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リアクション
「へぇ、未来体験薬も使い道が見つかったのか。色々考えるなぁ」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はまじまじと便箋を手に取って見ながら前に未来体験薬の被験者として参加した事を思い出していた。
「そいや、ちょうど前に見せられたのと同じような感じになってるな。まぁ、今生の別れじゃねぇけど」
ふと現在の自分の状況が被験者として見た未来と似ている事に気付いた。現在シリウスは百合園女学院の教師となったが就職の都合でよく組んでいた相棒とは別れている状態なのだ。幸いなのは前に見たような切ない今生の別れではない事。
「丁度良いからまたお世話になるか。それに何年後かに届けてくれるってのはありがたいし……さて、いつにするかな。折角だから一番苦悶している時期がいいよな」
シリウスは次に何年後に向けて書くのか頭を巡らし始めた。なるべく苦しい時期に届くようにして励ましとなればいいと。
その結果、
「……3年後くらいにするか。初心を思い出させるには丁度いいだろ。あいつとの生活は一筋縄ではうまくいくと思えねぇからな」
と決まった。よく組んでいた相棒と別れてからシリウスはサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)とこれから暮らしていくようになったのだが、少々危惧があったり。
「……未来のオレに不意打ちかます準備をするか」
シリウスは改めて3年後を想像しつつペンを走らせた。便箋に染み込んだ優しい匂いに想像を鮮やかにさせられながら。
■■■
3年後。
「そっちは終わったか」
先程首輪付きの魔物を打ち倒したシリウスは、聞き知った足音が聞こえ、振り向いた。
「完璧だよ。魔物をペットにするなんて頭がおかしいよ。しかし、キミも大変だね」
サビクは小型の首輪付きの魔物を手に現れた。当然気絶させている。
「あぁ、これでもう生徒達が襲われる事はねぇ。後の事は頼んでいいか? オレは入院している生徒の見舞いに行って来る。報告もしてぇし」
教師として活躍するシリウスは帰宅途中に生徒が魔物に襲われると聞いて解決のためにサビクを引き連れ乗り出したのだ。
「分かったよ。本当に先生をしてるね」
サビクは軽く息を吐きながら引き受けた。
「助かるぜ。そんじゃ」
シリウスは一刻も早く生徒を安心させたく病院に向かった。
そして、シリウスの報告を受けた生徒達は安堵したという。
サビクとメインで組むようになって最初は今までの感覚で仲良くやっていたが、3年経った今、上手く行く事よりも些細な事が気になり出してぎくしゃくする事の方が多くなっていた。おそらく共に暮らし互いの生活に踏み込むようになったためだろう。
そんなある日。
「……ったく、アイツは」
シリウスは苛々しながらどこぞに消えたサビクを捜していた。世話焼き故にサビクのために何かかんかしてやろうとするも構われるのを嫌う奔放なサビクと対立する形となっていた。
「……あんな事くらいで」
シリウスは苛々のきっかけを思い出し、今度は溜息を吐き出した。きっかけは本当に馬鹿馬鹿しいほど些細な事であるが、我が強い二人は穏やかに流す事が出来ずにいた。戦友や遊び仲間なら何も問題は無かったのだが。
「おい、サビク」
ようやくサビクを発見したシリウスは出来る限り苛々を大人しくさせつつ声をかけた。
「また何か文句を言い足りないのかい、キミは」
相手にしたくないサビクは余所事をしシリウスに顔を向けずに答えた。
「あのな、オレが言っているのは文句じゃねぇ、お前を心配しての事で」
シリウスは再び揉めたきっかけを持ち出す。何もサビクを嫌ってした事では無いので文句と言われると少々イラッと来る。
「それは余計なお節介って言うんだよ。だいたい、ボクにはボクの好みの生活リズムとかこだわりとかがあるんだから」
サビクは自分に構わずどこかに行けオーラを出しながらシリウスに接した。
そのせいか
「……ったく、アイツだったらこんな事なかったのに」
本当に何気なくぽろりとシリウスの口から火に油の言葉がこぼれてしまった。
「!!」
シリウスの言葉を聞いた途端、サビクの表情が険しくなりシリウスをにらみつけた。
「サビク、今のは……」
シリウスは口にした後で失言した事に気付き、取り直そうとするが
「悪かったね。キミの隣にいるのがボクで」
サビクがにらみ付けたまま、激高する。サビクなりにやっているのに現在いない人と比較されてはたまったものではない。
「いや、サビク、そんなつもりじゃ」
シリウスは必死にサビクを何とかしようとするが、苛立ち最高潮の相手には通じない。
「ボクはアイツじゃないんだ! そもそも都合のいい身代わりみたいにボクを呼ぶな!」
ぴしゃりと自分の気持ちを主張するなりサビクはさっさ背を向け、どこかに行ってしまった。
サビクが去った方向を見ながら
「……やっちまった。そりゃ、比較されたら誰だって嫌だよな。オレだって……」
シリウスは自分が発した失言に大いに反省していた。シリウスも仲の良いある二人と比較されるのは大嫌いなのにそれを相手にしてしまったのだ。
「……はぁ」
溜息を吐いた後、シリウスは謝罪するためにサビクを捜しに行った。
■■■
想像から帰還後。
「……想像とはいえ勘弁願いたい未来だったな」
想像した未来に苦い顔をしていた。予想はしていたが、実際に想像すると堪らないものがある。
「……こんなもんか。まぁ、何が遭っても大丈夫だろ。そもそも何も無い人生なんてありえねぇしな。さっきの未来も無事に仲直りしているはずだ」
シリウスは書き上げた便箋を確認して出来映えに納得した後、想像した未来のその先を考えた。互いに嫌っている訳では無いのだから無事に仲直りをしたと。
シリウスが書いた手紙は
『未来のオレよ。
お前が何処でどう暮らしてるかはわからない。
けど、確かなのはお前の後ろにはオレたちがいるってことだ。
何があっても、きっと何とかできるさ。だから恐れるな、諦めるな。
いま隣のいるヤツとの仲だって、そんな短いもんじゃなかっただろ?』
という未来の自分も信じるものであった。
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