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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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 数時間後 ヴァイシャリー 市街地
 
 
 
 次々に破壊され、蹴散らされていくキラーラビット部隊。
 だが、その中でも明らかに他のキラーラビットと動きの違うものが一機。
 同じキラーラビットでありながら、その機体は危ない所で“ヴェレ”部隊の攻撃をしのぎ、それどころか敵部隊を牽制してまでいる。
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)ラーン・バディだ。
 ラーン・バディは第一世代機。
 まさに今、“ヴェレ”に圧倒されているキラーラビットだ。
 だが、ラーン・バディは“ヴェレ”部隊をなんとか足止めしていた。
 
 そして、百合園を守っているのは彼女達の機体だけではない。
「機体性能の差はどうにもならんし、腕でカバーするしかないのぉ。向こうはパイロットも一流なんじゃろうが……こちらが第一世代機という事で油断してくれれば取り付く島もあるじゃろう」
 コクピット内でぼやくミア。
「たとえ第三世代機が相手でも百合園生として、大切な場所を守る為に戦う。第一世代機でだって戦えるさ――百合園を潰させやしないんだよ!」
 気合いの入ったレキの言葉に深く頷くミア。
 二人は頷き合うと、ラーン・バディを走らせる。
 
 そして、百合園を守っているのはラーン・バディだけではない。
 
「今だよ! 綾乃!」
 レキが通信機に向けて叫ぶ。
 
『了解! ――まいちゃん!』
『わかったわ! いっけぇぇぇっっ!』
 次いで通信に返ってくる少女たちの声。
 ペガサスであるミルディアーナの背に乗った桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)の二人だ。
 通信を担当する綾乃、そして――。
 
「どうかしらっ! ――そのまま沈んでなさいっ!」
 ペガサスの機動性を活かして急降下。
 直後、攻撃を担当する舞香は爪先と踵を武器として使えるほどに尖らせたハイヒール――バトルハイヒールによる蹴りを叩き込む。
 狙うは“ヴェレ”が魔法によって凍らせ、足場としている足元の水面だ。
 急降下蹴りによって衝撃を与えられた氷は、イコン一機分の重量に耐えきれず破砕する。
 
 それを繰り返し、舞香は次々と“ヴェレ”を沈めていく。
 ラーン・バディが攻撃で動きを止め、舞香が氷を砕く隙を作る。
 そして、舞香が氷を砕く。
 絶妙なコンビネーションだ。
 
 だが、沈んだ“ヴェレ”はすぐに水路から立ちあがった。
 そのまま路上に足を踏み出すと、陸所へと上がる。
 
『やっぱりすぐに上がってきた!』
 レキからの通信にも、舞香は頷くだけだ。
『すぐに立て直してくるだろうから時間稼ぎにしかならないだろうけど……通常イコンじゃ撃破するのは無理だわ。とにかく、救援が到着するまで敵の進軍を妨害して時間を稼ぐのよ』
 そう答えた直後。
 不可視の衝撃波がミルディアーナを襲った。
 横合いから強烈な一撃を受け、ビルの壁面へと激突するミルディアーナ。
 洒落たデザインのビルにミルディアーナと背に乗る二人はめり込む。
 
「舞香……! 綾乃っ!」
 悲痛な声を上げ、レキはラーン・バディを“ヴェレ”へと向かわせた。
 しかし、舞香への追撃を阻止するどころか、逆に不可視の衝撃を受けて機体が一部破損する。
 
『……くっ……!』
 つらそうに声を漏らすレキ。
 それを通信超しに拾った舞香は、消え入りそうな声でレキに告げた。
『大丈夫……』
『で、でも……!』
 声を上げるレキ。
 それももっともだ。
 今、まさに“ヴェレ”部隊は進撃してくる。
 このままでは、自分たちはもとより、百合園へと直接攻撃をかけられるのは間違いないだろう。
 
 だがそれでも、舞香の声はどこか落ち着いていた。
 そう――まるで、何かをやり遂げた者の声のように。
 
『……大丈夫。あたしたちで、何とか守り切れた、から』
『守りきったって……!?』
 問い返すレキの声にも返事はない。
 舞香はうわ言のように呟くだけだ。
『……守りきったわ。後はお願い――』
 
 ここにはいない誰かに向け、呟く舞香。
 ラーン・バディとミルディアーナ。
 一機と一頭に二機の“ヴェレ”がそれぞれ手の平を向けた瞬間。
 
『――シルフィード?、そしてミニュイ・プリマヴェール』
 舞香がただそれだけ言い終えると同時。
 超高速の機影がヴァイシャリーの空を舞った。
 
 どこからかの奇襲を受け、不可視の衝撃波を放つのを見事に阻止された“ヴェレ”部隊。
 咄嗟に頭部パーツを上げた“ヴェレ”部隊。
 そのカメラアイの先には、今までエッシェンバッハ派が相対したことのないイコンの姿が二つ。
 
『はぁ、アレが噂に聞く禁断兵器クラスでもなきゃ何でも無効化するとか言う壊れイコン達なわけね……出来れば相手なんてしたくないけど。けれど、レキさんや舞香さんが守り抜いてくれたのだもの。ここは私も引けないわね』
『ふぇ〜、あれが噂のヴェレさんなんですねぇ〜……相手したくないのは同感ですぅ〜』
 純白のセラフィム――{ICN0005593#シルフィード?}。
 ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)の愛機だ。
 
『お待たせ! みんな! さぁ行こう、プリマヴェールの初陣だよっ!! ラディもちょっとだけ機体の挙動が違うけど、操縦お願いね!!』
『もちろん! ネージュさんが安心して攻撃に集中出来るように頑張るよ!』
 そしてもう一機は腰のリボン型のツインリアクタードライブから黄金の粒子を吹き出す機体。
 漆黒のカスタム制服をまとった百合園生徒を思わせるデザインのイコン――ミニュイ・プリマヴェール
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)ラディーチェ・アコニート(らでぃーちぇ・あこにーと)の新たな愛機だ。
 シェイクダウンしたばかりのこの機体を取りに行くべく、一時的に迅竜を降りていたネージュとラディーチェ。
 二人が百合園に戻っていたのは運が良かったと言えるだろう。
 
 “ヴェレ”部隊を圧倒するように攻撃をしかけていく二機。
 そんな中、シルフィード?のオペレーター席で及川 翠(おいかわ・みどり)が問いかけた。
「……ところで私、やっぱり何もしなくていいの?」
 翠はシルフィード?の機内オペレーター席にちょこんと座っているだけだ。
 座席からは触れるもの――計器類やスイッチなどが全て撤去されている。
 その為、文字通り座っているだけ、もとい歓声を上げたりしているだけだ。
 なお、触れるものを撤去された理由は、好奇心で勝手に色々触ってしまった為である。
「いいから」
「いいから」
 
 メインパイロットシートとサブパイロットシートから同時に返ってくる声。
 タイミングもバッチリなら、内容までドンピシャだった。
 
 そんなやり取りをしながらも、シルフィード?は“ヴェレ”を圧倒していく。
 それに負けじとミニュイ・プリマヴェールも奮戦する。
 
 このまま二機が“ヴェレ”部隊を退けると思われた時だ。
 突如現れた炎の猛禽が空中でミニュイ・プリマヴェールへと体当たりする。
 更には地上から飛び上がった雷の四足獣が飛行中のシルフィード?へと跳びかかる。
 たまらず落下してきた二機へと追撃をかけるのは冷気の巨人だ。
 
 手痛い打撃を受けて路面に落下しながらも起き上がる二機。
 そのカメラアイの向く先からは、一機のイコンが歩いてくる。
 まるでそこに道があるかのように、水面を歩いてくる漆黒のイコン。
 ――“ヴェレ”bisの姿がそこにはあった。
 
 起き上がろうとする二機のイコン。
 だが、二機はまるで不可視の力に押さえつけられたように動けない。
 
 防衛要員である二機の動きが止まった横で、漆黒の“ヴェレ”はゆっくりと足を止める。
 まるで何かを待っているような所作を見せると、ほどなくして二機のイコンが合流する。
 現れた二機は、どちらも“ヴェレ”bisと同じく漆黒のカラーリング。
 エッシェンバッハ派の機体の中で最も早く確認された機体――来里人の愛機。
 そしてもう一つは、最も新しいシュバルツタイプ――彩羽の愛機だ。
 
 来里人の機体は追加外装により、“ヴェレ”と酷似した様相を呈している。
 そのせいだろうか、来里人の機体は“ヴェレ”bisと同じく、シルフィード?とミニュイ・プリマヴェールに手の平を向けた。
 
『それには及びませんよ』
 意外にもそれを制したのは“ヴェレ”bisのパイロットだった。
『確かに“ツァオベラー”タイプのユーバツィア――その性能を見てみたい気はします。ですが、今優先すべきは百合園女学院への進撃。ここは僕とこころさん、そして“ツァオベラー”に任せてください』
 饒舌に語る“ヴェレ”bisのパイロット。
 それに対し、来里人と彩羽は頭部パーツを操作して機体を頷かせただけだ。
『一人、連れて行かれるとよいでしょう』
 “ヴェレ”bisのパイロットの言葉。
 それを合図に“ヴェレ”bisにつき従っていた三機のうち一機の“ヴェレ”が来里人につき従う。
 そして漆黒の二機は、濃緑色の“ヴェレ”を引き連れて百合園へと向かっていった。