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リアクション
第1章 地獄の車窓から 〜車内も十分地獄です〜
――列車がナラカを走っていた。
その列車の見た目は一瞬ナラカエクスプレスを思わせる物だったが、よく見ると先頭車両に機銃が備え付けられていたりしていた。
謎のナラカエクスプレスっぽい装甲車両は、番組参加者を乗せ、線路の上を走る。
一体何故、こんな展開になったか。
「いやーいいですよー列車案いいですよー」
阿部Pが先頭車両にある機銃の銃座に着く大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)に嬉しそうに話しかけてきた。
「そうでありますか」
丈二が銃座から降りる。
――今回番組の視聴率を上げる為、阿部Pが参加者にテコ入れを指示したのである。指示、と言っても実際はくじ引きだ。幾つかあるテーマをくじで引いてもらい、それで自身で内容を考えろという何とも無茶なものだ。
その結果、【旅行】をテーマにしたものからいくつか意見が出た。中でも『名所を案内しつつ殺りあう』という物が多かったのだが、その名所が何処か、という具体的な案が無かった為没に。
そんな中出た丈二からこんな意見が出た。
『ナラカエクスプレスでぶらり車窓の旅』
これに阿部Pが「ああ、それいいですね」となり、流石にナラカエクスプレスは使えなかったので急遽『ナラカエクスプレスっぽい列車』を用意したのである。
「視聴率こそ上がっていませんが、視聴者は興味津々みたいですねー。あ、言われた装備は大丈夫ですかね? 何しろ急ごしらえなもので」
「扱いに慣れている物と同じなので問題無いであります」
そう言って丈二が銃座に視線を向ける。備えられている機銃は偶然教導団で使われている物と同タイプであったようだ。
「これで普通の敵が来ても大丈夫であります。早々負ける事もないであります」
丈二が車窓から外を眺める。装甲列車に車窓があるのかよ、という話だがあくまでそれっぽい代物なので突っ込んではいけない。
「普通なら、ね……ああそうそう。視聴率は上がっていませんが上昇傾向にあるので丈二さんに50P追加されますので。それでは頑張ってください」
丈二は「了解したであります」と敬礼すると、再度銃座に着いた。
※視聴率40%
大熊丈二 200P→250P
「全くもう……なんでこんなのにヒルダが着替えなきゃいけないのよ……」
列車内に何故か供えられた更衣室。数あるロッカーの一つの前で、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)はブツブツと文句を言いながら扉に備えられている鏡に映った自身の姿を見る。
今ヒルダが着ている衣装はいつもの自分の服ではなく、番組で用意された物であった。所々スポンサーのロゴやらが入っており、これでCMを兼ねているようである。
「うぅ……嫌だなぁ……でも女子全員コレ着ろっていうし……」
この衣装はスタッフに『女子はこれを着てください』と言われ手渡されたのである。しかしどうも気に入らず、ヒルダは顔を顰める。
「……やっぱり脱ごう」
ヒルダが衣装に手をかけたその時であった。
「……あのー失礼しますー」
阿部Pが更衣室に入ってきたのだ。
「!? ちょ、何入ってきてるのよ!?」
脱ぎかけて見える肌をヒルダが慌てて隠す。
「ああすいません、ちょっとお話したい事が」
「後にして! とにかく出てってよ!」
ヒルダが慌てて阿部Pを追い返そうとする。が、
「ひゃあっ!?」
慌てて足を滑らせ、別のロッカーに身体ごとぶつかってしまう。
「あ、大丈夫ですか?」
「いたた……」
身体に走る痛みに顔を顰めるヒルダ。その直後、ロッカーの上に置いてあった何かがヒルダの上に落下する。それは液体の入ったボトルで、中身をヒルダは浴びてしまう。
「ひゃうっ!? な、なんなのよ……ってなんで服が溶けてるの!?」
「あー、ナラカ印の洗剤ですね。大丈夫ですよ、肉体には影響はないはずですから。多分、きっと」
「そ、そういう問題じゃないわよ! 大体何で貴方入って来てるのよ!?」
そう言われて漸く阿部Pが「ああそうそう」と何かを思い出したように手を叩く。
「いえ、先程スタッフが何やら衣装を渡したそうなんですが、アレ手違いでして。着替える必要ないからそれを伝えに来たんですよ。いやー流石ナラカ印の洗剤ですね、脱ぐ手間すら必要ないんですから便利ですよ」
そう言われてヒルダは唖然とした表情になるが、やがて自分が何も身に着けていないも同然の格好に気付くと、
「いいから出て行けぇぇぇぇ!」
手当たり次第に阿部Pに物を投げつける。これはたまらんと阿部Pが退散すると、勢いよく更衣室の扉が閉められた。
「いやいや……タイミング悪かったですねぇ……お?」
苦笑しつつ阿部Pがスタッフルームに戻り、視聴率などが解るモニターを見ると、視聴率が上昇していたのだ。更にスポンサーからも喜びの声も届いていた。
ヒルダは気づいていない。先ほどのロッカールームのやり取りが、放送されていたことに。
「……あー、さっきのアレですか。CMにもなったようですし、ヒルダさんに追加しておきましょうね」
阿部Pはそう言ってポイント操作を行う。この後、何故かポイントが上昇したことにヒルダは首を傾げるが、その理由に気付く事は恐らくないだろう。
※現在視聴率50%
ヒルダ・ノーライフ 200P→350P
――列車のとある車両。
誰もいない車両は明かりが消されて暗闇に支配されていた。
その中の座椅子の一つに天野 空は座っていた。正確には座らされていた、だが。
「……なんだろ、ここ?」
空は首を傾げる。彼女はただ列車内をぶらぶらと歩いていたのだが、いきなり変な2人組に脇を固められ連れられてこられたのだ。
窓も閉められ、明かりの無い車内を眺めていると、小さな光が浮かび上がる。
それはランタンの灯りであった。
「ん? 何か聞こえる?」
突如浮かび上がった灯りと一緒に、変な声が聞こえてくる。それは「チク・タク」という声だった。
「……何だろ?」
よく見ると、灯りにの後ろに人影が映し出される。カーキ色のツナギに禿げヅラと羊のマスクを被った加藤 清正(かとう・きよまさ)と、ルーズなタンクトップにデニムで髪を後ろで纏め髭モジャな蒲生 氏郷(がもう・うじさと)であった。
清正と氏郷は、揺り椅子を担いでいた。その椅子には麦藁帽子に柄のワンピース姿、刺青風ボディペイントという2人に負けない奇妙な出で立ちでランタンを持った富永 佐那(とみなが・さな)であった。
「あなたに真実を教えて差し上げましょう」
事態が把握できない空に、笑みを浮かべて佐那が言う。
「ヒーローなんて存在しないんですよ。あなたは理想のヒーロー像を作り上げ心酔しているだけ。1日の終わりに脳内でキスをしてもらい――心配ないよ、と言って欲しいのでしょう? ねぇ? 恐ろしいものを見たくはありませんか? この俗世は人間の魂に毒され醜い虚栄心が蔓延してる。あなたの力なんかじゃ到底どうすることもできない。ですが奇妙な事に、そこには調和と美が混在する。私達は――俗世に蔓延る嘘や秘密を暴き、調和を維持する者。勿論、私にも秘密はあります……ふふっ、あいつらが動き出す……」
すると清正と氏郷が「俺たちだ」「動き出すぞ」と呟く。
「私達が立ち上がり、そして――どうすべきか教えましょう」
佐那の言葉に続き、清正と氏郷が「逃げろ」「危険だ」と言う。そして3人で「いくぞ」と合せる。
「私達と相対したら、生きては帰れません
恐怖の概念を覆し……Mary had a little lamb……ふふっ。すみません。怖がらせる気はなかったのですよ? ふふふっ……あーはっはっはっはっはっ」
突如、佐那が笑いだし、空を見据えて言い放つ。
「禿鷹を追え!」
列車内を静寂が支配する。やがてこらえきれなくなったのか、空が言った。
「……うん、よくわかんないから戻っていい?」
そう言うと空は立ち上がり、横をすり抜けてさっさと立ち去って行った。
その光景を見て、エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)は溜息をついて列車の明かりをつける。
――佐那達の目的は、参加者の誰かを拉致し、洗脳して仲間にする事であった。
最初は寝込みを拉致するつもりであったが、誰も眠っていないことにより断念。偶々通りかかった空を拉致したのであった。
ちなみに「禿鷹を追え」という言葉に深い意味は無いようである。
このこともしっかりと放送されており、阿部Pの元には『アレ結局なんだったん?』『暗いしよくわからなかった』との問い合わせが殺到。視聴率も低下していた。
これにより佐那達3人は100Pマイナスとなったのであった。
※現在視聴率40%
富永佐那 200P→100P
加藤清正 200P→100P
蒲生氏郷 200P→100P
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