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リアクション
【2章】攻める
集落から少し離れると、森の中にはまだ結構な量の雪が残っていた。時折樹上に積もっていたものが枝をしならせ、勢いよく地面に落ちる音が聞こえてくる。
そんな中、茂みに身を隠す人影が二つ。
「ククク、前回はソーンに振られてしまったが、逆にソーンという人間に興味が湧いてきたな。まずは、奴の研究がどこまで進んでいたのかを知っておくとしよう」
そう言いながら、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は茂みの中からフラワーリングの様子を観察している。
一方のデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)はといえば、ハデスの話にあまり興味がないのか、「お菓子が食べたいなー」などと全く無関係なことを呟いていた。
「確か、妖精の村の学校の職員室に、ソーンの研究資料が電子化されて残されているという話だったな。……デメテール」
「えー、働きたくなーい。早くお家に帰って、こたつでお菓子食べてたいよー」
面倒な事を命じられる前に、デメテールは不満そうな顔でそう言った。しかし、そんなことでめげるハデスではない。
「デメテールよ。妖精の村に忍び込み、ソーンの研究データを手に入れてくるのだ!」
有無を言わさずに彼は、いつもの大げさな口調で今回の命令を下す。
それに対しデメテールは尚も拒絶を続けたが、結局は根負けしてハデスの命に従うこととなった。
「ちぇっ、しょうがないなー」
いかにも渋々といった感じで集落へ向かったデメテールの背中を見送りながら、ハデスは改めて身を隠すのに適当な場所を探し始めた。
「さて、それでは、俺はデメテールが戻るまで、森の中にでも身を隠しておくか……はっくしょん」
季節は冬。
雪に覆われた森の中にあって、ハデスの恰好は学生服に白衣を纏っただけという簡素な物だ。隠れるのには丁度良いのだが、頭上の木々によって陽光が届かない森の中は、やはり少し――否、かなり冷える。
次第に込み上げてくる震えを感じながら、ハデスはデメテールの報告を待つが、果たして……?
そのデメテールは【特殊作戦部隊員】を【密偵】に放ったのち、何食わぬ顔をしてフラワーリング内に入り込んでいた。【トレジャーセンス】を発動すると、その感覚に従って情報を探し始める。
「むっ、こっちから、お宝の感覚が!」
デメテールは引き寄せられるように学校へ向かい、スキルを駆使して潜入を試みる。その先にあるのは職員室――ではなく、甘い香りの充満する大教室であった。
「おー、お宝発見!」
さながら大調理室と化したその教室では、彼女が求めていたお宝もとい菓子類が量産されているところだった。作りかけのチョコレート菓子やその材料類などが、どのテーブルにも所狭しと並べられている。
デメテールは早速近場のテーブルに狙いを定め、気配を消したままさっと死角へ滑り込む。そして疾風のごとき早業で目的の物を掠め取ると、そのまま口の中へ放り込むのだった。すぐに甘く芳醇な香りが鼻に抜けて、幸せな気持ちになる。
その様は、デメテールなりに2月14日を楽しめているようであった。もっとも、仕事のことは既に忘れてしまっているようでもあったが。
なお、そんな彼女が戻るまでの間に、ハデスは半日以上寒い森の中で待たされる羽目になったのだった。
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