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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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 同時刻 ヴァイシャリー 上空

『アルバイト情報で、時給が良くてまかない付きのバイト……で来たら、なんでこんな危険地域!?』
 バンデリジェーロで“フリューゲル”bis率いる“ヴェレ”と戦いながら大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)はぼやいた。
『お料理するって約束できましたのに……どうしてこんなことになっているのでしょうか』
『おい、ウィーナー・シュニッツェルをしこたま作る予定で来たんじゃなかったのかい!? 契約違反だ、違約金と……割り増し賃金を要求するぞ、生き残ったらだけど!!』
 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)もオペレーター席でぼやいている。
 ただ一人、サブシートの讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)だけは落ち着いているようだ。
「なにやら、初めの約束と違う労働条件のようだのぅ。折角割烹着も用意してきたのに……。迅竜に合流する車がわりにイコンで来たのが、仇になったようじゃの。まあよいわ。『料理』の対象が、食材から『敵』に変わっただけのことではあるわ」
 
 都合四人乗りの賑やかなイコン――バンデリジェーロ。
 その僚機として飛ぶのは高崎 朋美(たかさき・ともみ)ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)ウィンダムだ。
『時給がいいからやってきた? 相変わらず細かいね、泰輔君! 約束の仕事以上のことさせられるんだったら、賃上げ交渉、あとで手伝ってあげるよ?』
 朋美の言葉に泰輔は即答する。
『頼むよ! まったく……給仕担当って聞いて来たのにどうしてこんな……』
 するとウルスラーディが喝を入れる。
『こうなっちまった以上、仕方ねえだろ! いくぞ!』
 気合いを入れるようなウルスラーディの声に今度は朋美が頷く。
『うん。まだ隠し球があるかもしれないね、敵には。きっちりデータ取っていくよ、シマック!』
『おうよ! 第2世代と侮るな、次世代相当機とやら!』
 
 給仕担当志望で来たとはいえイコンパイロットとしての地力が高い泰輔たち。
 そして、幾度となくエッシェンバッハ派の機体と戦ってきた朋美とウルスラーディ。
 たとえ第二世代機といえど、彩竜のサポートもある現状、そして何よりこの二機にはパイロット同士の連携という強みがある。
 ゆえに二機は“ヴェレ”を圧倒しつつあった。
 
『厨房に来たっていう新入りさん……まさかこんな才能があったとは』
 マルコキアスIIのコクピットでスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)は驚いていた。
 もっとも、新型機であるマルコキアス?。
 そして鉄心とスープの技量を持って、彼等もまた“ヴェレ”を圧倒しているのだが。
『さて――』
 
 “ヴェレ”を撃破し、鉄心はカメラアイを彼方へと向ける。
 その先では今まさに、“フリューゲル”bisと仲間たちが刃を交えていた。
 
『お前は言った、世界に俺達の存在を忘れさせない為にこんな事をするのだと。世界を変えるために……それがお前たちの集団の方針みたいなものなんだろう。だけど俺は認めない。力を振るえば必ず関係ない子供達が傷つく、力を振るい続ける限り世界は変わらない』
『フォーゲルさんが戦争とは無縁な子供達が傷つくのが嫌というのは分かったのです。でもそれじゃあどうしてこんな事をするのです?』
 “フリューゲル”bisと光刃を交えるアマテラスのコクピットで語りかける神条 和麻(しんじょう・かずま)エリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)の二人だ。

『綺麗事だなッ!』
 光刃を叩き返す“フリューゲル”bis、もとい航。
『戦いに綺麗事も何もありはしない。本当に世界を変えれるのはお前らでも俺達でもない、どれだけ苦しくても手を上げず…声を大にして訴え続けられる人達だけだ!』
 負けじと和麻も言葉と光刃を叩き返す。 
『俺も悲しみを広げる一人なんだって分かってる……だからこそ。俺は、同じように力を振るう奴を止める為に戦うんだ。平和を願う人達の声が届くように!!』

 スパークを上げて拮抗する光刃と光刃。
 そんな中、シュヴェルツェ シュヴェルトの貴仁、アレックス・マッケンジー(あれっくす・まっけんじー)も説得に参加する。
『フォーゲル! いい加減に気付くべきなのだよ!』
『『平和を欲するなら、戦争を理解せよ』か? 『平和にも勝利がある。戦いの勝利に劣らぬ名だたる勝利が』ってやつのがいいんじゃないのか!?』
 前回の教訓を活かし、航は彩羽に入念な索敵を頼んでいた。
 そして“シュピンネ”は見事、早期警戒機としての機能を発揮し、ステルス状態にあったシュヴェルツェ シュヴェルトを発見したのだ。
 しかし、“フリューゲル”bisはすぐに貴仁たちを撃墜しようとすることはなく、言葉をぶつけ合うことを選んだ。
 もしかすると、対話の意思が少なからずあるのかもしれない。
 
 やはり訪れる拮抗状態。
 それを破るようにして、この場にいるすべてのイコンのコクピットシステムがアラートを鳴らす。
 
『鉄心、下がって。此処から先は、私のやり方で行かせて欲しい』

 現れたのは富永 佐那(とみなが・さな)エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)の駆るザーヴィスチ
『ジーナ!』
『また会ったわね』
 ヴァイシャリーの上空で再び二機は相対する。
 一触即発の緊張状態の中、佐那は口火を切った。
『これだけは最初に言っておくけどね、強引に連れ去って、あのウサギを手に入れても後悔するだけだよ。確かに、あたしにとって彼女は善い友達だった。でも、一度ウサ耳を付けてウサウサ言いだしたら最悪。全く人の言うこと聞かないし、我侭だし凶暴だし、五月蝿いし、そのくせ寂しがりで気が小さい所があるし、泣き虫だし、かと思うと突然もの凄く可愛い笑顔を見せるし。ウサギなんてとんでもない。悪魔よりも面倒臭い、最高の莫迦ウサギ! ……でもさ、そんな色々手を焼かされたウサギけど、憎めなくてね。だから、あたしが勝ったら、彼女は返して貰うよ』
 
 一息に言い切ると、佐那はザーヴィスチを全力でけしかける。
 嵐の儀式で起こした緩急を付けた風を使い、凝縮した風の力を踏み台にし機動を急変更する佐那。
 更にダウンバーストの流れを利用して急降下し、ザーヴィスチを“フリューゲル”bisに追従させる。
 
 それだけではない。
 百合園女学院の尖塔に待機したソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)からリアルタイムに情報を得て、佐那はソフィアを第三の目として活用する。
 そして、足利 義輝(あしかが・よしてる)も整備に協力したザーヴィスチ。
 仲間たちの力をすべて結集し、佐那は“フリューゲル”bisへとそれを叩き付ける。
『これが答え。貴方のフリューゲルと同じ空に至る為の、最後の1ピース。それが風使いとしての、あたしの力』
 繰り出される新式ダブルビームサーベルの斬撃。
 
 的確にコクピットハッチを斬り割こうとするザーヴィスチの光刃。
 対する“フリューゲル”bisも、済んでの所でそれを光刃にて受け止める。
 
『!?』
 佐那は驚愕した。
 風の後押しを受けて更に加速したザーヴィスチ。
 その速度にすら“フリューゲル”bisは対応してみせたのだから。
 
『は……ぁ……っ……は……ぁ……っと、まだ……墜とされてやるわけには……いかねえん……だ……よ……ぁ……はぁ……っ!』
 通信帯域を通して聞こえてくる航の声。
 いつも通り、軽快なダンスチューンとともに聞こえるその声はいつもと違い、苦しげだった。
 
 いつになく苦しげな航の声を聞き、佐那はその理由を理解した。
『――どうしてそこまで無茶をするの? 一見すると無茶なことを平然とやってのけるようでも、その実、自分の命を守ることをちゃんと考える貴方らしくないよ』
 
 佐那の言う通りだ。
 前回、戦い方が変わったと思ったら、また今回も変わっている。
 
『へっ……何のことだ?』
 苦しげなのに無理しているのが見え見えな様子で、無理に飄々とした調子を気取る航。
 対する佐那は落ち着き払った様子で断じた。
『その機体、間違いなくイナーシャルキャンセラーの類は積んでるんでしょう? でも、それをもってしても削ぎきれないGや慣性がかかるほどの速さを出したわね。おそらく、カットしたんでしょう? その機体の、リミッターを――』
『お見通し、ってワケかよ……が……はっ……』
 
 飄々と笑ってみせながらも、苦しげに息を吐く航。
 佐那は更に問いかける。
 
『どうして?』
『約束……したんだよ……あのウサギと……。悪魔よりも面倒臭い、最高の莫迦ウサギと……な』
 言い終えて息を吐くと、航は再び機体を限界を超えて加速させる。
 
 佐那曰く、『そこまで無茶』をした加速で高高度へと舞いあがる“フリューゲル”bis。
 そのまま漆黒の機体はどこかへと飛び去って行った。