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昼食の時間です


「スポーツすると腹が減るだろ?
 だからソイツを提供しようってワケだ」
「うむ、食事は重要だな」
「私もそう思います」

 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の意見には、エクスも純も大賛成。
 体内で栄養を生み出すこと叶わぬなら、適宜、外からとり入れなければならないのだ。
 粋な計らいに、葦原明倫館の料理長が乗らないわけがない。
 海に来たのも初めての純は、夫の選んだ赤のビキニに身を包んでいる。
 勝手が分からぬため、極力エクスと行動をともにしていた。

「イエス!
 ミーもそう思うヨ〜」
「お、じゃあ一緒につくるか?」
「オフコース!」

 隣のテントから、救護担当のティファニーも顔を覗かせる。
 食べること大好きな耳は、食にかかわる話を逃さない。
 気付いたカルキノスの誘いを受け、4人での昼食づくりが始まった。
 ちなみに。

「今日はドラゴンじゃないのネ〜?」
「あぁ。
 これなら『魔竜の輝眼』も見えねぇから、人間どもを怯えさせずにすむだろ?」
「そっかぁ〜カルキノスは優しいネ〜」
「だろ〜?」

 【シェイプチェンジ】の効果で、カルキノスは人間の青年に化けていた。
 褐色の肌に、Tシャツ短パン。
 金の瞳と焦茶の髪は、ドラゴンの姿のときと同じだ。
 2本の角は、頭に巻いたタオルで隠れている。
 夏の蒼海が似合う、凛々しい屋台のにーちゃんだ。

「して、なにをつくればよいのだ?」
「焼きそば、焼きとうもろこし、焼きいか。
 あとシュラスコだ!」

 屋台の定番メニューのなかに、聞き慣れない片仮名がひとつ。
 シュラスコとは。
 南アメリカ地域発祥の、塩で味付けした肉を鉄串に刺し、炭火でじっくり焼いた料理だ。

「ほぅ、美味しそうであるな。
 なればわらわは、焼きそばを担当しよう」
「ミーはとうもろこしを焼くヨ〜!」
「私、いかなら焼けるかも知れません」
「必然的に、俺がシュラスコだな」

 分担が決まり、道具も材料も準備完了。
 早速、切ったり調味料を振ったり、所謂下準備を始める。
 とまぁ、お腹を空かせた生徒達に、すぐに周囲を取り囲まれたのだが。

「はいはい、すぐにできるから待っておるのじゃ」
「焼いちゃうヨ〜っ!」
「ええと、ここに置けばいいんですよね?」

 網の上に、少しずつ食材が載せられていく。
 油や水に反応して、ぱちぱちと小さな音が鳴った。
 香ばしい匂いも、徐々に漂い始める。
 と。

「あむっ……ん〜っ、シュラスコうめえ、肉最高!」
「って真っ先に自分で食べちゃったネ〜!
 ミーにも食べさせるのヨ〜っ」
「2人とも、危ないですっ!」
「なにをやっておるのじゃ……ほれ、焼きそばできたえ?」
(今日は疲れそうだの。
 終わったら、旦那にマッサージでもしてもらおう)

 そんなこんなで、まず先に提供されたのは、焼きそば。
 焦げる前に、いかもなんとか救済され、店頭に並ぶ。
 ティファニーを入れた時点で予測は立っていたものの、やはり前途多難だ。
 カルキノスも純も心底、エクスがいてよかったと思った。