校長室
種もみ学院~荒野に種をまけ
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骨はこの荒野に チョウコからカンゾーが向かったと思われる元オアシスの位置を聞いた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、猫井 又吉(ねこい・またきち)が運転する装輪装甲通信車の座席でじっと腕組みをしていた。 カンゾーにテレパシーで呼びかけているのだ。 『カンゾー、今どこだ? もうジンベーには会ったのか?』 『おう、総長か。もうじきジンベーとの待ち合わせ場所に着くぜ』 『アーガマーハを知ってるな? ジンベーもそいつを使ってる可能性がある。気をつけろ』 『おお、あれか。総長は知ってるか? スーパーパラ実生ってのは、三下と鉄パイプを掛け合わせたものなんだぜ』 『三下も鉄パイプもクラスじゃねぇだろ。……いや、三下はいいのか?』 しかし、鉄パイプはアイテムだ。 『パラ実生なんてそんなもんよ。総長みたいな奴は珍しいんだ。だから強い奴には惹かれるんだよ。けど、俺らも想像力豊かでおもしれぇだろ。……着いたな。それじゃ総長、後でな』 『いいか、くれぐれも気をつけろよ』 武尊はテレパシーを切ると、又吉にもっと急いでくれるように頼んだ。 「舌噛まねぇように、歯ァくいしばってろよ」 そう言うと、又吉は通信車を加速させた。 陽が傾きかけた頃、武尊と又吉は目的地に着いた。 滅びたオアシスには、かつて家だったものの残骸が枯れた姿をさらしていた。 その静けさから、カンゾーとジンベーの戦いはすでに終わっていることを感じた。 通信車を降りた武尊のほうへ、こっぴどくやられたカンゾーが歩いてくる。 「総長、こっち来てたのか……」 カンゾーは笑おうとして、切れた口の痛みに顔を歪めた。 「勝ったのか」 「ああ。あんたの注意のおかげでな。アーガマーハってのはたいしたもんだ。俺も欲しくなった」 「ジンベーはどうしてる?」 「向こうでくたばってるよ」 カンゾーが顔を向けたほうを見れば、地面に倒れている人影があった。 「総長の気を煩わせちまって悪かった。今度こそ、あいつも諦めるだろ……」 疲れたようにこぼし、カンゾーは武尊とすれ違い、よろよろと去っていく。 武尊はただ頷いた。 カンゾーは種もみ学院に帰るつもりでいた。 大事な物資輸送を抜けたのだ。きちんと説明しなくてはならないと思っていた。 「だが、さすがに疲れたな……」 腰かけるのにちょうどいい岩を見つけて腰を下ろした時、誰かが近づいてくるのが見えた。 武尊と又吉ではない。 「黒崎か……?」 黒崎 天音(くろさき・あまね)とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)もまた、カンゾーとジンベーのことを気にかけていた。 天音はボロボロのカンゾーを見て苦笑する。 「ずい分やられたね」 「ジンベーのほうがもっとボコボコだ」 「どっちがどれだけというものでもないだろう」 ブルーズはため息交じりに言うと、カンゾーの手当てを始めた。 「悪ぃな」 「オアシスはどうだった?」 「どうって……今にもお化けが出そうなくらいだが」 ブルーズは、もしかしたらジンベーあたりが少しずつ手を入れて元の姿を取り戻しつつあるのではないかと思っていたが、そういうことはないようだった。 「もう、誰も戻らないのだな」 「……そうだな」 カンゾーの声は、ほろ苦く寂しそうだった。 「ジンベーはどうして君にしつこく絡むんだろうね?」 「恨んでるからだろ」 天音の疑問にカンゾーは諦めたように返したが、天音はその答えに納得していなかった。 ブルーズの手当てが終わると、カンゾーはお礼を言って再び種もみの塔を目指して行った。 天音は、カンゾーの帰還をテレパシーでジークリンデへと伝えておいた。 その頃、武尊は地面に大の字に寝転がるジンベーと会話していた。 武尊は彼を見た時、また時間が経てばカンゾーを狙うことを予感した。 だから説得を試みたのだ。 「ジンベー、もうやめにしないか。おまえにとってカンゾーは不倶戴天の敵かもしれないが、オレにとってはオアシス再生を目指す種もみ学院の仲間だ。これ以上カンゾー相手に何かするってんであれば、種もみ学院総長としても、パラ実S級四天王としても、見過ごせなくなるぞ」 「……脅しか? 俺には、効かねぇ……」 後ろで黙って見ていた又吉が舌打ちした。 武尊は諦めずに続けた。 「カンゾー達の地道な努力が実って、学院はたくさんの寄付をもらい、その寄付で各地のオアシスへの物資輸送も始まってる」 「あっぱれなことだ……」 「カンゾーが過去にオアシスを潰した事実は消えないが、今現在多くのオアシスを救おうとしてるのも事実だ」 「……」 「カンゾーを許すことができないならそれでもかまわない。だが、今やっていることの邪魔はしないでくれ」 「ずい分、カンゾーを買ってるんだな……」 ジンベーは馬鹿にするように笑った。 と、そこに地面を踏みしめる音がした。 見ると、天音とブルーズがいる。 天音はじっとジンベーを見つめて尋ねた。 「君は、本当に恨みだけで動いているのかな?」 ジンベーは、じろりと天音を睨んだ。 天音は彼の表情の変化をどんなに小さくても見逃すまいと、見つめ続ける。 「本当は、カンゾーだけが悪いんじゃないってことくらい、君はわかってるんでしょ。自称小麦粉を栽培する危険に君だけが気づいたんだから」 そういうふうに先を見る目を持つ者がはたして恨みだけで動くものか、天音は疑問だった。 だから、ジンベーは他の目的があるのではないかと考えた。 しばらく両者の視線は交じり合い、先にそらしたのはジンベーだった。 「恨んでることには変わりねぇ。それだけは覚えとけ」 ジンベーは、こう前置きして……一度ため息を吐いた。 「カンゾーは、単純だ。あいつは……目の前に宝箱があったら、罠があるのかも確かめずに開けるような奴だ。……なぁ、それが爆発したらどうなる? てめぇだけがぶっ飛ぶならいい。だが、一緒にいる奴はたまんねぇよ」 しかも、その時の痛みが消えれば、その失敗も忘れるバカだと吐き捨てた。 「つまり……監視?」 「違う。あのバカがてめぇの罪を忘れねぇように刷り込んでやるのよ。何度も思い出させて、一生苦しめばいい」 強い怨念のこもった言葉を吐くジンベーを、天音は静かに見ていた。 話を聞きながら何事かを考えていた武尊が、それなら、と口を開いた。 「おまえ……監査役やらねぇか?」 ジンベーは自嘲気味に笑った。 「悪いが、俺は俺でやらせてもらう。……が、おまえらの活動の邪魔はしねぇよ。俺は、カンゾーが関わった活動なんざ長続きしねぇと思ってた。けど、気がつけば多額の寄付までもらってやがる。たいしたもんだよ。あのドキュメンタリー動画も良かった」 「……おまえがいれば、良いストッパーになると思ったんだがな」 「そいつは総長さんに任せるよ」 ジンベーはようやく体を起こした。 痛みに顔をしかめながら立ち上がる。 「次からは、カンゾーが一人でいる時を狙う。種もみ生には何もしない」 一歩踏み出したジンベーの手当てをしようとブルーズが進み出たが、それは片手をあげて拒否された。 借りは作りたくない、と。 体をひきずるように去って行くジンベーを見送りながら、又吉はイライラと地面を蹴った。 「おい、逃がしちまっていいのか? 結局、これからもカンゾーを襲撃するってことだろ? 甘いぜおまえら。邪魔者は徹底的に排除しとかねぇと……」 「投資が無駄になるか?」 「そうだ! たった一人のせいで水の泡なんざゴメンだぜ」 半分冗談のつもりで言った武尊の言葉に大真面目に返す又吉に、武尊も天音もつい笑みがこぼれてしまった。ブルーズもそんな雰囲気だ。 「くそっ、大損したら武尊から搾り取ってやるからな」 「いや、それは……」 又吉の目は本気だった。 それから、彼らも種もみ学院に戻ることにした。 仕事を終えた種もみ生達が種もみ学院に集まったのは、夜九時を少し過ぎた頃だった。 美羽達が運んできた食材で、彼らはバーベキューをして今日あったできごとを報告し合っている。 そこでは、実際よりも百倍ほどにふくらませた種もみ生の武勇伝が語られていた。 それらの武勇伝を呆れと苦笑で聞き流しているチョウコに、コハクが労いの言葉をかける。 「お疲れ様。全ての物資がちゃんと届いてよかったね」 「本当にな。あんた達のおかげだよ。ん……イケメン彼氏もいいけど、地球人と契約すんのもいいな。そしたらもっと強くなれるもんな。あ、イケメン地球人と契約すりゃいいのか! なぁ、誰かいい奴いねぇ?」 「え……」 コハクが困っていると、カンゾーがチョウコを止めにきた。 「これでも食って落ち着け」 「サンキュ……って野菜ばっかじゃねーか! 肉はどうした!」 「俺が食った」 今度はチョウコとカンゾーの喧嘩が始まるのかと、コハクがはらはらしていると、どこからともなく種もみじいさんが寄ってきて、チョウコの皿の野菜を全て食べつくすと、代わりに炊き立ての白米を山盛りにしていった。 種もみ生達は明け方まで騒ぎ倒し、眠い目をこすってまた活動を始めるのである。
▼担当マスター
冷泉みのり
▼マスターコメント
お待たせしました。『種もみ学院〜荒野に種をまけ』のリアクションをお届けいたします。 このたびはリアクションの公開が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。 種もみ学院のシリーズは、ひとまずこれで終わりです。 今後はお祭り系のシナリオで顔を出すことになると思います。 その時にまた皆さんとお会いできれば大変嬉しく思います。 シナリオにご参加してくださった皆様、ありがとうございました。