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闇夜の肝試し大会

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闇夜の肝試し大会

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第三章
ふふふふ……

 幽霊の噂は、主催者たちも最初は知らなかった。
 準備を始めてしばらくして、学校内でその噂を聞いた。だが誰も真に受けなかった。
 どうせ噂。世の中の怪談話のうち真実なんていくつあるか分からない。暗くて静かな森の中なら、木の枝が引っかかったりしたことが、誰かに引っ張られたと錯覚してもおかしくないだろう。その程度にしか考えていなかった。

 だけど。
 もしかしたら本当に。
 ここには何かがいるのかも知れない。

 暴発した火術による爆発騒ぎを片付けながら、参加者がコースアウトしたあたりの壁や目印を配置し直しながら、主催した生徒たちは思った。

■■■

 今回の肝試しは、かなり怖いらしい。
 マーク・モルガン(まーく・もるがん)はそんな話を、イベント当日の少し前に聞いた。
「肝試しって何よ!」
 そしてパートナーのジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)を誘って、夜のイルミンスール魔法学校前に集合した。
「今まで戦場で命も賭けたことがあるのに、今更暗闇に怯えるとでも?」
 と、誘われたジェニファとしては少々気が乗っていない様子。
「温室育ちじゃあるまいし、タネがあるって分かってるお化け屋敷がどの程度怖いと言うのよ」
「まあまあ。折角なんだから入ってみようよ。タネがあるって分かってるならなおさら楽しんでいこうよ。はい、アイス」
 ふん、とジェニファは差し出されたカップのアイスを受け取った。

 それが二人のお化け屋敷侵入の五分前、今から十五分前のことだった。

「「〜〜〜〜〜!!」」
 それこそ『あ』と『ば』の中間くらいの声で、二人が同時に叫んだ。
 休憩所と書かれた広場の椅子に二人で腰かけた瞬間現れたオバケに、二人は猛ダッシュで逃げた。
 後ろからオバケが何か言っていたような気がするが、きちんと聞いたら取りつかれそうだから絶対耳を貸さない。

 二人は正直、たかをくくっていた。
 この肝試しのすべての仕掛けに、確かにタネはある。すべて主催者及び契約者たちの自作トラップ。本物の心霊現象は一切ない。はず。
 だとしたらそれほど怖くはないはずだ、と。

 大方、マークは頼りになる所を見せてやろうとか考えているだろうから、びっくりして腰を抜かしている所でも写真に収めてやろうとか思っていたジェニファは、もうそれどころではない。考えは完全に見抜かれているマークも、それどころではない。

 そして今、ここは肝試しのコースのど真ん中。恐怖の手は、そっと彼らに近づく。
「……ねえ」
 ぞく。
 二人の背筋に、強烈な悪寒が走った。
 二人の真後ろに、いつの間にか女性が立っている。
 どこか儚げで、影の薄そうな印象の、そしてどこか冷たい雰囲気を纏った女性だ。血のりもオバケメイクもないから一瞬、普通の参加者かと思ったが、それにしては雰囲気が違う。
「……こっちへいらっしゃいよ」
 そして薄く微笑み、二人の頬をそっと撫でた。

■■■

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は最初、肝試しに普通に客として参加するつもりだった。
 ところが、なぜか仕掛け人たちが相次いで参加を辞退し、人手が圧倒的に不足していると聞いた。
 こうなればしょうがない。教導団で過酷な訓練を受けている自分たちが、本物の肝試しを教えてやろう。

 ということで、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とともにオバケ役として肝試しに参加した。

 ゾンビやモンスターも良いかと思ったが、ここは自身の素材を活かして、グロテスクなのは避けて、雰囲気で恐怖させる方向にシフト。空気感で相手を驚かせるようなホラー映画の演出をイメージした。
「ふふふ……」
 すぅ……とマークとジェニファの頬を撫でると、二人の鳥肌が総立ちしたのが分かる。
 ひ、と二人は思わず一歩後ろに下がった。
 その真後ろで、がさ、と音がした。慌てて振り向けば、少し先の茂みの前に誰かいる。同じく儚げで冷たい雰囲気を纏ったセレアナだ。
 ふらぁり、とゆらめくように近づくと、薄く微笑んでジェニファの方に手を伸ばした。
「ま、待て! 姉さんには指一本触れさせないぞ!」
 ものすごく声が震えているが、マークが震える足を無理矢理動かしてジェニファの前に立った。
「……にたぁぁ」
 すると、セレアナがすごく冷たくて嬉しそうな笑みを浮かべて、マークに向かって両手を伸ばしてまっすぐ近づいてきた。
「わああああ!!」「きゃあああ!!」
 ついに耐えられなくなり、二人は大声で叫びながら逃走。コースの誘導に従って出口まで元気に駆け抜けていった。
「……やりすぎたかしら。あそこまで悲鳴出されるなんて思ってなかったわ」
「あはははは! あー、楽しい! 次の客、早く来ないかしら!」
「勢い余って変な行動に出ないでね」
「はーい! 了解です!」
「分かってるわよ」
 ふう、とセレアナは待機場所でまた身を潜めようとした時、ふと気づいた。
「セレン、その子、誰?」
「へ?」
 セレンフィリティのすぐ後ろに、少女が一人、ぽつんと立っていた。

■■■

 一方その頃、森の中の別地点。
「うーん、すっかり遅くなっちゃったね」
「ね。森の中も真っ暗だよ。早く学校に戻ろう」
 二人の魔法学校女生徒が森の中を進んでいた。学校の外までのちょっとしたお使いだったのだが、行った先で知り合いと鉢合わせになり、少々おしゃべりにふけってしまった次第である。
 そして彼女らは、このあたりで肝試しをやるという話そのものは知っていたが、それが今日だとは思っていなかった。
 がさがさ、と脇の茂みが揺れる。
「ん? 魔物か!?」
 二人が身構えたその時、後ろからそっと近づく血まみれメイクの人形。
 ひた、とその手が女子生徒の一人に触れた。
 慌てて振り向いた女子生徒は目の前にいた人形の様子に思わず悲鳴を上げ、腰から銃を引き抜いた。
「ええ!?」
「うわ、ちょっと待て!」
 そして三連発。人形の眉間に三つの穴が空いた。
「おい君達! 武器の持ち込みは駄目だって言っただろうが!」
 と、茂みの奥や木の後ろから出てくる肝試しスタッフ。もちろんオバケメイク。
「きゃああああ! 出たあああ!」
「うお! アブねえ! 銃を撃つな!」
「寄るなバケモノ! 蜂の巣にするぞ!」
「物陰に隠れろ! それマジの銃だぞ!」
「おい、何だ! 銃声が聞こえるぞ!」
「うわ、増えた!」
「ああ! 仕掛けが撃たれた!」
「オイ待て! 話を聞けって!」
 途端に騒がしくなり、錯乱して銃を乱射しまくった女子生徒は十分以上も暴れ回り、周辺の仕掛けやトラップが攻撃された。犠牲者、怪我人こそ出なかったものの、これのおかげで三十分近く肝試しが中止された。