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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第18章 イルミンスールの祭典 Story11

 祭典開催から2日目。
 封魔術班は天井に敷いた陣から、上の階層へ連動駆動させる準備まで完了していた。
 テスカトリポカの同一化を行っているエリアは、エリザベートの見立てではもうまもなく済むようだった。
 これからがいっさい気を抜けない高難易度の任務だ。
「皆、どうしてるかな…」
「おりりん、しんぱいなのー?」
「うん…。けど私たちまで慌てたら、せっかく来てくれたお客さんが全然楽しめないからね」
 腕の中に飛び込んできたスーの頭を撫で、終夏は担当通りに接客を続ける。
「ほらスーちゃん、お客さんだよ」
「いらっしゃーい!」
 カウンターに降りたスーも接客をする。
「1つちょうだい」
「分かったー」
 スーは皿から小さな箸で桜の花の塩漬けをつまみ、湯呑茶碗に淹れる。
「おゆとどかないー」
「倒すと危ないから私がやるよスーちゃん。…はい、どうぞ」
 やかんのお湯を注ぎ、客に差し出す。
「小さな店員さんもいるのね?」
「うん、よく手伝ってくれるんだよ!」
「この子、あなたの使い魔?」
「えーっと…スーちゃんは私の友達なんだ」
「へぇー?」
 見慣れない使い魔を目にした学生は、物珍しそうにスーを眺める。
「どこに行ったらいるのかな」
「私も分からないんだよね…。うん?いや、スーちゃんは1人しかいないんだよ」
 ずっとスーから目を離さない様子に、同じ姿の使い魔がどこかにいるのかと聞いていることに気づき、世界に1人だけだから無理だよ…などと言って教える。
 学生は飲み終わった湯呑茶碗をカウンターに置き、残念そうに立ち去った。
「そっか、他の人には分からないよね」
 祓魔師について学んだことのない者には、ネコや犬などと同様に同じ姿の使い魔がいるのかと思ってしまうのだろう。
 欲しそうに見られても、たった1人しかいないスーをやるわけにはいかず、ぎゅっと抱きしめる。
「スーちゃんは誰にもあげられないよ…」
「おりりんとずっといっしょがいいー」
「だよね♪でも、花の香りくらいならあげられるかな…。スーちゃん、お願い」
「分かったー!」
 白い花のパラソルを出し、くるくると回転させて花びらを舞い散らす。
 ひらひらと舞いながら粒子のように拡散し、ほのかに甘い香りがカフェに広がっていった。



「真宵、売れてますか?」
「まぁまぁね」
 半分ほど減ったカートの中をテスタメントに見せてやる。
「先生たちはいないのかしら」
「(―…真宵!そんなに先生のことが気になるのですか)」
 監督役としてどちらかカフェに残っていないのか、という意味だったのだが…。
 テスタメントにはどうしても会いたい、などとしか聞こえなかった。
 真宵は複数形で言ったのだが、彼女の耳にはそこまで届かず、勘違いをしてしまった。
「プリンちょうだい」
「いらっしゃい。お客よ、テスタメント」
「あ、プリンの他にも懺悔とかも聞いているのですよ。さああなたは悪い事をしてきましたね。悪い事を全くしなかった人なんて存在しません、遠慮なく吐き出した方が気持ち良くプリンを食べることができるのです。さあ!さあ!」
 過去の罪を聞いてあげようと、ハイリヒ・バイベルを抱えて客に詰め寄っていく。
「や、やっぱりいらない」
「ま…待つのです!!」
 小さな罪の1つは2つはあるだろうが、祭典を楽しむためにやってきた客にはさっぱり理解できないサービスだった。
 それどころか変な人に遭遇してしまったと思い、足早に立ち去ってしまう。
「おや、行ってしまいましたね…」
「当たり前よ!懺悔のサービスなんてなくていいからっ」
 魔法学校の存在が誤解されてしまいそうで、拳でテスタメントの頭をぐりぐりしてお仕置きをする。
「いたたっ、テスタメントはただお客さんのために…。い、痛いです、やめてくださいっ!!」
 サービスを中止させようと、これでもかというほど仕置きを受ける。
「わ、分かりました、真宵っ」
「まったく余計なことばかりするんじゃないわよ。……着信?」
 目立つことばかりするパートナーに呆れ、ため息をつくと携帯の着メロが鳴る。
 出てみると相手は一輝だった。
 弥十郎が不可視の者の探知をしたらしく、彼の視界からは目に見えない者だったらしい。
 100%ディアボロスだろうと考え、真宵は急いで全員にメールを転送する。
 彼女からのメールを受けたカルキノスは、パニックになる前に一般客の脱出準備を整えようと仲間を呼び寄せる。
「厄介なのが来やがったようだな」
「歌ちゃんに携帯で聞いたら、こっちの発動を始めていいって。すぐやっちゃおうか?」
「はぁー…、祭りどころじゃないな」
 せっかくだから出店で美味しいものでも食べようかと考えていたカルキノスだったが、そんな暇はなさそうだった。
「あの、ちょっといい?」
 取り込み中なのかと思いながらも、白色のドラゴニュートが声をかけた。
「おっ…なんだ?」
「うち、友達と待ち合わせしてるんやけど、リンゴ飴の出店の場所がわからへんのどす〜」
「えーっとな、そこのわたあめがあるだろ?店から右方向に進めばあるぞ」
「そうなん…?お忙しいところ、えろーすんまへんどした」
「い、いや別に……」
「ほな…、おおきに」
 ぺこりとおじぎをし、待ち合わせの場所へと去っていく。
 あっという間に人ごみに紛れてしまい、かろうじで見えた簪の髪飾りも見えなくなってしまった。
「あぁゆうのが大和撫子っていうのか…?」
 もはや絶滅してそうな種別を目撃し、何もかも忘れそうなほどぼーっとしてしまう。
「どうしたのだカルキ。最終作業を始めるぞ」
「いやぁ、京美人みたいなもんもなかなか…」
「京……は?何を言っているのだ」
「ん、何だいたのか淵」
「さっきから呼んでおるのに、妙なことをぶつぶつと…」
「いやなんでもねぇ。よし、やるかっ」
 速やかに雑念を捨てないと、うちの白夜叉に何されるか分かったもんじゃない。
 ズンズンと足音を立てて仲間の元へと戻った。



 カフェでの封魔術の発動源の役割は、花の魔性使いであるエースが担うこととなった。
「責任重大だな…」
「いや、つまらない」
 ずっと遊んでもらえないことに、ついにアーリアがプイッと背を向ける。
「ごめんよ、アーリア。全て終わったら、皆でお茶会でもしよう」
「えー、今がいいわマイマスター」
「そんなこと言わないで頼むよ。アーリアもいい子だから、皆の身を護ってあげておくれ」
 膨れっ面をする彼女の頭を撫でてやると、しぶしぶ承諾してくれた。
「(いつサリエルの干渉が始まるか分からないからな。念には念を…)」
 時間の干渉が始まった時、すぐ分かるようにエバーグリーンで小さな草々を床に生やしておく。
「アーリア、花の花粉を」
「マイマスター、あの天井のものまで届けばいいのね?」
 血の情報で主の考えを読み取り、足元に咲かせたピンク色の花の花粉をパフッと小さく破裂させ、アーリアの手が示す先へ飛ばす。
 魔力の種を蒔くようにも見え、大地の芽吹きを待っていたかの如く、コードの中に琥珀色の光の線が巡回を始めた。
 指輪の宝石がチカチカと輝き、それに合わせクマラたちが裁きの章でブーストをかける。
「何…帽子を被ったやつら、人と違う気配が…」
「それがボコールだわ、セレン。まずいわね、天井の明かりに気づいてしまいそう」
「なら、目先のものへ向けるしかないね」
 ポレヴィークに生やしてもらった小さな木々を4箇所に出現させ、何の加工もしていないコードを巻きつけた偽物を用意していた。
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)たちのトラップのほうは安価の色つきベルをつけたものだった。
 本物を記憶させないよう、わざとまったく異なるものに変えていた。
「ディボロスをけしかけるとなると、お客さんは避難させておかないとまずいね」
「だいぶはぇーけど…、閉店ってことになっちまうな」
 カルキノスは正門前に待機させていた仲間を呼び寄せ、一般客の帰宅誘導を始める。
 “本日の祭典は終了だ、一般客のお帰りはあちらだぜ!”
 マイクを使って呼びかけるものの、やはりというべきか不平不満の声が上がった。
 文句を並べる客たちにカルキノスは謝りながら誘導していく。
 しかし彼の呼びかけに応じず、何人かは残ったままだった。
 肌の血色は死人のように酷く、奇妙なほど冷静な態度でこちらへ振り返った。
「目視できない気配はあるかな?」
「私の範囲だと目に見えるやつらだけよ、クリスティー。ディアボロスはもっと離れたところにいるのかも…」
「なるべくボクたちが引きつけるから、その間に封魔術を頼むよ」
「分かった、無理はしないでね」
 小さな声音で了承しクリスティーから離れた。
「ディアボロス、聞いてるーーー!?この陣は、ディアボロスを封印するための陣なんだよ!!」
 セレンフィリティの探知範囲外に潜んでいる虚構の魔性へコレットが呼びかける。
「へぇー…?それって何、おいしーの?」
 不可視の魔性はくすくす笑いながら背後から声をかけ、コレットの首筋をつっつく。
「い、いやぁあっ!?」
「あはは、驚いたーー?」
 慌てる彼女からすぐに離れ、けらけらと笑う。
「オレっちを封印するだって?」
「そうだよ、滅さないけど…それくらいはしなきゃいけないからねっ!」
 どうせ反省などせず、また人々を無用に傷つけるのだからと、声がするほうへ指をさす。
「いいよ?やってみればー」
「余裕でいられるのも今のうちだよ、本当にやっちゃうんだから…」
 ハイリヒ・バイベルを開きトラップとして詠唱を始める。
「ふぅ〜ん」
 哀切の章から光の霧が発せられ始めているのにも関わらず、相手は相変わらずの態度だった。
「叩いたらぺったんこになって…、封じられるってこと!」
 いったいどうやって、嘘か本当か見破るのだろうかと疑問に思いながらも、祓魔の力をハンマーに変えて辺りに散らばす。
「ふふーん、命中力ないねー」
 気配を感じず見えもしない相手など怖くないといった態度で軽々とかわす。
「あたって確かめてもよかったんだけどさ。じゃあさ、こういうのはどう?」
「―……?」
「周りのもの、ぜーんぶ壊してみるとかさ♪」
「あ…あぁあっ」
 とりあえずぶち壊せば何も恐れることはない。
 今思えばそれも当然のことだった。
 いくら弥十郎にディアボロスの位置を教えてもらっても、宙に浮かぶ黒い月は防ぎようのないもの。
 仲間に助けを求めようかとも考えたが、封魔術の手を止めさせてしまえば、どこにそれがあるのか相手に知られてしまう。
 呼びかけてくれる仲間の声すらもついに耳に入らなくなり、そこから一歩も動けなくなってしまった。