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魔女と傭兵と封じられた遺跡

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魔女と傭兵と封じられた遺跡

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「後ろから誰か来るでありますな……」
 アーデルハイトたちの一番後ろを進んでいた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、自分たちを付ける存在を感知してそう言う。
「モンスターや守護者の気配ではないであります。『彼ら』で間違いないでありますな」
 その気配の消し方は完全にプロのそれだ。そしてその気配の消し方の癖のようなものは吹雪の知る『彼ら』のもので間違いない。
「さてと……どこに隠れているでありますかな」
 スキルやアイテムで知覚を極限まで高めて吹雪はライフルを構える。
「1人ずつ確実に仕留めるであります」
 気配を消し前方を警戒しながら進む『黄昏の陰影』の傭兵の姿を確認した吹雪はライフルで容赦なくその頭を狙い撃つ。
「ふぅ……これで一人でありますな」
 着弾を確認して吹雪は息を――
「っ!……頭を打たれて生きているのでありますか」
――飲んだ。
 倒れた傭兵は苦しみながらも立ち上がる。改めて確認する限り、傭兵は頭蓋骨が割れてはいそうだが、その脳みそを貫かれてはいないらしい。
「異常な防御力であります…………以前の彼らとはまた違うようでありますな」
 相手の戦力を計算し直す吹雪。
「それでも、此処から先は通さないのであります」
 元傭兵の戦いのプロとして。吹雪は罠やキメラなど利用できるもの全てを利用して傭兵たちを足止めするのだった。


「かずきぃ……うぅ……かずきぃ……」
 不安そうに佐野 和輝(さの・かずき)の名前を呼ぶのはアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。その不安に押しつぶされないようにスフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)を深く抱きしめる。
「アニス、そんなに強く抱きしめずとも、私は貴女の傍から離れませんよ」
 スフィアはアニスの不安を解消できるようにと出来る限り優しい言葉を掛ける。
「何でこんなに不安になるの? たまに和輝が居なくなることがあったけど、こんな気持ちにはならなかったよ?」
 今にも倒れそうな様子でアニスは言う。
(アニスの症状がここまでとは……予測以上の状況です。……ペンダントによる補正を加味しても前村長との死別による深かった傷を、以前から強かった和輝への依存度を更に強めることで状態を維持していたということでしょうか……強化人間の特性が悪い方向で発揮されたということですね)
 この状況では和輝と別行動をしながら情報収集をするというのは出来そうにない。
(……和輝が帰ってくるまでこうして抱き人形になっているしかありませんね)
 そうしてできうる限りアニスの精神を安定させるよう努めようとスフィアは決める。
「和輝……はやく、帰ってきて……」
 アニスの声にいつもの明るさはなかった。


「スフィアが居るとはいえ、アニスは大丈夫かしら?」
「分からないが……こればかりは仕方ないだろう。アーデルハイトたちが粛清の魔女を探していることを彼女自身に伝えるのが遅れる訳にはいかない」
 スノー・クライム(すのー・くらいむ)の言葉に佐野 和輝(さの・かずき)は自信の感情を隠してそう答える。
(……本当ならアニスのそばを離れたくはなかったが、選択を誤る訳にはいかないからな)
「念の為に『賢狼』をつけてはいるけど……はっきり言って付け焼き刃ね。スフィアだけで手に負えなくなる前に帰りましょう」
「分かっている……早く魔女を見つけるぞ」
 粛清の魔女ミナの配下として動いている和輝だが、ここ最近はほとんど指示や接触がなかった。
「あの魔女のことについてはある程度把握しているものね。完璧とはいえなくてもアーデルハイトたちよりは先に接触できるでしょう」
 スノーの言葉に頷き、和輝は粛清の魔女を急いで探していく。

「あれ、久しぶりね。私に何か用かしら?」
 遺跡都市の最深部。キメラなどの姿がない静かな場所で粛清の魔女ミナは閉じていた目を開けて和輝にそう声をかける。
「……少し、雰囲気が変わりましたか?」
「さぁ、どうかしら」
 以前のような狂気を魔女から和輝は感じなかった。
(だが……狂気がないだけで本質は変わっていないか)
 狂気がないだけどこの魔女は相変わらず壊れていると和輝は感じる。
「それで、何のようかしら?」
「アーデルハイトという魔女や契約者たちがあなたに接触しようとしています。……どうしますか?」
「どうしなくていいわ。私に拒む理由はないもの。……たとえ、彼女たちが私を殺そうとしていてもね」
 魔女は淡々とそう答えた。