶石が存在しない」
調べ終えて和機はそう言う。
「本来ならありえないことですね」
「それを可能にするとしたら例のアレしか考えられないか」
恵の儀式。そう呼ばれるものがかつてこの都市にあり、それはあの村にも引き継がれている。
「それで……あなたは当然、このことを知っていたんですよね? 前村長」
振り向きざまに誰もいないところへ向かい声をかける和輝。
「おや、気づかれていましたか。私が未だ使える数少ないスキルだったのですが……」
隠形をといて姿を現す前村長。
「質問の答ですが当然知っていましたよ」
「……それが何を引き起こすかも当然知っていますよね」
「ええ。輝晶エネルギーを生み出すために繁栄の力を借りる。……その先に待つのは破産という名の破滅ですね」
「…………あなたは何を考えているんですか」
「さて……ただ、私は信じたいだけですよ。愛した人と娘が関わるものを。あの村を。そして……あなたたち契約者の力を」
「へぇ……そんな企画もあるんだね」
祭の喧騒を遠くで眺めながらアニス・パラス(あにす・ぱらす)は人ならざるものと『会話』する。
「うん。大丈夫だよ。『皆』と一緒に雰囲気を楽しんでいるから」
祭に参加しなくてもいいのかという『皆』の言葉にアニスはそう返す。
「流石にあんな人混みの中にはアニス入れないもん」
極度の人見知りであるアニスでは普通に祭を楽しむことは不可能に近い。
「そう考えるとアニスと『皆』は一緒だね」
『皆』にしてもアニスにしても普通の方法では人と交われない。
「だから……楽しいよ。だってアニスは確かに『皆』と一緒に楽しんでいるから」
本当なら和輝やスフィアが一緒にいればと思うが、それは伝えない。
アニスはアニスなりに確かに祭を楽しんでいた。
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