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午前の部 遠泳大会


「ではルールを説明するでありんす!
 この砂浜からスタートして、沖の小島まで4キロを泳ぎきるべし!」
「強化系アビリティのみ、使用を許可されております。
 妨害行為はお断りですわ」

 ハイナと房姫から、勢いよくルールが紹介される。
 2人とも、水着姿でやる気満々だが。

「わたくし達は先にゴールでお待ちしておりますので」
「房姫と一緒に涼みながら待っておるでありんす〜♪」

 泳ぐ気は、まったくないらしかった。

「さぁいくわよ、アデリーヌ!」
「えぇ」

 たいして。
 人一倍、気合いの入っているのは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)
 う〜んと声を上げながら、腕や脚をしっかり伸ばしている。
 応えるアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も、真剣な眼差しで海面を見渡した。
 薄く見える小島を確認して、ペース配分を考え始める。
 砂浜へ走らせるのは、そこいらにて拾った木の枝。
 2人の体力と、潮流の方向や早さを考慮して、泳ぐスピードを計算する。

「あくまでも4キロを泳ぎ切ることが目標と割り切るわよっ!」
「そうですわね。
 わたくしも体力に自信のある方ではありませんので、タイムは競えませんわ」

 ここまで綿密に考えて臨むのには、ちゃんとした理由があった。
 さゆみとアデリーヌは、競争よりももっと大切な目的を持っているのだ。

「ぜっっっったいに、2人でゴールするのよっ!」
「っ……はいっ!」

 種族の異なる2人は当然、残る寿命にも幅がある。
 アデリーヌは吸血鬼。
 誕生から既に千年を経過しており、この先もまだまだ生きるだろう。
 勿論、さゆみよりも永く。

(さゆみは、わたくしの十分の一しか生きられない。
 いつか必ず、その日が来る。
 さゆみがわたくしを置いて逝く日が……)

 だから、お互いに約束を交わしたのだ。
 生きている限り、2人で永遠に残るような想い出を創っていくことを。

「そんな暗い貌、しないでよ。
 私はまだ、貴方の隣にいるわ」

 頭を撫でつつ、さゆみは告げる。

「……ありがとう」

 アデリーヌの表情が、さぁっと笑顔に晴れ渡った。

「みーながさほおねーちゃんばっかりでつまらないのですぅ〜」

 ぷぅ〜っと頬を膨らませて、フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)が呟く。
 砂浜に座り、伸ばした足をぶ〜らぶら。
 視線の先には、大好きなヒトといちゃいちゃするパートナーの姿がある。
 しかし一向に
 ピンクでフリフリの付いた、ちびっこらしい可愛い水着で、ちょっと拗ねていた。

「もぉいいもぉ〜んおよぐもぉ〜ん」

 すいっと立ち上がり、ばたばたと音を立てて水端へ。

「あなたも泳ぐのかしら?」
「うんっ!」
「わぁ〜抱っこさせてっ!」

 アデリーヌの問いに答える破顔を、さゆみが抱き上げた。
 きゃいきゃい喜ぶフランカに癒され、心も温かくなる。

「さいごまでおよいで、みーなと、さほおねーちゃんに、いっぱい、ほめてもらうんだ!
 きっといっぱいなでなで、してくれるもん」
「そっかそっか、えらいな〜!」
「えっへん!」
「ミーナさんとは、パートナーですか?」
「そうなの〜ほらあそこ!」

 さゆみに褒められ、上機嫌のフランカ。
 指した先には、変わらぬパートナーの姿。
 なるほどと、アデリーヌもひとつ頷いた。

「綺麗なお姉さん達。
 困ったらオレを呼んでね〜!」
「「「おっ!?」」」

 背後から降ってきた声に、揃って振り返ると。

「やっほ〜♪」

 如何にも楽しそうな耀助が、右手をひらひら立っていた。
 満面の笑みの理由は、容易に想像できる。

「仁科殿も参加されるか。
 よろしく頼むな」

 そこへやってきたのは、夏侯 淵(かこう・えん)だ。
 差し出した右手を、耀助とがっしり握り合う。

「正々堂々と勝負しようね〜」

 先刻までと打って変わって、獲物を狙う鋭い視線を投げる耀助。
 両の手にも、自然と力が籠もる。

「スキルを使うつもりは無い。
 スポーツとはそういうものではないと思うのでな!」
「んじゃあオレも使わないでいこうかなぁ〜」
「頼れるのは、自分の肉体だけ。
 全力でがんばる所存だ。
 仁科殿も手加減は無用だぞっ!」

 淵もぐっと、強く返した。
 これが男の友情というモノかと、周囲で感心する参加者達。
 熱い想いに触発され、次々と勝負を申し込んでいく。

「ハイナは、本当に出ないの?」

 運営側では、スタートの準備も完了。
 最後の最後に駆け寄ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、再度、ハイナの意思を確認した。

「む、あぁ。
 妾はふわふわ漂っていたいのでありんす」
「みんな、ハイナの泳ぎを楽しみにしてるかもだよ?」
「無駄ですわ。
 こうと決めたら聴きませんもの」

 食い下がってはみるものの、揺れない。
 やろうとしていることは緩いのに、頑固なのだ。
 房姫も既に、ハイナの決定が覆らないことを悟っている。

「う〜ん、残念。
 なら、あとで一緒にふわふわしようよ!」
「構わぬよ〜」
「ありがとう!
 じゃ、行ってくるね!」
「気を付けての〜」

 これ以上は無意味だと、ルカルカも引き下がる。
 手を振り、スタート地点へと走った。
 約束を果たすため、必ず無事に戻ってくると心に誓って。

「淵、耀助っ!」
「おかえり、ルカ」
「ルカルカじゃないかっ、会えて嬉しいよ〜」

 そうしてルカルカは、パートナーである淵と合流。
 耀助とも、笑って言葉を交わす。

「水着も可愛いのな。
 似合ってるよ!」
「あ、ありがとう。
 耀助は女の子ほめるの上手いね」

 不意の褒め言葉に、照れるルカルカ。
 えへへと口の端を上げて、素直に喜んだ。

「淵はもう、耀助に勝負を申し込んだんでしょ!?」
「あぁ、勿論だ!」
「負けないよ〜」
「耀助にも淵にも、ルカは負けないからねっ!」

 淵も耀助もルカルカも。
 お互いを鼓舞するために、敢えてけしかける。
 と、甲高いホイッスルが砂浜に響き渡った。

「それでは、遠泳大会を開始するでありんす!
 皆の者、準備はよいか!?」
「おーーーーっ!!!」
「参る。
 よ〜い……スタートっ!!!」

 ハイナの合図とスターターピストルの音で、選手達は一斉に海へと泳ぎ出でた。
 果たして、誰が1位で島へと辿り着くのだろうか。