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魔女と傭兵と封じられた遺跡

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魔女と傭兵と封じられた遺跡

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双子の魔女


「これは……」
 一つの資料を見つけて穂波は声を上げる。
「穂波ちゃん? もしかして儀式の終わらせ方が見つかったの?」
 アテナはそう聞く。
「はい……確かにこれは儀式の終わらせ方です。ただ……」
「何か問題があるのか?」
 瑛菜は聞く。
「……これはいかなる力と技術を持っても『理論上不可能』な方法が書かれています。前提条件となる物理法則や魔法の原理がメチャクチャなんです」
 理論さえ分かれば自分の力でどうにかなると思っていたがこれではと穂波。
「ふーん……まぁ、もしかしたら暗号みたいに真実が隠されてるかもしれないし、ひとまずそれを持って帰ろうか」
 目的のものが見つかったならと瑛菜。
「そうですね……ひとまずこれを研究して――」
「――不可能な終わらせ方はどうでもいいけどー、せっかく見つけた『器』を見逃す気はないのよねー」
 帰ろうとする穂波たちの前に現れるのは二人の少女。瓜二つの容姿に真逆の雰囲気を持つ二人だ。
「……『器』を持って帰って、パパに褒められる…………」
「零夏(れいか)は相変わらず暗いわねー。ま、そこの物を持って帰れたら確かに褒められるかもね」
 軽い雰囲気をもつ少女はそう言う。
「……一奈(いちな)みたいにうるさいのよりいい」
 零夏と呼ばれた少女はそう毒づく。
「ま、てわけで、契約者さん達さ。あたしら面倒いこと嫌いだし、そこの道具くれない? あたしらのほうが絶対有効活用できるからさ」
「……あなたたちには宝の持ち腐れ」
 一奈と零夏と呼び合った少女たちはそういう。
「なぁ、アテナ。こいつらなんでこんな強気なんだと思う?」
「うーん……契約者じゃなさそうだし、戦闘のプロって感じでもないんだけど……」
 瑛菜とアテナの感想。
「ま、あんたらが何者かは知らないけど、敵なのは間違いないか。……穂波を狙ってるのは確かだしね」
 瑛菜は戦う覚悟を決める。
「えー、あんたらには感謝してるのよ? あんたたちがその道具使って罠を解除したから、それが『器』だって分かったんだもの。心優しい一奈様はお礼に見逃してやっていいって言ってるの」
「……一奈、逆効果。あっちはもう臨戦態勢」
「仕方ないか。……あんたら、殺っちゃって」
「あんたらって、ここにいるのはあんたら二人だけ……っ!」
 嫌な予感がした瑛菜は体を大きく横に移動させる。移動する前までいた場所にナイフを持った男がいた。
「なにやってんのよ零夏。隠形解けてんじゃない」
「……思ったより難しい。攻撃してる間まで気配と姿消させるのは無理……」
(……あっちの零夏ってのがやったのか。完全な気配消去……これってまるで……)
「あ、そこのおねーさんが考えている通りかもね。零夏は衰退の力を使う魔女よー。で、あたしは繁栄の力を使う魔女。そっちの村長とやらと一緒ね」
「……一奈、早く力を使って……衰退の力切れた」
「あー、はいはい、適当に防御力でも上げればいいかしらね」
 一奈は面倒そうに繁栄の力を振るう。
「瑛菜、ここは私達に任せて。他の契約者達と一緒に穂波が攫われないようにだけ気をつけて」
 前に出ようとする瑛菜にそう言うのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)
「ローザ……行けるのか?」
「あの二人……双子かしらね。彼女たち以外の敵は姿を現してるのと姿と気配消してるの合わせて三人……行けるわ」
「数まで分かるのか?」
 ローザの言葉に瑛菜は驚く。
「ま、消してるのが姿と気配だけだもの。……粛清の魔女の隠形に比べたら子供遊び。このレベルの隠形なら契約者の中でもできる人は多いわ」
「……ローザみたいに?」
「そういうこと」
 ローザマリアはベルフラマントと光学迷彩を使い姿と気配を消す。
「ほい、発見と。ついでに捕獲」
 姿を隠した傭兵の後ろを取り腕を固めて動けなくするローザマリア。
「零夏、あんたの隠形簡単に見破られてるじゃない」
「一奈こそ、知覚強化が足りない」
 話している双子の様子から、彼女たちがそれぞれ繁栄の力や衰退の力を振るうのに慣れていないのが分かる。
(……このレベルならまだ私達で対処できるわね)
 弱点が戦闘と力を振るうのに慣れていない双子だと分かったローザマリアはエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)に合図を送る。
「ぅゅ、ちょっとドンパチするから……アテナ、エリーからはなれちゃダメ、なの」
 そう言ってエリシュカはアテナの手を握りながら仕掛けていた閃光弾をサイコキネシスで遠隔爆破する。
「っつー……って、零夏。なんか傭兵たちの隠形解けてるわよ早くかけ直しなさいよ」
「……あたまぐわんぐわんして無理」
「この役立たず!」
 喧嘩する二人を尻目にエリシュカは隠形の解けた傭兵をアテナと二人がかりで押さえつける。
「成功、なの」
 しびれ粉動きを鈍くした上でしっかりと拘束し無力化する。
「やったね、エリー」
「ぅゆ……アテナと一緒なら、よゆう、なの」
 アテナとエリシュカは二人で喜ぶ。
「やれやれ、ローザはともかくエリシュカたちに先をこされたのだよ」
「わたくしたちも早く戦果をあげるとしましょう」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)の言葉に上杉 菊(うえすぎ・きく)そう返す。
「では、わらわの援護、頼むのだよ」
 閃光弾の影響などないというようにすでに構えている傭兵たちのもとにグロリアーナは菊の援護射撃を背に切り込んでいく。
「増援が来ていますね……そちらはあなた達に任せます」
 部屋の外から傭兵たちの増援が来ていることをピーピング・ビーで確認した菊は特殊舟艇作戦群【Seal’s】に頼み、グロリアーナの援護射撃に集中する。
「安心するがいい。峰打ちだ」
 殺しはせずとも確実に動けないようにするつもりでグロリアーナは峰打ちをする。
「ちっ……一の姫さん適当にやりやがって」
 その峰打ちに倒れた傭兵は悪態をつく。
「あなた達の目的は一体何なのですか?」
 グロリアーナに抑えられる傭兵に菊はそう問いかける。
「俺らはプロだ。いくら尋問されても答えていいこと以外は何も話さない。……あっちの双子の姫さんたちに聞くんだな」
「このものらに尋問するのにこのような場所でやっても無駄そうであるな。しっかりとした設備でしなければ意味がなさそうなのだよ」
「そう……ですね。気を抜けば逃げられてしまうでしょう」
 グロリアーナたちはつかまえた傭兵たちを逃がさないように気を張るのだった。


「あー……全く役に立たない傭兵共ね。せっかく力を貸してやったのにあっさり負けちゃって」
「……役立たず」
 傭兵たちが負けたことを理解して双子はそう言う。
「ま、いいわ。今回は挨拶みたいなものだし。次は負けないからねー」
「……捕まった傭兵たちはそっちの捕虜。殺すのも尋問するのも自由……」
 どうでもいいというように双子は傭兵たちを置いて帰ろうとする。
「逃すと思ってんの?」
 そうはさせないと瑛菜は二人を止める。
「別に逃さなくてもいいけど……その時はそっちの村長さんがどうなっても知らないけどねー。うん。どうせあなたたちにあたしらは殺せないしそれも面白いかな」
「……村長の護衛、いなかったみたい…………殺すの簡単?」
 一奈と零夏に嘘を付いている様子はない。ここで彼女たちに手を出せばどうなるかは明らかだった。
「んー……帰っていいのかな? それじゃね。契約者さんたち。また遊びましょう」
「……もっと、力になれないといけない……一奈も手伝う」
 雑談しながら帰っていく双子を見送る契約者達。
「……できれば、今回で仕留めたかった」
 瑛菜は言う。
「うん……力に慣れてない今決着を付けたかった」
 アテナも瑛菜に同意する。
「……終わったことを悔やんでも仕方ありません。ミナホお姉さんが心配です。すぐ帰りましょう」
 穂波の言葉に頷き瑛菜たちは急ぎ村へと戻るのだった。


「北都。帰らなくていいのか?」
 穂波と契約者たちが帰った研究室の中。未だそこを探索を続ける清泉 北都(いずみ・ほくと)白銀 昶(しろがね・あきら)はそう聞く。
「まだ、目的の情報が見つかってないからね」
「情報って……穂波が儀式の終わらせ方を見つけたじゃないか」
「たしかにその情報も探してたけど……僕が今探してるのはその情報じゃないよ」
 北都は昶と話しながらも探索の手を止めない。
「……ま、ミナホのことは帰った契約者に任せればいいだろうし、俺も手伝うぜ」
 何かを見つけるか、全てを探索し終えるまでてこでも動きそうもないと思った昶は北都と同じように探索を始める。
「……で、何を探してるんだ?」
「恵みの儀式……その魔女に掛けられた呪いとも言える枷を変更する方法だよ」
「そんなものあるのか?」
「魔女の枷は『恵みの儀式』を便利に利用するために人の手で後付されたものの可能性が高い。……それなら、取り除いたりできる可能性もあると思うんだ」
 これまで集めた情報から北都はそう思っていた。
「そうかもしれないけどな。けど、同時に人が作ったからって元に戻せたりするかは分かんないぜ。目玉焼きはどうやっても生卵には戻らないんだ。魔女の枷もそういうものかもしれない」
 北都の言葉に昶は冷静にそう言う。
「それでも……可能性があるなら僕は探すよ」
「そっか…………。? もしかしてこれか? 『魔女の枷』って書かれてるのは分かるけど……それ以上は俺には読めないな」
 一つの本を見つけて昶は北都に渡す。北都はその本の内容を熟読していく。
「どうだ? 魔女の枷を外す方法が書かれてるのか?」
「書かれてる……書かれてるけどこれも『理論上不可能』なものだよ。たとえるなら冷やしたら目玉焼きが生卵に戻るってむちゃくちゃな理論上でその方法が説明されてる」
「儀式の終わらせ方と一緒か。研究者がよっぽど馬鹿なのか暗号かただの遊びか……難しいところだな」
「ひとまずこれを持って帰ろう」
 帰って研究するしかないと北都。
「ああ。……しかし、『恵みの儀式』か……本当に面倒なものだぜ」
 昶の言葉に北都は頷くのだった。