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夏最後の一日

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夏最後の一日

リアクション

 昼、空京。

「……(……夏最後の今日のイベントを使ってシェリエと……でもあの夢を見てからシェリエと顔を合わせても恥ずかしくて話は出来ても……その先……関係を進展させられない)」
 フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)はデートに誘った恋人を待つ間、夢札を使ってからの自分を振り返っていた。あの甘い恋人な自分とシェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)の夢を見た一件以来、どうにもシェリエと顔を合わせても恥ずかしくて話はするがキスしたりはできず関係を進展させられないでいた。
 しかし、今日は違う。
「……(だけどせっかく恋人同士になったのにこのままなんて嫌だ。今日こそは関係が進展できるよう頑張る)」
 夏最後という事もあってかフェイの気合い十分。

 少しして
「……フェイ、おまたせ」
 シェリエが待ち合わせ場所に現れた。
「あぁ、行こうか、シェリエ。夜にはとっておきのイベントがあるから時間が来るまで昼間はショッピングで時間を潰そう」
 フェイは本日のデートについて話すが、今日の大目玉のイベントの詳細については伏せておく。
「とっておきのイベントって何?」
 当然秘密にされた方は気になり聞き返すが、
「それは内緒。その方が楽しみが増えていいでしょ?」
 フェイは頑として口は割らず秘密を通す。でなければ何もかもが台無しになる。
「……そうね」
 フェイの様子から聞き出す事は無理だと察したシェリエは諦め、夜を待つ事にした。
 そして、フェイとシェリエはデートを始めた。

 デート中。
「シェリエ、あれ美味しそうだ。食べてみないか(本当に今日こそ……)」
 フェイは何気なく屋台で販売するスイーツを指し示した。胸中ではデート開始から抱きまくっている決意があった。
「そうね(……夜のとっておきのイベントかぁ。それより最近のフェイも……)」
 答えるシェリエも胸中では夜の事や最近のフェイの様子がおかしい事が気になれど口にはせず、ただデートを楽しんだ。
 そして時間は流れ、昼から夜に。フェイの大勝負が始まる。

 夜、とあるホテル。

「フェイ、ここに何かあるの?」
 シェリエは眼前のホテルを見上げてから隣のフェイに訊ねた。予想外の場所に多少の戸惑いが見え隠れ。
「最初に言ったとっておきがある。その前に食事をしよう。ここは料理が美味しいと評判だ」
 フェイはまだ詳細を隠したままとっておきを伝え、興味をそこから逸らすため別の話題を持ち出した。
「そうなの。それは楽しみね」
 シェリエは追求するのをやめて目の前の楽しみに集中する事にした。
 ともかく二人はホテルに入った。

 夕食後、ホテルの一室。

「まさか、フェイがこんな素敵な部屋を予約していたなんて」
 シェリエは驚いたようにフェイが事前に予約していた見晴らしの良い個室を見渡した。
「あぁ、この部屋は今日の目玉をお披露目するに肝心なのだ」
 フェイは喜ぶシェリエの姿に満足しながらも目的は忘れない。何もかもこの後にあるイベントのための布石なのだ。
 二人はのんびりと寛ぎ始めた。ただし、フェイだけは妙に時間を気にしていたり。

 部屋に入りどれくらいか時間が経ってから
「シェリエ、こっちに来てくれないか」
 フェイは何気なく窓の前に立ち、手招きをして恋人を呼んだ。そうこれからだ。フェイのとっておきが始まるのは。
「何かあるの?」
 何も知らないシェリエはただ恋人が呼んでいるからという軽い感じで窓辺へ。
 そして、窓辺に立った途端、
「うわぁ、綺麗」
 目の前には夜空を彩る美しい光の花が咲き誇っていた。
「今日は空京で花火競技大会があったんだ。夏も終わるのに二人で花火を見てなかったから、どうしても見たかったんだ」
 フェイも花火を見た。
 その横顔を見るやいなや
「もしかしてこれがとっておき?」
 シェリエはとっておきの内容を察して嬉しそうな顔になった。
「あぁ、そうだ。シェリエをびっくりさせたくて黙っていたんだ」
 フェイはこくりと頷いた。
「そうなの。ありがとう、フェイ!」
 シェリエはぱぁと表情を輝かせてお礼を言った。
 それからすぐに二人は花火鑑賞を始めた。

「……本当に綺麗」
 シェリエは花火が上がる度に歓声を上げて存分に夏最後の今日を楽しんでいた。
 しかし
「そうだな(……何とかサプライズは成功したが、まだ私の『本番』はこれからだ。それにしても……)」
 隣のフェイはそれどころではなかった。
「……(やっぱり、シェリエは綺麗だな。花火よりもずっと……)」
 何せ花火よりも美しいものが隣にいてついそちらに、シェリエの方に目が行きその度に鼓動が高くなってしまう。
 そんなフェイの胸中を知る由も無く
「さっきの花火も良かったけど、この花火も綺麗ね」
 シェリエは花火を楽しんでいた。
 そうこうしている内にあっという間に花火競技大会は終わった。

 花火競技大会終了後。
「……もう、これで夏は終わりなのね」
 シェリエは元の静かな夜空をもの悲しそうに見ていた。華やかで賑やかな花火を見たためか余計に。
 その時突然、
「!?」
 ふわりと自分を包み込む温かな感触に驚き、
「フェイ? どうしたの?」
 戸惑いながら恋人を見上げた。
「……シェリエ、今日は楽しんでくれた?(こんなに近くにシェリエがいる。心臓が痛いほど高鳴って、すごく緊張する。でも今日こそはと決めていたんだ。退くわけにはいかない)」
 フェイは恋人を後ろから抱き締めたまま今日の感想を訊ねた。胸中では心臓がとんでもない程に早鐘を打っていた。
「えぇ、すごく」
 シェリエは興奮気味に感想を口にした。
「それはよかった。私は花火よりももっと綺麗なものがあったからそっちに目がいってたかな?」
 フェイは悪戯っぽく言った。
「それは……」
 シェリエが訊ねる言葉を言い切るよりも先に
「シェリエの喜んでる顔。あまりに綺麗すぎて花火が霞んじゃった」
 フェイは高鳴る心臓と凄まじい緊張に耐えながら自分の気持ちを口にした。
 それを聞いたシェリエは
「……フェイったら。でも嬉しい。ここ最近のフェイ、どこかおかしかったから、もしかしてワタシの事が……」
 恥ずかしそうに顔を染めながらも喜んだ。ついでにフェイの異変に感じた不安も洩らすが、
「シェリエ、こっちを見てくれ」
 フェイの覚悟を決めた凛とした言葉に遮られ霧散し
「?」
 言われるままシェリエと向き合った。
「ひとつお願いがあるんだ」
 自分と向かい合わせになった誰よりも愛する人の顔を見つめ、
「今晩は、もう私だけを見て欲しいんだ。私も、シェリエしか見ないから」
 シェリエが口にしようとした言葉の答えとした。
「……」
 真剣そのもののフェイの顔を見て最近何が起きたのかは分からないが発した言葉は本当であると読み取りシェリエは静かに頷いた。
 それを見るやいなや
「……シェリエ」
 フェイは意を決してシェリエの唇にキスをする。最初はゆっくり啄むように、そして徐々に深めていく。
 キスの度にシェリエを求める気持ちが昂ぶり、
「……(シェリエ……私の一番愛する人……)」
 行動でそれを実行に移した。先の展開へと。
 一方のシェリエもまた
「……(……フェイ)」
 拒む事無くフェイに導かれるままであった。
 そして互いに
「……シェリエ、愛してる」
「……ワタシもフェイを愛してる」
 相手に愛を囁いた。

 恋人達の夏最後の一日はまだ続いた。

 フェイが夢札で見た夢と似てるようで違う状況ではあったが、伝えたい想いは変わらない。誰よりもシェリエを愛しているという思いは……。