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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

 午後、自宅。

 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が買い出しに行った後。
「……この記憶は……俺は、グラキエスなのか……」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は最初の魔力暴走と魔力の核を取り除く際に魔力が乱れ精神(記憶)も同様に乱された事による二度の騒ぎでそれぞれ失った記憶を全て取り戻していた。
 それにより
「いや……違う……俺は……”エンド”だ。何度か夢現に意識が繋がる事はあったが、どうしてこんな事が」
 自分が何者かを知る。最初の暴走後に記憶を失った自分と契約したゴルガイスが付けたグラキエスという名の人物ではなく、ROAシリーズのエンドナンバーと言う意味のEND=ROAであると。ちなみにグラキエスの苗字は亡き友であるグラキエスの設計者を偲んでゴルガイスが付けたものだ。
「……今はそんな事はどうでもいい。ゴルガイスに会わなければ」
 エンドにとって大事なのは記憶復活の原因追求ではない。未だに最初の暴走時で取った行動に罪悪感を抱いているゴルガイスを救う事だ。
「……そして、伝えなければ、責める必要が無い事を」
 記憶が戻った今ならきっと気持ちは伝わり救う事が出来ると信じていた。なぜなら罪悪感を抱かせるきっかけになった本人だから。
 エンドはゴルガイスを捜しに飛び出した。

 町中。

「用事も終えた。早く戻るか」
 用事を終えたゴルガイスは家路を急いだ。
 その途中、
「……グラキエス? 何か……いや、何か様子が違う」
 家にいるはずのグラキエスを発見し、何かあったのか気を掛けるも問う言葉と向かおうとする足は止まり、代わりに困惑を浮かべた。
 なぜなら
「……まさか……そんなはずは」
 今朝顔を合わせた時とどこか様子が違う上にその理由に思い合ったから。会えなくなったはずの”人”であると。
 そしてその人が周囲を忙しなく見回す理由にも見当がついていた。
「……我を捜しているのか」
 ゴルガイスは自分の見当と見抜いた正体を確認するために心無しか重い足取りで向かった。

 そして、接近。
「……どうし……」
 ゴルガイスが訊ねるよりも先に
「あぁ、ようやく見つけた。間に合ってよかった」
 相手が気付き、真っ先に声をかけた。
「……お前はエンドなのか?」
 訊ねなくともゴルガイスには分かっていたが、信じられなかった。今朝会った時は確かに二度の事件を経験し記憶を失ったグラキエスだったし、それほど時間は経過していないはずだから。
「そうだ。なぜ思い出したのか、いつまでのものかは分からないが」
 エンドは軽くうなずき、事情を説明した。
「……そうか。それで我を捜していたようであったが」
「捜していた。記憶がある内に伝えたい事があって」
 エンドは真っ直ぐにゴルガイスを見据え、静かに言った。
「……そうか」
 ゴルガイスは重苦しい返事をした。最初の魔力暴走の時に取った自分の行動を思い出していた。命惜しさから魔力暴走するエンドから逃げ、罪悪感から耐えられず暴走跡に戻った際に瀕死のエンドを発見し、命を繋ぐためと自分の抱く後ろめたさから契約したが、エンドは絶望して記憶(自己)を破棄した事を。
「俺はあの時、あなたが去った事が悲しかった」
 エンドは静かに語った。ゴルガイスに見捨てられた時に事を。
「……」
 ゴルガイスは黙して聞く。口を挟む権利などそもそも無いし、責められて当然だと覚悟していた。
 しかし、エンドの口から出た次の言葉は違っていた。
「だが、今はこうして側にいてくれる。それで十分だ」
 怒りや責めるものではなく感謝に満ちた言葉だった。確かに罪の意識で自分の側にいたかもしれない。しかし、それによって自分は助けられたり幸せな日々を送る事が出来たのは事実であり、今一番伝えたい事である。
「……十分……いや、我はお前に責められて当然の事をした。それなのに……」
 てっきり責められると思っていたゴルガイスは驚き信じられなかった。そこまでゴルガイスの自責の念は強かった。
「そうやって自身を責めて苦しみ続けて欲しくないんだ。俺は恨んでなんかいない。ただ、あなたがずっと背負っている重荷をそろそろ下ろして楽になって欲しいだけだ」
 エンドは曖昧な事は言わずに明確に気持ちを伝える。正しく自分の思いが何度転機があれど決して自身を赦そうとしなかったゴルガイスに届くように。
「…………恨まない、か。お前が恨んでいると言うのは我の思い込みであったのだな」
 胸中でエンドの言葉を反芻し、自分を気遣うその顔を見ている内に自分が抱いた負の感情によってエンドの気持ちを読み違えていたのだと知った。
「あぁ。俺はあなたが大好きなんだ。ただ一緒にいて、同じ時間を過ごす事が出来ればいいと思っている」
 エンドは微笑を浮かべた。好きな人と一緒にいた方がどれだけ嬉しくて幸せな事なのかをゴルガイスにも感じて欲しかった。自分が感じている幸せを同じように。
「……同じ時間をか」
 ゴルガイスは罪悪感に囚われる自分を何とか救おうとする優しい眼差しに感謝と背負う重荷が少なくなっていくのを感じた。
「……」
 もう言葉を重ねなくとも相手に伝わったと感じたエンドは静かにゴルガイスの様子を伺っていた。
 ゴルガイスは会話の最初の時とは違い、晴れやかな顔で
「…… エンド、我は改めて誓おう。我はお前を守る、お前を救う為に、お前と共に生きる為に」
 改めて誓いを立てる。償いのためではなく一緒にいられるという幸せを守るために。
「……ありがとう」
 エンドはほのかに笑みを浮かべ、感謝を言葉にした。伝えるべき事を伝えられて心底満足していた。

 この後、甦った記憶は消えて再び記憶喪失のグラキエスに戻った。ただし、消えたのは甦った記憶だけだった。