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リアクション
第4章 敵側に付く! そういうのもあるのか……
列車が辿りついた先は、単に『標的』と書かれた看板が立っており、それ以外には大きな岩が所々に存在している。地面や周囲の岩、空も同じような色の雲が広がっている。
「これといって戦闘場所が浮かばなかったので地上的に地獄みたいなイメージの場所を用意してみました」というのが阿部P談。
そんな場所に不自然にリングが置かれている。格闘技の様なロープが張られた四角形リングである。阿部P曰く「内容的に何となく置いてみた」とのことだ。
「それでは標的、護衛者の方々の登場です!」
阿部Pに促され、現れたのは標的である天野翼と和泉空、そして残った護衛者のエルであった。
「……お?」
そこで参加者の中から標的に歩み寄る者が数名。九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)とヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)、更にハデスにペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が連れて来られていた。
一体何事かと思うと、九条とハデス達は参加者たちに向き直る。
「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! ククク、番組とやらを盛り上げるために、標的側に付くとしようか!」
「吉良ッ☆ろざりぃぬだよ! テレビの前の悪い子のみんな〜私のこと覚えてね!」
なんということでしょう、参加者側から標的の味方をする者が現れてしまいました。
「ねえ、あれいいの?」
その様子を見て空が問いかけるが「大丈夫です、問題ありません」と阿部Pが答える。「盛り上がるようならOK」という考えなのだろう。
「というわけで番組上全く問題はありませんのでちゃっちゃとやっちゃいましょうぞ!」
「それじゃ、標的に付いた人の相手をしますかね」
「自分もそうするであります」
「ヒルダもそろそろ戦うわよ」
標的側に付いた九条やハデス達の前に、貴仁と丈二、ヒルダが歩み出る。
「そっちも出たいと思うけど、まず私から出させてもらうよ」
九条が一歩前に出ると、ハデスは笑みを浮かべて応える。了承したようだ。
九条がリングへ上がると、貴仁もリングへ上がる。
「特に恨みとかそう言うのは無いんだけど……バトルしようか」
そう言って九条が構えると同時に、貴仁が動いた。
「さっさと終わらせますよ」
貴仁は【ゴッドスピード】で一気に距離を詰めると、九条の顎をエルボーで打ち抜く。ぐらりと九条の身体が揺れ、ロープへともたれかかる。
「……っくぅ!」
俯く様にしていた九条が頭を上げると、額から出血していた。仕込んでいたカミソリで自分の額を切ったようである。だってエルボーは顎に入ったんだし。
「そういう激しいのも嫌いじゃないけど、最初はロックアップからヘッドロックとかお約束やるもんでしょ! 私は正統派魔法少女をやめるぞぉーッ!」
ブチ切れたように叫ぶと、九条はロープに体重をかけ、反動をつけ駆けると飛びあがり足で貴仁の頭を挟み、勢いそのままに放る。
ヘッドシザースで放られた貴仁の後を追い、九条はマウントポジションを取る。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
ハイテンションで叫びながら九条は拳を振り下ろす。貴仁はそれを拳でガードしつつ堪えている。
「無駄無駄無駄……ぬぅッ!?」
パウンドの隙を縫い、貴仁が九条の喉元を狙い手刀を突き刺す。地獄突きに気付いた九条は体勢を崩すと、そのままマウントを解き立ち上がると距離を取ろうとする。
「逃がしませんよ」
だが今度は貴仁が腕を掴み、立った状態でアームロックで固める。
『それ以上いけない』と止められそうなアームロックが九条の腕をギリギリと軋ませる。それに対し九条は『絶対にギブなどせん』とばかりに歯を食いしばり耐える。
すると貴仁はロックを解いた。九条は顔を歪めつつ腕を押さえる。
その背後に回り、貴仁は九条をバックドロップの様に抱えて持ち上げる。九条は腕の痛みに対応が遅れた。
貴仁は抱え上げたまま一度動きを止める。本来ならそのまま後ろに倒れ、相手の後頭部を強打するのだが、貴仁は九条の背中を抑えうつ伏せの体勢にし前に叩きつけた。オニオンバスターともグランドスラムとも呼ばれるこの技を食らった九条はリングに倒れ込む。
貴仁が勝利を確信する。が、突如九条は起き上がったと思うと貴仁の手を取った。
「フゥゥ〜……私は……小学生の頃……好きな男の子がいましてね……」
「……はい?」
額から大量に出血しながら手を握ってきた九条に若干引き気味で貴仁が困惑する。
「その子が放課後に爪を切っている所を……見て……あの綺麗な爪……あれを見たとき……なんていうか……その……フフ、下品なんですが「興奮」……しちゃいましてね……こっそり持ち帰って瓶に詰めて飾ってました……あなたのも切り、取りたい……」
そこまで言うと力尽きたのか、九条は顔面から倒れ込んだ。
床に額の血が溜まっていく様子に拙いと思ったのか、ヴァンビーノがリングから引きずり下ろす間も九条はピクリとも動かなかった。そのまま病院送りである。
九条の血だまりの清掃が終わった後、まだ戦っていないという理由でヒルダがリングに上がる。
「フハハハハ! 次は我々の出番というわけだな!」
それに続きハデスが声高に笑う。準備パートで色々と巻き込まれた心の傷と肉体(主に一ヶ所)の傷はどうやら癒えたようである。流石番組が用意した名医。SAN値減少すら治してしまうようである。
「では我がオリュンパスからの刺客を紹介しよう!」
我々、と言いつつ自身は全く戦う様子を見せないハデスに促され、ペルセポネが前に出る。
「あの、ハデス博士……結局何をすればいいのですか?」
ペルセポネはイマイチ状況が理解できていないようであった。
「なに、いつも通り戦えばいいのだ」
「はぁ……よく解りませんが……機晶変身っ!」
ペルセポネがそう言うと、着ていた服が光の粒子に変わり消え、肌の上にパワードスーツの装甲が装着されていく。
「……あれ?」
何処か変だ、という表情を浮かべるペルセポネ。普段であれば一瞬で終わる変身が、やたらと長い。
「所でプロデューサーよ! 今視聴率は上がっているか!?」
「ぐいぐい来てますよぉー! 今の変身シーン頂きましたよぉー! 今から光が消えると噂のBD版が予約開始されてますよぉー! 発売予定もないのに!」
ハデスが叫ぶと、阿部Pはサムズアップで応える。そこでペルセポネは気付いたのか、ハッとした表情に変わった。
「さて、ここで一つ説明をさせてもらおうか」
ハデスが眼鏡を上げ、ある説明を始める。それはペルセポネのパワードスーツの仕様に関してである。
ペルセポネのパワードスーツは、先程の変身シーンで解る様に直接素肌に装着されるタイプである。
そこで今回、ハデスは番組を盛り上げる為に少し手を加えた。
それは、ダメージを受ける度にパワードスーツがリアクティブアーマーの役割を果たし、装甲がパージされるという事。
そこまで説明して「後は言わなくてもわかるな?」とハデスが笑みを浮かべる。対照的にサーッとペルセポネの顔から血の気が引いた。今置かれている自分の状況――負けたら大破状態(性的な意味で)が待っているという事に気付いたのだろう。
「ま、負けるわけにはいきません!」
そう言って構えるペルセポネ。
「……何だろう、ちょっと戦いにくいわ」
列車内で肌を晒す羽目になったヒルダが少しばかり同情的な目で見ていた。
――(既に)脱いだ者と脱がされる(であろう)者の戦いが始まろうとしていた。
さて肝心の戦闘である。
「戦いにくいけど……容赦はしないわよ!」
ヒルダは光翼を使い、飛び上がると上空からペルセポネに向かって蹴りを放つ。
「や、やられるわけにはいかないんですよぉ!」
その蹴りを、ペルセポネが必死に身に着けた格闘術で捌く。しかしヒルダの空中からの攻撃は捌けても反撃が難しい。
「こうなったらこれを……!」
ペルセポネが【ビームブレード】を構える。が、
「隙だらけよ!」
既に背後に回っていたヒルダがペルセポネを掴むと、そのまま投げリングに叩きつける。ペルセポネは身を捩り何とか受け身を取るが、衝撃が体を襲う。そして同時に装甲の一部がパージした。
「ひゃあああああ! ほ、本当に取れたぁ!?」
悲鳴のような声をペルセポネが上げる。きっと今頃、視聴者はBD版を予約しようと必死になっているだろう。発売予定はないのに。
「よそ見している暇はないわよ!」
ヒルダはリングすれすれの低空飛行へ移行し、立ち上がったペルセポネの足を狙い蹴りを放つ。
「こ、これ以上は駄目ですってばぁ!」
だがペルセポネも必死である。【ペルセポネ専用高機動ユニット】を起動させ、蹴りを躱すとそのまま攻撃へと移行し、攻守が入れ替わる。
先程は上空というアドバンテージがあったが、今度は低空飛行状態で舞台はほぼ同じ。ペルセポネの攻撃がヒルダに届くのである。
だが、高機動ユニットの制御が難しいせいか、ヒルダに効果的なダメージは一切ない。全て捌ききれるものであった。
(このままでは……何とか隙を作らないと!)
ペルセポネは肉弾戦を止め、【ショックウェーブ】を放とうと試みる。だが、それ自体が隙となってしまった。
「貰ったわ!」
ヒルダが飛びつく様にペルセポネの腕を掴み、リングへと引き込む。堪え切れずに倒れるペルセポネを、すかさずヒルダが腕十字で固める。
ペルセポネがもがくが、ガッチリと極まった腕十字からは逃れられない。関節が軋み、同時に装甲が更にパージ。
「ちょ、関節技もダメなんですかぁ!?」
そりゃダメージなんだから当然である。
「……このまま寝かせてあげるわ」
不憫に思ったのか、ヒルダは上体を起こすと腕に絡めていた足を器用に首に回し、腕と同時に首も極める三角絞めへと移行する。そして絞める力を強めると、あっという間にペルセポネは落ちた。これはダメージにならなかったようでこれ以上装甲がパージする事は無かった。
これ以上被害が大きくなる前に、とヒルダはペルセポネをそのままリング下まで下ろしてやり、待機していた医者へ引き渡すのであった。
ペルセポネが医者に連れられて行った直後であった。
「ふっふっふ……最高に、最高に『ハイ』ってぁッ!」
医者の治療を受け復活した九条がハイテンションで戻ってきた。傷も塞がり、【超人的肉体】の【肉体の完成】が見られる。
「WRYYYYYYYYYーぐふぉッ!」
リングの中心でハイテンションで叫ぶ九条に、丈二が放った弾丸が襲い掛かる。
「自分が相手になるであります」
銃剣付の銃を構え、丈二が言った。
「面白い……人間が魔法少女に追い付けるかーッ!」
撃たれ、血を流しながら九条が丈二に向かって駆けだす。丈二も弾幕を張り対応する。が、その弾幕を九条は食らいながら飛び上がりドロップキックを放ってきた。銃撃を止め、躱す丈二。
「このろざりぃぬにとって人間はモンキーなんだよーーッ!!」
体勢を崩した丈二を九条は捕らえようとする。しかし、
「こいつでも食らっておくであります!」
丈二は隠し持っていたナラカ調味料の蓋を開け、中身を振り向いた。顔に掛かったようで、九条は顔面を抑えつつリング下へと転がり逃げる。
「ふぅ……非常時にも役に立つでありますね、ナラカ調味料……」
露骨なマーケティングを丈二が呟いた瞬間であった。何処からか、リング上へタンクローリーが投げ込まれたのであった。逃げ切れず、丈二は下敷きになる。
「ふはははは! タンクローリーだッ! 最早脱出不可能よ! ぶっ潰れよォ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
タンクローリーの上に乗った九条がダメ押しと言わんばかりに拳を叩きつける。何度も何度も、何度も何度も。無駄と叫びながら。
もう何度殴ったろうか。突如、タンクローリーが爆発したのだ。爆風に耐え切れず、リングは破壊され、九条も吹き飛ばされる。
「ふっ、どれ奴のやられた顔でも見てやろうか。まぁ爆発で殆ど残ってないかもしれんが……な……?」
立ち上がった九条の顔が強張る。ダメージを受けながらも、丈二は立っていたのであった。
お互い何も言わず、睨み合う様に膠着する。タンクローリーで運よく潰されなかったが、爆風などのダメージが大きい為丈二は迂闊に行動に出られない。
それは九条も同じであった。銃撃のダメージに加えナラカ調味料が今更効いてきたのか意識が飛びそうになるのを耐えているのである。
だがここで番組側からストップが入った。ステージとなるリングが破壊されてしまい、このままでは進行に影響が出るので、このバトルもここで一旦打ち切るというのだ。
結果、視聴率は貴仁の勝利、ヒルダの圧勝、九条の破天荒な行動にペルセポネの素肌等様々な要因で何と15%も上昇したのであった。
ポイントに関しては貴仁は150P、ヒルダは200P、九条とペルセポネも治療を受けたが、そのバトル内容で視聴率に貢献したため減少は無し。ペルセポネは素肌を晒した甲斐があったというべきか、むしろ50P追加となっていた。
丈二は九条のバトルで視聴率上昇にはつながらなかったが、調味料スポンサーは喜んだようでポイントの追加となったのである。
※現在視聴率80%
鬼龍貴仁 500P→650P
大熊 丈二 250P→300P
ヒルダ・ノーライフ 350P→550P
ペルセポネ・エレウシス 200P→250P
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