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リアクション
種もみ生の道は一日にしてならず
その日の朝、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が久しぶりに種もみ学院に顔を出すと、教室のある種もみの塔のエントランス前に何台もの軽トラックやデコトラ、馬車が集まっていた。しかも全て武装されている。
「どうしたの、ヒャッハーしに行くの?」
「へへへっ。物資輸送ヒャッハーさ!」
種もみ生は事情を話すと、さゆみとアデリーヌも一緒に行かないかと誘った。
「私はかまわないけど、アディは?」
「ええ。そういうことでしたら」
「ヒャッハー! おまえら、アイドルとドライブだぜー!」
種もみ生の士気が上がった。
そんなわけで、さゆみとアデリーヌは今、デコトラに乗って荒野を走行中である。
二人は運転席の後ろのベッドスペースに座っていた。
種もみ生が持ち込んだお菓子を食べながら、道中は何事もなく進んでいた。
「さっきから景色が変わってないように見えるけど、ちゃんと目的のオアシスに向かってるのよね?」
さゆみの問いに、もちろんと答える種もみ生。
「コンパスもあるし、後は長年ここで生きてりゃどこにどのオアシスがあるか、だいたいわかるようになるもんだ。あんただって、自分の家の庭のどこに実のなる木があるかくらいわかるだろ?」
「庭ねぇ……。昔の大名屋敷の庭よりはるかに広いわね」
「二人共、何か聞こえませんか?」
ふと、アデリーヌが外を気にした。
助手席にいた種もみ生が窓を開けて様子を覗う。
「げっ。出やがったか、スーパーパラ実生共!」
「スーパー……? あら、どこかで見たような格好ね。尻尾はないみたいだけど」
さゆみも外を確認し、地球で大人気だった少年漫画を思い出した。
「さゆみさん、運転頼めるか? あいつら追い払ってくる」
「トラックの運転はできないわ。追い払うなら私達に任せて。二人は物資を守るのよ」
このまま走り続けてオアシスまで連れて行くわけにもいかないので、種もみ生はトラックを停めた。
四人が降りると、スーパーパラ実生達もスパイクバイクを停めた。
リーダーと思われる男が前に出てニヤニヤしながら言う。
「いいもの持ってんなぁ。置いてったらおまえらは見逃してやるよ」
「そんなセリフに騙されるわけないでしょ。あなた達こそ、今逃げれば追撃はしないであげるわよ」
張り合うように一歩出て言い放つさゆみ。
「ヒャハハ! 決めた! 荷物と一緒におまえもいただく!」
「賊ってのは本当に浅ましいわね!」
「威勢の良い女は好きだが、今は黙っとこうか!」
と、彼の横にいたスーパーパラ実生が、使い込んだ鉄パイプを振り上げてさゆみに襲いかかった。
凶器が振り下ろされる直前、さゆみの斜め後ろで精神集中をしていたアデリーヌがトリップ・ザ・ワールドを展開する。
鉄パイプはアデリーヌのフィールドに拒絶された。
「──っのやろ!」
「あなた、少しは人生を振り返ってみたら?」
さゆみは世界律の鍵盤を中空に広げ、指を滑らせる。
奏でられたのは、絶望を想起させるような薄ら寒い旋律だった。
曲と同時にさゆみのエクスプレス・ザ・ワールドが場を包み込んでいく。
彼らは、その曲の印象通りの暗く冷えたものに全身を締め付けられた。
「ヒィ〜! さ、寒いっ、心が寒いー!」
その効果は肌で感じる冷たさよりも、心の底からじわじわと凍りつくような底知れない寒さだった。
さゆみはうずくまって震えるスーパーパラ実生らを見下ろして言う。
「その寒さは、あなた達が目をそらしているやがて来る将来の寒さよ。賊をやっていられるのも、体が動く若いうちだけ……。人は皆、必ず老いるわ。その時、まだ現役でいられるとでも? 返り討ちにあって死ぬのがオチね。そんな未来になるくらいなら、今から仕事でもして少しでも蓄えたら? 財産がないと、好きな女の子に見向きもされないわよ」
威圧的に、しかし淡々と諭すようなさゆみの声が、スーパーパラ実生達の冷えた心に一筋の希望のように響く。
「こ、これが……この暗くて寒くてじめじめしたところが俺の未来……。うぅっ、俺、こんなところで何やってんだ。今からでも商店街のどっかに雇ってもらおう……」
「俺も……実家の手伝いしよう。母ちゃん……」
くずおれるスーパーパラ実生達を見て、さゆみは今回の作戦は成功したみたいだと満足していた。
今回は無事に届けなければならない物資がある。
戦闘に巻き込んで大破しました、ではすまされないのだ。
賊が戦意喪失して去ってくれるのが一番ありがたい。
アデリーヌを見ると、彼女も頷いている。
アデリーヌはトリップ・ザ・ワールドを解除すると、
「今のうちに行きましょう」
と、さゆみをトラックに促した。
二人が戻ると、種もみ生もすぐに乗り込みトラックを発進させた。
「あんたらに任せてよかったぜ。強いアイドルってのもいいねぇ」
物資に傷一つつかなかったことで、種もみ生もご機嫌だ。
ところが、上機嫌はあまり長く続かなかった。
「待てコラー! 俺らの将来を勝手に薄暗くすんじゃねぇ!」
「俺はじじいになっても最強だー!」
エクスプレス・ザ・ワールドの効果が切れたスーパーパラ実生達が懲りずに追いかけてきたのだ。
さゆみ達はそろってため息を吐いた。
「わたくしが潰しますわ」
さゆみは休んでいて、とアデリーヌは窓を開けると身を乗り出して窓枠に腰かけた。
さゆみのエクスプレス・ザ・ワールドは音楽によるものだったが、アデリーヌは絵を描いて襲わせた。
全身が毒を思わせる色合いの、複眼が不気味な巨大なモンスターがスーパーパラ実生達の頭上から降ってきた。
あ、と思った時には彼らはモンスターの下敷きになっていた。
それを免れた後続の者達は恐慌状態に陥っている。
風に乱れる髪をおさえ、アデリーヌが静かに微笑む。
サイドミラー越しにそれを見ていた種もみ生は真っ青になっていた。
「さあ、もう大丈夫でしょう。一気に引き離してしまいましょう」
「お、おおう!」
車内に戻ったアデリーヌの勧めに従い、トラックは加速する。
「お疲れ様、アディ」
さゆみはクーラーボックスから取り出した冷えたお茶をアデリーヌに手渡した。
「羽純くん、今、山が落ちたような音しなかった?」
「どういう表現だよ。それより、俺達の目の前に山が迫ってきてるわけだが……」
月崎 羽純(つきざき・はすみ)の言う山とは巨獣のことだ。
パラミタ愚連隊を二人の正面に、スーパーパラ実生達がぐるりと囲んでいた。
「やっぱり狙って来やがったか」
種もみ生が苦々しく吐き捨てる。
この一行は軽トラック二台で輸送中だった。
「う〜ん、この物資はとても大事なもの。絶対に渡せないよね。ここはひとつ穏便に……」
遠野 歌菜(とおの・かな)は魔法少女アイドル マジカル☆カナに変身する。
「へっへ。お嬢ちゃん、歌でも歌ってくれるのか?」
巨獣の背から、警戒しつつもどこか歌菜をなめた声が降ってきた。
歌菜はその様子を注意深く伺いつつ、
「歌もいいんだけど、こういうのはどうかな」
と、かわいいデザインの箱いっぱいに詰まったクッキーを差し出した。
「これをプレゼントしますから、ここは通してください」
「へぇ、うまそうだな」
と、受け取ったのは手前にいたスーパーパラ実生だった。
お菓子を渡し、後退しようとした歌菜だったが、突然その腕をぐっと掴まれた。
「おいおい、どこ行くんだ? おまえもプレゼントだろ? そのためにかわいく変身したんだろ?」
「え!? ち、違うよ……」
言いかけた歌菜の脇を、ヒュッと何かが掠め、腕を掴むスーパーパラ実生の喉元に突きつけられた。
「俺の妻だ。その手を離せ」
羽純の聖槍、ジャガーナートだった。
鋭い切っ先は、彼が一歩踏み込めばスーパーパラ実生の喉を突き破るだろう。
歌菜は慌てたが、羽純は本気だった。
それがわかり、スーパーパラ実生はごくりと唾を飲み込んで、歌菜から手を離した。
しかし、周りの仲間達は歌菜と羽純が夫婦だったことに仰天して大騒ぎだった。
「夫婦ってマジかよ! 女の子のほう、ありゃ犯罪じゃねぇのか!? あの男、きれいな顔してロリ……」
「私は成人してます!」
思わず言い返してしまう歌菜に、彼らはますます騒ぎ立てた。
「お、オトナだと!? つまり俺らより年上ってことか……」
「年上ってのもいいな……」
「しかも人妻……」
賊達がよからぬ妄想を始めると、羽純が敏感に反応した。
「死にたいらしいな……順番に首を刎ねてやるから前に出ろ」
「は、羽純くん、ダメだよ。そんなに挑発したら!」
「仕方ないだろ」
「その挑発に乗ったァ! 旦那を倒して人妻を奪うぜェ!」
変な方向に燃えた賊達に羽純は完全に戦闘態勢に入り、歌菜は頭を抱えた。
スーパーパラ実生の何人かが手のひらにエネルギー弾を作り、羽純にぶつけてくる。
しかし、そのうちのいくつかは歌菜に向かった。
羽純はとっさにアブソリュート・ゼロを唱え、歌菜の前に氷の壁を作ってそれらを防いだ。
「ありがとう羽純くん。私もやるね。みんなでここを突破しよう!」
歌菜も決意すると、エクスプレス・ザ・ワールドを展開した。
歌菜の歌声に合わせ、周囲に無数の槍が現れる。
同時に羽純も【剣の舞】剣の花嫁用で剣を具現化させ、歌菜の歌に合わせて舞うようにステップを踏み、次々と剣を投げつけていった。
「抵抗されるほど奪いがいがあるぜ!」
「変態が」
羽純が低く冷えた声で言った。
歌菜の槍も押し寄せるスーパーパラ実生を突き、防御した。
そこを切り抜けてきた者には、自ら両手に槍を持ち応戦する。
その時、巨獣が吼えた。
ドシンッ、と足踏みして歌菜と羽純、さらにはその後ろで戦っている種もみ生達を踏み潰そうと迫ってくる。
「いけない! あれを何とかしないと!」
「めんどくせぇもん連れてるよな」
それぞれ言いながらも、二人が次にとる行動は決まっていた。
二人は標的を巨獣に定めると、槍を両手に駆け出す。
途中で邪魔するスーパーパラ実生を打ち払い、二人は縦横に槍を振るい息つく間もない乱撃を巨獣に喰らわせた。
巨獣がのけぞり、後足立ちになって苦しげな声をあげる。
高々と上げられた両の前足が地面に落ちた衝撃で、歌菜も羽純も賊達も吹っ飛ばされた。
見ると、乗り手も転げ落ちていた。
そして、操る者を失った巨獣は方向転換し、地響きを立てながらどこかへ去って行ってしまった。
「いたた……。みんな、無事? 羽純くんは?」
「無事だ。種もみ生も物資も何とかな」
辺りを見回すと、スーパーパラ実生達はまだ転がって呻いている。
「今のうちに行こう!」
歌菜の言に従い、種もみ生達は素早く軽トラックに乗り込む。
歌菜と羽純も飛び乗ると、二台の軽トラックはアクセル全開でその場を後にしたのだった。
「悪ぃな、生徒会長さんに荷物運びさせちまうなんてさ」
「気にすんなよ。荒野の復興は俺の願いでもあるんだ。そのためなら何だってやるぜ」
「心強いぜ」
馬車の御者を務める種もみ生の横に座る姫宮 和希(ひめみや・かずき)の気さくな笑顔に、種もみ生は嬉しそうに笑った。
二台の馬車で向かう先は、種もみ学院からけっこう遠いところにあるオアシスだ。
先ほどまで平らな荒野だった景色だったが、だんだんと岩場が増えてきていた。
「そろそろ警戒区域だな」
種もみ生の呟きに、和希も気を引き締めた。
周囲に害意を向けてくる者がいないか探るが、今のところその気配はない。
「馬車は通れるのか?」
「何とかな」
「そうか。賊が出るとしたら、やっぱ上からかな」
岩はすでに見上げるほどに大きい。
道幅は、馬車がギリギリ通れるくらいだ。
和希の予想に種もみ生も頷いた。
「ま、こんなとこじゃ巨獣はないだろ」
「そうっすね! 生徒会長でも、やっぱアレはやばいか?」
「巨獣とタイマン張っても面倒くさそうだ。乗り手を狙うな」
「ああ。乗り手はたいしたことねぇって言うからな」
話しながらも和希は警戒を解かない。
そのかいあって、行く手に澱む殺気に気づくことができた。
和希は無言で手綱をとる種もみ生の手を止める。
その意味に気づいた種もみ生は、静かに馬車を停めた。
和希は種もみ生に馬車から離れないように言うと、自身は下車して殺気のあるほうへ歩いて行く。
「そこにいるんだろ。もうバレてんだ、出てこいよ」
和希が呼びかけると、スーパーパラ実生達が岩場の上や下からぞろぞろと現れた。
「黙って引くなら見逃してやる。去れ」
和希の警告にスーパーパラ実生達はニヤニヤ笑いで返した。
馬車の種もみ生が怒鳴った。
「おい、その人は生徒会長だぞ。言うこと聞いといたほうが身のためだぜ!」
「生徒会長? ……そういや顔が同じだ」
初めて、スーパーパラ実生達に小さな動揺が見えた。
「待て、顔が同じ別人かもしれねぇぞ」
「確かに。生徒会長がこんなとこにいるのは不自然だもんな」
「別人だな」
「別人だ。おい、名前を教えろよ」
「姫宮和希だ。別人じゃねぇよ、本人だ」
さすがに同姓同名で顔も同じの別人はいないと思ったか、スーパーパラ実生達は沈黙した。
額を寄せ合い、コソコソと話し始める。
「やべぇよ本人だよ。どうするよ」
「黙って立ち去れば見逃してくれるんだよな?」
「本当かな。後で大軍送ってくんじゃねぇか?」
「……やるか」
彼らは勝手に追い詰められていった。
そして。
「てめぇ、俺らを脅そうとヘタな整形してんじゃねぇぞ! もとの顔に戻してやるから覚悟しやがれ!」
まるで頓珍漢な結論にたどり着き、和希達を倒して物資強奪の道を選んだ。
やれやれ、と和希は呆れてため息を吐いてしまう。
「──やるってんなら仕方ねぇ。俺も腹括るぜ」
和希は目の前の群の中、もっとも崩しやすそうな一点に目をつけると軽身功で大胆に踏み込み、両脇の岩場を利用して左右に飛びながらそこに突進した。
狙われていることに気づいた彼らは防御を固めたが、和希の技のほうが威力が上だった。
ドラゴンアーツを乗せて繰り出した則天去私が、スーパーパラ実生達を次々と殴り飛ばす。
仲間を巻き込むのも構わず放たれた○メハメ波も、軽身功でひょいとかわす。
「くそっ。……これならどうだ!」
と、今度は種もみ生達が守る馬車に向けて放つ。
「卑怯者が!」
和希はドラゴンアーツを遠距離用として、カメハ○波を打ち消すように使った。
ドーンと轟音を立てて二つのエネルギー弾がぶつかり合い、破裂する。
「マジかよ……」
「まだやるか!」
凄んだ和希の手は、たった今ぶちのめしたスーパーパラ実生を引きずっていた。
「くっそー! やっぱ本物かよ!」
スーパーパラ実生達は盛大に悔しがった。同時に、逆らったことでボコボコにされることも覚悟した。
和希は引きずっていた男を地面に下ろすと、自分の服の埃を払いながら言った。
「おまえら、そんだけ体力が有り余ってんなら、種もみ学院かイリヤ分校に来ないか?」
覚悟を決めていた矢先の勧誘に、彼らはぽかんとする。
「大荒野の復興に力を貸してくれよ」
「俺達がか?」
「ああ。一人でも多いほうがいい」
「……その前に今回の制裁とかは」
「制裁? そうだな……俺がいいって言うまで復興に力を尽くすこと。それが制裁だ。一緒に新しい伝説を築こうぜ!」
「伝説……俺達が?」
目を丸くする彼らに和希は微笑み、頷いた。
「伝説か! いいな!」
「パラ実の歴史に名を残すぞー!」
伝説という言葉に魅了された彼らは、その勢いのままイリヤ分校生になった。
そして物資輸送の護衛隊となってしまった。
再び馬車の御者席で。
種もみ生がだらしない笑顔で言った。
「生徒会長が戦う姿、よかったなぁ。こう、スカートが翻って、中が……」
「おい」
「うおっ、失礼しましたっ」
この後一行は、特にトラブルもなく目指すオアシスへ到着したのだった。
なだらかな高低差のある乾いた大地で。
高台からパラミタ愚連隊とスーパーパラ実生達が獲物を見下ろしていた。
「肉がお宝担いできたぜ。狩り放題だな」
「戦車がいるじゃねぇか」
「うちの巨獣に敵うかよ」
「そりゃそうだ。バラして高値で売りさばこうぜ!」
彼らが狙っているのは、ペンギンや犬を連れた種もみ生の物資輸送隊だ。
今は休憩中なのか、物資を積んだ馬車を中心に種もみ生達は停車していた。
「巨獣で一気に攻めておしまいだな」
作戦は決まった。
その時、獲物の様子を見張っていた一人が疑問の声をあげた。
「あの犬……何だあれ? ロケットランチャーに似ている……?」
直後、ドンッと先端の砲弾が発射された。
それはみるみる近づいてきて……。
「うおおおおっ、逃げろ〜!」
ドーン、と遠くの高台に着弾の音が響き爆炎があがった。
「はい、よくできましたー」
酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)がケルベロスジュニアの頭を撫でると、子犬は嬉しそうに尻尾を振った。
美由子は子犬に括りつけたペット用ロケットランチャーを外した。これは一発限りだから、もう身につけていても意味はない。
と、二頭のシャンバラ国軍軍用犬と一頭のパラミタドーベルマンがいっせい吼え始めた。
危険を知らせる吼え方だ。
「残りが来るぞ」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)がソード・オブ・リコを構えて美由子と種もみ生達に注意を促す。
美由子は機晶戦車から大砲を撃てるように準備した。
種もみ生達もボウガンやらメリケンやらを装備する。
高台を怒涛のごとく駆け下りてくるスーパーパラ実生達は、その象徴の逆立った金髪をチリチリに焦げたアフロもどきにされ、怒り狂っていた。
「てめー、何してくれんだ! うちのかわいい巨獣ちゃんが目ェ回しちまっただろうが!」
「それが狙いだったのよ。大当たりね! あなた達も……くらえ!」
ダンッ、と一発目の砲弾が撃ち出され、一塊になっていたスーパーパラ実生達の中に落ちた。
ギャーッ、と爆風に何人が宙を舞う。
直撃を免れた者も衝撃で坂を転がり落ちた。
それをも潜り抜けてきた者達には陽一が対峙した。
刀身から放出される闘気により実際以上に大きく見える大剣を立て、挑発する。
「作戦が狂って残念だったな。けど君達、丸見えだったんだよね。いや……殺気を垂れ流しすぎたってとこか。何にしろ、甘いんだよ」
陽一の超感覚は、彼らの殺気を感じ取っていたのだ。
「バカだなぁ」
とどめにせせら笑うと、スーパーパラ実生達は標的を陽一に絞った。
これも彼の作戦で、敵を自身に集めることで物資を守り種もみ生達の狙いをつけやすくしたのだ。
「ブッ殺す!」
「その力、他のことに使うことを勧めるよ」
勢いよく振り回されたソード・オブ・リコの剣の平が、突っ込んできたスーパーパラ実生を弾き飛ばす。
カメ○メ波も、剣で受け止めた。
そして、陽一を援護しようと種もみ生達もボウガンで狙い撃ち、メリケン装備の拳で殴り倒した。
さらには美由子のペット達も加わり、足や尻に噛みついた。
しばらくすると、立っているのは陽一達だけだった。
陽一は大剣からほとばしる闘気を抑えると、近くで這いつくばっているスーパーパラ実生に話しかけた。
「さっきも言ったけど、その力を別のことに使わないか? 例えば、人助けとか」
「……俺に何の得がある」
「いっぱいあるさ」
陽一は彼と目を合わせるように膝を着くと、丁寧に説明を始める。
「これは仕事と思ってくれていい。君達は荒野を渡る人々の護衛をする。報酬は払うよ。お金をもらえて感謝もされる──悪くないだろう?」
彼は少し考えた。そして、同じく地に伏して息切れしている仲間を見やると、近くにいた一人を蹴って意見を求めた。
「なあ、どう思うよ」
「報酬しだいだな」
「だよなぁ」
「ところでさ」
と、別のスーパーパラ実生も加わってきた。
「護衛中に襲われたとして、そいつらから奪ったもんは誰のものだ?」
「それは君達の好きにしたらいい」
陽一の言葉に、スーパーパラ実生達の気配が変わった。
「なるほど。勝てば戦利品を得られると……」
「わざわざ危険な道を選んだら報酬は引く」
「ひでぇ! 俺らの生活の糧だぞ!」
「巻き込まれる旅人が一番の被害者になってしまうだろ。ルートは俺が決める。そもそも報酬が出るんだから、君達の言う生活の糧は人から奪う必要はなくなるんだけど?」
「本当の話だろうな!?」
「嘘は言わない」
疑り深い睨みに、陽一はしっかりと頷いてみせた。
「よし……一度だけ様子見に雇われてやる。嘘だったら荒野にその首晒してやるからな」
今の危険な荒野では、人や物がまともに流通できない。
けれど、賊だった者が護衛者となったなら。
陽一は彼らがそうなることを望んだ。
ところで、輸送中の物資の行き先だが……。
「アニキ〜、待ってましたぜ〜」
鳥取から連れてきた若者達が、オアシスの入口で陽一達を出迎えた。
彼らの中には契約相手を見つけた者もいる。
まだ大きな仕事は来ないが、今は世話になっているオアシスのためにできることを見つけ、積極的に取り組んでいるのだと彼らは話した。
「この前、長の家の改装が終わったんスよ。満足してもらえたみたいでね」
その時の様子を生き生きと語る若者達に、陽一も自然と笑顔になったのだった。