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妖怪の山・被害者救助


 温泉宿『のっぺらりんの宿』前。

「まずは拠点の安全を確保して非感染者を守らなければなりませんね」
「その通りだよ。避難場所が汚染されていたら意味が無いからね。という事で空気をコントロールして宿への薬物侵入を防ごう」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は救助の要請を受けてやって来た。
 その時、
「それなら、ここに空気を集めてくれ。凍結して他に広がるのを防ぐ」
 遠野 歌菜(とおの・かな)と共に救助に駆けつけた月崎 羽純(つきざき・はすみ)が登場。
「そうすれば、後の空気清浄が円滑になりますね」
「お願いするよ」
 羽純の申し出をエースとエオリアは喜んで受けた。
「あぁ、早速だが頼む」
 羽純は凍結の準備を整え、
「それじゃ、始めるよ」
 エースは『風術』で空気をコントロールして羽純の前に汚染した空気を集め
「……凍結する」
 羽純が『アブソリュート・ゼロ』で汚染された空気を巻き込んだ氷壁を作り出し宿周辺の被害拡大をひとまず防いだ。
「これでしばらくは安全ですね」
 安堵するエオリア。
「よし、被害者救助を始めようか。まずは聞き込みからだ」
 エースはやるべき事のために歩き出した。
「……聞き込みですか。まだ完璧な解除薬が出来てませんから植物との長話はしないで下さいよ……それでは僕らは」
 エースの聞き込み相手を知るエオリアは釘を刺しつつ後に続き、宿で何やら確認をしてから救助に向かっていた。
「あぁ、頼む。さて、俺達も行くか」
 エース達を見送った後、羽純は他の者達と打ち合わせをしている歌菜の所へ。

 凍結作業の間。
「ここの安全確保は大丈夫そうですね。そうなれば、後は空気清浄薬と完璧な解除薬を一刻も早く用意して山全体に散布しなければ。それにはまずシンリさんを捜して解除薬製作に入って貰わなければ」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)はパワードスーツを上から下までフルに着込み完全防護である。
「そうだね。私も手伝うよ。まだ避難していない妖怪や人達の避難誘導をして完璧な解除薬が出来上がるまで汚染した空気を凍らせて時間稼ぎをするから」
 舞花と同じ目的である歌菜が言葉を挟んだ。
「解除薬の作製はルカ達が担当するよ。もちろん出来たら配布も手伝うよ! そのためにタンクも用意して配る準備も整えているんだから」
「危機的な状況である今は人手はあればある程いいだろう」
「配布ついでにあの黒亜とやらの顔を拝みたい所だな。非道な騒ぎを起こす者がどんな顔をしているのか」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)夏侯 淵(かこう・えん)が登場。
 その時、
「あっ、羽純くん、終わったみたいだから私行くね。その前に空気清浄薬はどんな形になる予定?」
 歌菜はやって来る羽純に気付き、打ち合わせを切り上げこの場を離れた。
「液体になるかと思います。とにかく完璧な解除薬と空気清浄薬は任せて下さい。私もシンリさんを捜して来ます。散布装置はすでに手配していますし」
 舞花も歌菜に続いて行動を起こした。その前に散布時の確認を切り出した。実は『根回し』、『資産家』、『用意は整っています』で先回りして業者に頼み支払いを済ませた魔法薬に対応した散布装置を調達し、宿の方に置かせて貰っているのだ。
「気を付けてね。ルカ達もすぐに行動を起こすから」
「被害人数が多いため解除薬は液体にして空中散布の予定だ」
 ルカルカとダリルも準備を整えていた。
 その時、
「それなら私は宿の方を手伝うよ。完璧な解除薬が出来たら配布に回るね」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が人命救助に登場。
「うん、お願い」
 ルカルカは即答した。
 通常の解除薬で身を守る九人はようやく動き出した。

 宿内。
 『薬学』を有するエースの言により被害者、非感染者、調薬する場所は全て分けられ念のため感染が拡大しないようにされた。

「……完璧な解除薬の製作が始まったけど大丈夫かな。こんなにもたくさん……」
 美羽は通常解除薬を宿に避難して来たみんなに配布しながら様子を見て回っていた。
 そんな時、
「避難者を連れて来たよ」
「誰か手伝いをお願いします」
 宿の入り口からエースとエオリアの人を呼ぶ声。
 美羽は急いで駆けつけ
「手伝うよ……って、睡蓮ちゃん!!」
 数人の被害者の中に見知った妖怪、仲居である座敷童の睡蓮がいた。
 慌てて駆け寄り睡蓮に肩を貸し支える美羽。
「……あっ……来ていたんですね」
 胸の花が枯れかけているせいか睡蓮は弱々しくわずかに顔を上げ、美羽を確かめるなり安堵した。そして、睡蓮を含む被害者達に通常解除薬を飲ませた後、美羽はエース達に続いて睡蓮を部屋に運び入れた。

 被害者用の部屋。

「睡蓮ちゃん、どう? 胸の花、薬で枯れるスピードは遅くなったけど……」
 美羽は投薬を終えた睡蓮を気遣った。
「……少しだけ楽になりましたが……」
 体中の素材は消えるが胸の花だけは枯れスピードがゆるやかになるだけで消えていない。
「それならいいけど、すぐに完璧な解除薬が出来るからね。でもどうして外に?」
「……宿で使う山菜を採りに行ったら……急に変な植物が生えて」
 理由を問う美羽に睡蓮は仲居の仕事で巻き込まれた事を話した。
「大変だったね。すぐに元気になるからね」
 美羽はにこっと笑みを浮かべて励ます。こういう時だからこそ笑顔は大事だ。
「……ありがとうございます。先程まで不安でしたが少しだけ元気になりました」
 まだ油断は出来ない状況ではあるが睡蓮は美羽の笑顔に元気を貰い少しだけ心が癒されていた。
 その後、美羽は基本睡蓮の側にいたが避難者が運ばれる度に席を外し手伝いに行き、時には人手が足りないという事で山へ救助にいく事もあった。
 その時、美羽は別の魔法薬を散布しようとする黒亜に遭遇し、
「そんな事しちゃだめ!!!」
 『バーストダッシュ』で物凄い速度で接近し、黒亜の手にある瓶を飛び蹴りで蹴り飛ばし黒亜確保に転じるが、それよりも少し先に黒亜は逃亡し、どこかに行った。蹴り飛ばした薬に少しでも執着を見せていれば美羽に確保されていたのだが。
「……逃げられたけどみんながいるからきっと大丈夫なはず。とりあえずこの薬は回収しなきゃ」
 美羽は肩を落としながらも黒亜捜索がいるため焦りはなかった。美羽は黒亜から回収した瓶を手に宿に戻り処分に回した。
 しばらくして空気清浄と完璧な解除薬は成功し、程なくして黒亜も確保された。

 完璧な解除薬服用後。
「……花が消えた。体はどう? 痛くない? 気分が悪いとかはない?」
 美羽は服用を終えた睡蓮の具合を訊ねた。もちろん美羽も予防として服用した。
「大丈夫です。ありがとうございました」
 睡蓮は先程まで花が咲いていた胸に手を当てながら答えた。
「良かった。それじゃ、私はみんなに配ってくるから。睡蓮ちゃんは……」
 睡蓮の無事を確認した後、美羽は他の被害者を救おうと立ち上がった時、
「私も手伝います。ここに住んでるのに頑張らないのは駄目ですから」
 睡蓮も立ち上がった。ここに住む者として遅かれどやるべき事をやるために。
「そうだね。お願い」
 美羽は睡蓮の協力を得て完璧な解除薬を宿内と山中へと解除薬の空中散布を逃した被害者のために配布しに行った。すでに山中の空気は清浄されている上に美羽の他にも同じ目的で動く者達がいるため仕事はすぐに終わり山に平和を取り戻す事が出来た。