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リアクション
魔王城内部の大きな通路。
無数に見える曲がり角はイコンの製造工場へ通じているのか、続々とゴブブリンが姿を現している。
元々魔王城内部に侵入された事を踏まえて、多少なりに暴れられるように間取りを取って作られていたのか、相手は通路を通って向かってきていた。
「数は多い、けどね。 ボクは風、風(ボク)の動きを捉えきれるかな?」
近接起動に特化したパワードスーツ【テンペスト】を見に纏う鳴神 裁(なるかみ・さい)は敵の軍勢を見てそう言い放つ。
彼女の視線は通路の先にある玉座の間へ繋がる階段。
「ごにゃ〜ぽ! とっかーん!!」
陸上競技の様にクラウチングの体勢を取ったかと思うと、次の瞬間には駆けだして敵陣へと突入する。
「あははっ、ひき逃げだぁ!」
勢いよくジャンプすると正面に構えたパイルバンカー・シールドで、正面に立ちはだかったゴブブリンの頭部にシールドバッシュを食らわせ、勢いよく轢き倒す。
すたり、とそのまま着地すると両サイドには棍棒を構えたゴブブリンが構えている。
勢いよく棍棒が振り下ろされるが、そこに裁の姿はない。
「遅い遅い、こっちだよ!」
裁の姿はゴブブリンの上にあった。
まるで空中を蹴る様にして空中を跳ぶ。
パワードスーツのコアとなっている黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)に内蔵されている装備の1つだ。
「さぁて、止まってらんないね」
空中から地面に降り立ち、階段を見据えるがまだ距離はある。
それを阻もうとしている敵の数も多い。
「ここからは、全力で行かないと!」
裁のオッドアイのうち、左の赤目が金色に代わるのは物部 九十九(もののべ・つくも)が裁に憑依した合図。
『高速移動の負荷はこっちで軽減しますなのですよ〜?』
裁の体にインナー型の魔鎧として装着されていたドール・ゴールド(どーる・ごーるど)の言葉が脳に響く。
「わかってるさー!」
正に神速といった目にもとまらぬ速度で裁はゴブブリンの隙間を縫うように駆け抜けていく。
本来ならば人間の体はその圧倒的な負荷に耐えられないのだが、裁の体には様々な補助がかけられており、一切の負担はない。
もう少しで階段までたどり着く、といったところで裁の目の前には振り下ろされる棍棒が目に入った。
―――避けられない。 適当に振るった一撃なのだろうが、完璧すぎるタイミングだ。
棍棒が裁の体に触れ、文字通り『霧散』した。
「残念! ゴールしちゃったよ」
気が付くと裁の姿は階段の目の前にあった。
しかし、ゴブブリンの間には無数の裁の姿があり、各々がその裁へと攻撃し霧散させている。
ミクシードリアリティによる幻覚攪乱は大いに敵イコンの行動を見出していた。
「じゃ、これで」
さっさと階段を上って次に行こうとした裁だが、突如後方で起こった爆発で振り返る。
「こいつら、なんかパワー低すぎない?」
ゴブブリンの棍棒を受け止め、エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)はそう言い捨てると対神刀で棍棒ごと斬り捨てる。
「エクス、横!」
ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)の声にエクスが反応すると、側面には棍棒を振りかぶるゴブブリンの姿。
受け止めようと両手を構えるが、ディミーアが放ったバズーカの弾丸が頭部で弾け、体制を崩したところを更に後方から放たれたレーザーに撃ち抜かれて機能停止する。
「玉座の間の階段前まで突破したわ。 情報、送るわよん」
いつの間にか裁の横でライフルを構えていたセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)は通信機を使って湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)に連絡を取っていた。
『了解、他チームは殆どが玉座の間へ向かえたそうだ』
先鋒として魔王城へ高速飛空艇で張り付き、外部の飛空艇で待機している凶司から返事が帰ってくる。
「……OK、じゃルート変えてゴブリンを誘引するわねぇ」
『気を付けてくれよ? 広報用のデータは保存できたし、後は無事に帰ってきてくれれば万々歳だ』
「わかってるわよ、じゃあ後はよろしくね?」
一発、二発とレーザーライフルを放つと、ゴブブリンの視線が一斉にセラフに集中する。
「ほら、こっちよ!」
走り去る間もライフルを放ち続け、ゴブブリンの注意を引き付けながら元来た側面の『エクスが切り拓いた』道を戻っていく。
『そうだ、丁度エクスが作った道の反対側からゴブブリンの反応が生まれている、どうにかできないか?』
反対側、とは言ったもののあるのは壁。
「じゃ、ぶっ壊しちゃうよー!」
だったらここまで来たのと同じように壁を壊して道を拓くだけ、単純だ。
エクスは力任せに刀を振るい、壁を文字通り斬り壊す。
「よしっ!」
辺りに破片が飛び散り、砂埃が上がって様子はよくわからない。
しばらく待つと砂埃は次第におさまり、目の前には転送装置の様な機械が設置されていた。
「これが製造装置?」
機械工房の様な物を想像していたのか、ディミーアは怪訝な顔をする。
『らしい、少なくとも装置を壊せば動かなくなるそうだ』
「じゃあ、これで!」
エクスは先程斬り捨てたゴブブリンの上半身を持ち上げ、勢いよく装置に向けて投げつけた。
「おまけよ!」
ぐしゃりと音を立てて潰れた装置にディミーアはバズーカを撃ちこみ、爆発させる。
『装置の1つは機能停止、これでセラフの負担も減るだろ。 後は玉座の間へ向かってくれ』
「はいはい、じゃあ行くわよ」
「おっと、こっち急がないと!」
ディミーアとエクスが戦闘行為を中断させたと同時に、それを見ていた裁は目的を思い出し2人と共に玉座の間へと階段を上り始める。
しばらく続くと思われた階段を上りきり、少し大きな広間になっている玉座の間へたどり着いた彼女達の視界には苦悩の顔をする突入部隊の面々の姿が見えた。
「あれ? ウイルスは?」
「……よく見ろ!」
拍子抜けした顔をしていた裁へ先に部屋へ侵入しながら苦悩の顔をしていた陽一が怒号を飛ばす。
裁の目の前には、文字通り自分の父親の姿が現れ、エクスとディミーアの前には凶司の姿が現れていた。
「む、あれは生き別れた親父? あんにゃろう、あの異母兄弟姉妹の数はどういうこった! ボクの怒りが有頂天でひゃっはー!」
「よく化けてくれたわね……今こそ死ね!」
女癖が悪かったのか、様々な女性に手を出している父親は快く思わない、2人にとっても凶司は今までのこともありそう思う部分もある。
ウイルスがそれの姿と取ったのならば好都合と駆け寄り、その胴体を貫く。
―――本当に、それが憎い相手ですかねぇ?
声が、走った。
「……え?」
よく見ると、裁が貫いたのは父親ではない。
自分が纏っているドール、九十九の姿へとくるくると変わり、貫いた胴体から溢れ出るのは真っ赤な血。
「え、お姉さま……?」
「エクス……!?」
同じ相手を貫いたはずなのに、エクスにはディミーアのディミーアにはエクスの鮮血に染まった姿が見えていた。
『お、おい二人とも! 何やってんだ、そいつはウイルスだろ!!』
モニター越しにぐにゃぐにゃした形容しがたいウイルスを貫きその場にしゃがみ込む2人を見て、凶司は叫んでいた。
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