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種もみ学院~配り愛

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種もみ学院~配り愛

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ファイル3


 蒼空学園に着くと、美羽はすぐに放送室へ向かい校内放送で坂井康介を生徒会室に呼び出した。
 美羽達も生徒会室に移動して待つこと数分、扉がノックされ康介がおずおずと開ける。
 彼にとって縁のない場所なので、緊張しているようだ。
 しかし、それもシニフィアン・メイデンの二人を見たとたん消え去った。
 アッと驚いた顔で二人を凝視したかと思うと、みるみる興奮に頬を赤くして駆け寄ってくる。
「本当に来てくれたんだ! すごい! 感激です!」
 大ファンのシニフィアン・メイデンを間近に見て、康介は目をキラキラさせている。
「あの、マジでチョコを……?」
「その前にお話ししたいことがあるの」
「お話し……?」
 さゆみの冷ややかな声に、康介はようやく自分に何かが降りかかろうとしていることに気がついた。
 さゆみの双眸が冷たさを増す。
「あなた、パートナーを放置しておいてアイドルからチョコもらおうなんて、ずい分豪胆な人ね」
 康介はまたもアッと驚きの顔を見せたが、次の瞬間にはしかめっ面になった。
「あいつに会ったの?」
「どんな事情かわからないけど、ここでふつうに学生やってるってことはパートナーをシャンバラへ来るための道具にしたってことよね。最低だわ」
 大好きなアイドルに最低と言われてしまい、涙目になった康介にアデリーヌが追い打ちをかける。
「あの獣人がどんな思いでいるか、考えたことありますの?」
「それは……でも」
「まぁまぁ。この人の話も聞いてみませんか?」
 舞花が仲裁に入ると、最初からそのつもりだったとアデリーヌは頷いた。
 話を聞いてくれるとわかったとたん、康介は勢いづいた。
「あいつに会ったならわかってると思うけど、あいつは男だったんだ。ネットで話した時は女だって言ってたのに。空京について待ち合わせ場所を決めるやり取りしてた時に暴露したんだよ、実は男ですって。信じらんねぇ!」
 ずっと誰かに言いたかったのだろう。康介は一気にぶちまけた。
「俺は女の子と契約したかったのに!」
 打ち明けられた内容に、誰もが唖然としていた。
「つまり……嘘をつかれたから、会ってやるもんかということ?」
 さゆみが確認をとれば、康介は強く頷く。
 さゆみとアデリーヌは顔を見合わせ、さらに美羽、舞花へと視線を移していく。
 みんな戸惑っていた。
 契約の泉で待っているトラの獣人は確かに男性で、その時は人間形態だったが毛深くてトラっぽい外見だった。
「確かに嘘はよくありませんが、でも、一度は会ってみませんか? 彼も謝りたいのかもしれませんし……」
 舞花が控えめに言うと、康介は彼女をじろじろ見た後、にやりとした。
「デート一回!」
「え……?」
「それなら会いに行ってもいい。名前は?」
「舞花です……いえ、そうじゃなくて」
 困る舞花の前に、ずいっと美羽が立った。
「そういう交換条件はないんじゃない? もとはと言えば君達の問題なんだから」
「あれぇ、副会長? 何でここに?」
「ずっといたよ」
 康介はペシッと自身の額を叩いた。
「俺ってば、シニフィアン・メイデンしか見えてなかった! ここには美少女副会長もいたってのに。舞花ちゃんもかわいいし、よく考えたら密室で美少女に囲まれてる俺って、すごく幸せなんじゃね!?」
 女の子大好きな康介が自分の幸せに浸っている間、美少女達の空気はどんどん冷えていった。
 幸福のあまり調子に乗った康介が言った。
「せっかくだから、一人ずつデートしてくれたら契約の泉まで行ってもいいよ」
 しかし、その笑顔はすぐに凍りつく。
 冷気を吐くように、さゆみが恐れの歌を低く歌っていたからだ。
 背筋を震わせる康介にアデリーヌがそろりと近寄り、ひんやりとした指先で頬を撫でた。
「黙って行けばいいのですわ」
 吸精幻夜をかけられ、ぼうっとした目になる康介。
 後は契約の泉まで連行するのみ、とアデリーヌが思った時。
「なんか……いい気持ち〜」
 康介はにへらっと緩んだ笑みを浮かべると、アデリーヌに抱き着こうと両腕を広げた。
 反射的にさゆみが康介を張り倒すと、その痛みさえ快感になったのか床に転がったまま身悶えていた。
「こいつ変態……!?」
「吸精幻夜とかナンパな性格とか、混ざったんじゃないかな」
 口元を引きつらせるさゆみに、美羽が苦笑して推測を言った。
 彼女達が康介を契約の泉に連れて行くのは揺るがないが、できれば彼に触りたくないという心境だ。
 舞花は外に控えさせていた特殊作戦部隊を呼んだ。
「この人達にアルバトロスで運んでもらいましょう」
 屈強な男達に手足を掴まれて運び出されようとした瞬間、カッと目を見開いた康介が暴れ出した。
「男が触るんじゃねー! 俺に触れていいのは女の子だけだー! 放せ! 腐る!」
 見苦しいその様を、美羽が冷たく目を細めて見やる。
「ナンパ男も被害者だったけど、あれはないよね。蒼空学園の副会長として、変態から女子生徒を守らなくちゃ」
 お灸が必要だね、と美羽は言う。
「舞花、このナンパ男の移動、私に任せてくれるかな」
「かまいませんけど、どうするんですか?」
 美羽は含みのある笑みを浮かべると、康介を外に運んでくれるように頼んだ。
 特殊作戦部隊員が康介を運んだ先には、美羽が待機させていたSインテグラルナイトがあった。
 それに乗り込んだ美羽は機体を起動させると、康介の体を掴みあげた。
「わーっ! 何する気だー!」
「契約の泉に行くよ!」
「やめろー! 毛むくじゃらの男なんぞに会いたくねー!」
「しゅっぱーつ」
 康介の叫びを綺麗に無視して、美羽はSインテグラルナイトを飛び立たせた。
「き、危険な予感がします。追いましょう!」
 舞花達もアルバトロスで急いで契約の泉へ向かった。

 契約の泉では、トラの獣人のツェーザルと一緒にコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がみんなの帰りを待っていた。
 美羽が来たとどこからか聞きつけた種もみじいさんも、種もみの数を数えながら待っていた。
「あ」
 と、コハクが太陽の光を反射させたSインテグラルナイトに気づく。
 空の向こうからどんどん近づいてくるその手に人影を認め、小さくため息を吐いた。
 Sインテグラルナイトはスピードを緩めることなく迫りながら、康介を掴んでいるほうの腕を掲げた。
 その腕が振り下ろされた直後、投げられた康介の死にそうな悲鳴、泉と衝突、激しくあがる水飛沫、と連続で繰り広げられ、水飛沫はコハク達もかぶった。
 少しして、水面に康介がぷかりと浮かんだ。
「ただいまー」
 と、機体から降りてくる美羽を、コハクは何とも言えない表情で迎えた。
 美羽はトラの獣人を見つけると、泉を指して言った。
「あの人がお待ちかねの人だよ。……ねぇ、嘘はダメだよ」
「うぅ……ごめんなさい。でも、この外見のせいか素顔でパートナー募集してもなかなかつかまらなくて……」
「反省してるならいいけど。後は二人で話し合ってね」
「……話し合いなんて必要ねぇ」
 泉から這い上がってきた康介が、地を這うような声で言いきった。
 ツェーザルがおろおろしながらも近寄ると、ムスッとした目で睨みつける。
「あんたがパートナーか。ぜんっぜん俺の好みじゃないね!」
「嘘をついたことは謝るよ……でも、話を聞いてほしい」
 険悪な二人の様子を心配そうに見守りながら、コハクは美羽に事情を聞いた。
 説明の途中、アルバトロスが到着して舞花達が降りてくる。
「すぶぬれ……突き落したんですか?」
 尋ねる舞花に頷く美羽。
 さゆみは「当然ね」と納得している。
「俺は、契約相手は女の子って決めてるんだ。あんたとは間違いだったってことで、それぞれ勝手にやろうぜ」
「反省の色がありませんわね。彼はパートナーを持つ以前の問題ですわ」
 アデリーヌは呆れて果てていた。
 コハクは思案の後、遠くから初対面の様子を覗っているカンゾーとチョウコのもとへ行った。
 相談の内容に二人は頷いた。
 ツェーザルを頑なに拒否する康介の襟首をカンゾーが掴む。
「おまえのその根性、叩き直してやる。てめぇで選んだことだろうが。嘘ついたツェーザルも悪ぃが、出会い系を利用したおまえもおまえだ。人のせいばっかにしてんじゃねぇ」
「トラ男、仲間を呼ぶなんて卑怯だぞ!」
「アンタ、そんな甘えた根性じゃ、この荒野で生きていけないよ。アタシらが教えてやるよ」
「スケバン……!? 悪いけど、君はあんまり好みじゃな……へぶぁ!」
 チョウコはピシャッと康介を叩いた。
「契約した以上、一度はちゃんと会うのが筋ってもんだろ。いい加減な奴にはシニフィアン・メイデンもチョコを渡す気になれねぇってよ」
「そうね。あたし達のファンに薄情な人がいるっていうのも悲しいわね」
「渡すなら、気持ちの良い相手のほうが渡しがいがありますわね」
 チョウコの言葉に、さゆみとアデリーヌは合わせた。
「女の子が好きなのはわかる。俺も大好きだ。だが、てめぇのしたことに責任持てねぇ奴に、ナンパする資格はねぇ」
 カンゾーが指を鳴らし、チョウコが鉄パイプを振り回した時、康介は降参した。
「わかった! トラ男と蒼学に通うよ! これでいいんだろ!?」
「通うだけじゃダメよ。無視しないで、いろんなことを二人で協力しあっていくのよ」
 さゆみの鋭い指摘に、康介は言葉に詰まる。考えを見抜かれていたのだ。
「私と美羽さんが見張っていますからね」
「もし、ツェーザルに酷いことしてたら、今度はナラカに叩き落とすよ」
「それは嫌!」
 舞花と美羽に畳み掛けられ、康介は今度こそ観念した。
 とぼとぼとツェーザルの前に歩み寄る。
「……よろしく」
 そっぽを向いて無愛想な挨拶だったが、ツェーザルはホッとした笑みを浮かべていた。
 彼は嘘をついたことを頭を下げて謝った。
 そんな二人に、さゆみとアデリーヌはチョコレートを贈った。