シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 前編

リアクション公開中!

壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 前編
壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 前編 壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 前編

リアクション


■ 彼女達の動機 ■



 荒野。孤児院『系譜』。応接間。
 後ろ手にドアをしめたシェリーは気配に振り返ったキリハを睨む。
「ねぇ、キリハ、私もついていくわ」
「何を突然。そんな鬼気迫る顔で言っても駄目で――」
「キリハはシェリエに博士の話は刺激が強いからクロフォードには安易にしないでって言ってたのに、キリハは沢山博士の事を話してたわよね? クロフォードに『聞こえている』って知ってて! 刺激になるってわかってて、どうして?」
「あれは……クロフォードが妹に素直に従っていないとわかっていたので、真実を話し――」
「つまり、博士のことを話してクロフォードを揺さぶっていたって事ね?」
「端的に言えばそうです」
「じゃぁ、私は絶対に着いて行くわ!」
「シェリー!」
「キリハは止める権利は無いはずよ。いえ、むしろ、理由がないわ。クロフォードに揺さぶりをかけるんでしょう?
 なら、私が一番適している。そうでしょう?」
 シェリーは知っている。
「クロフォードは私達に自分の事情を知られたくないの。だから、その、何が起こっているのか全然わからないけど、私がいるだけできっと躊躇うわ!」
 戦えなくても、居るだけで、戦力になるはず。
 皆が隠し事ばかりするのなら、それを逆手に取ってやろうじゃないかと、意気込む少女に、キリハはこれは説得を諦めるべきと肩を落とした。
 シェリーの考えは暴論極論ではあるが、道理に適(かな)っている。
 事実、破名にとってシェリー達は脅威であり、真実、対処に慎重になって結果は別としてもその間の過程は確実に『鈍る』。結果の善し悪しは別として、時間を稼ぐ手段としては最も適しているのかもしれない。 
 しかし、それに頼るにはあまりにも――危険な賭けだ。破名の中では道具として役割を果たしたい欲が残っている。責任と存在意義の間で保たれる均衡は危うく、シェリーの介入でそれが崩れた時、どちらに転ぶのかキリハでも予測がつかない。
「クロフォードは私に幸せになりたいかと聞いたの。私は幸せになりたいと答えたわ。なら、クロフォードは私が幸せになったのを見届ける義務があるはず。
 いいえ、あるわ!
 見てて貰いたいもの。見て欲しいもの。愛されてないと知ってたけど、クロフォードはずっと見守っててくれたわ。迷わないように手を握っててくれたわ。ずっとずっと特別にされてた!
 私は、私はね、キリハ。
 帰ってきて欲しいの。
 昔みたいに頭を撫でて欲しいの。
 幸せになった私を見せたいの。
 小さい頃、幸せになってほしいと言われたの。
 私はそれに応えたいのッ!!」
 幸せにと願ってくれる人に幸せだと胸を張りたい。
 だから、帰ってきて欲しい。その為に迎えに行く覚悟もある。
 揺るがない決意の中それでも不安になって耐えられずシルバーリングに触るシェリーに、キリハは無意識の内に共鳴竜の鱗を持つ手に力を入れた。
 キリハは、破名の意志一つで白を黒と言えるし、黒を白にしてしまえる。破名がロンに非協力的だからこうして動いているだけであって、キリハの意志は其処に無い。
 自分をはっきりと主張するシェリーに、
 否、
 何が起こっているのかもわからないまま、それでも駆けつけて捜しに来てくれた契約者達に、キリハはただ目を閉じた。
 閉じて、自分が主張出来ない存在であることを深く悔やんだ。
 悔み、そして、感謝する。
 主張できないだけであって、心はあるのだ。キリハとて、この事態を良しとはしていない。

 手記ロン・リセンは、母(著者)たるロン・リセンの妄執から生まれたと言って過言ではないだろう。
 理想を掲げながらも上手く行かない研究にただただ狂っていった女性。
 時代がいよいよ滅びを迎える頃には手が付けられず最終的には殺された女性。
 手記ロン・リセンは単なる魔導書だ。本人ではない。研究内容の全ては資料集たる兄キリト・リセンが一手に引き受けていた。だから、書かれている内容は極々個人的なものだろう。
 そんなものでは研究の続行っといっても結果は目に見えている。
 責任の是非を問うのなら、
 死者の妄執に取り憑かれ暴走する妹を止めるのは、姉の務めだというのに。

「シェリー」
 呼ばれて、シェリーは「なぁに?」と首を傾げた。
「私が言うのも変な話ですが、妹をお願いします」
 キリハが許されてできるのは、いつも誰かにお願いすることだけだった。



…※…※…※…




 先に出てきて応接間のドアを締めたキリハにシェリエは首を傾げた。
 廊下には何人か、心配になってついてきてくれた契約者が居る。シェリーのあの大声だ、廊下には先程の会話が漏れ聞こえただろう。
「キリハ……本気?」
「ディオニウス。シェリーを頼みます」
 お願いします、ではなく、頼むとキリハは言った。その言葉にどんな違いがあるのか。
「すみません。もう少し、私に時間を下さい」
 皆に頭を下げてキリハは二階に続く階段をあがり、皆の前から消えた。

担当マスターより

▼担当マスター

保坂紫子

▼マスターコメント

 皆様初めまして、またおひさしぶりです。保坂紫子です。
 今回のシナリオはいかがでしたでしょうか。皆様の素敵なアクションに、少しでもお返しできていれば幸いです。
 前編で自分について幸せについての質問への回答で後編の難易度を決めようと当初から考えていたのですが、中々に悩みどころです。変更するつもりはありませんけれど。
 保坂の中では予想外な事が起こってたりしますが、そのまま残りは後編となります。
 また、革酎マスターにご協力していただきました。この場をお借りして多大なる感謝を。ありがとうございます。

 また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
 では、後編もどうぞ引き続きお付き合い願えればと思います。

2014/06/05 修正