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【祓魔師】アナザーワールド 1

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【祓魔師】アナザーワールド 1

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第1章 20年後のイルミンスール Story1
 時の魔術により捻じ曲げられた20年後の未来は、茂っていた木々が枯れかけ、大地も荒廃しかかっていた。
 いつ、食料や飲み水の奪い合いが起こってもおかしくない状況。
 人々を飢餓に追い詰めて争いごとを起こさせ、彼らの心を醜く穢してやろうというサリエルの狙いなのだろう。
 過去から転送された祓魔師たちは幸い、時の操作の影響を受けなかったが…。
 だが、魔法学校の好調であるエリザベートの時は狂わされ、毎年赤ん坊のような年に戻されてしまっていた。
 封魔術を行っていた広間でおこった出来事などは覚えているものの、幼い身体では時の魔性に対抗する術はない。
 全ては彼らに託すしかない…。
「みなちゃん。いま、くりすたろすではぁ、あのかえるたんたちがあばれちぇるようでし!いちど、みなちゃんがおとなしくさせたはずでちゅよねぇ?きっと、だれかがそそのかしたにちがいありまちぇんっ。いそいでくりすたろすに、ゆくのでちゅーーー!」
 水の都クリスタロスへ向かうよう、祓魔師たちにエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が指示を出す。
「ねぇエリザベート、ちょっといい?」
「はぁい、なんでちゅかルカルカたん」
「ルカたちは祭りの広場にいたから、直接サリエルには顔を見られてないけど。ディアボロスが姿とか…相手に教えてしまっていると思うの」
 ディアボロスに姿・顔を知られているのだから、当然サリエルにも伝わっているはず。
 そう考えたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、変装用の服を貸してもらえないか頼む。
「ほむほむ。それですぐばれないようにってことでしゅか?」
「町の人と同じような服なら即バレしにくいかなーってね」
「なるほどでちゅねぇ〜、わかりまちたぁ」
 現場へ向かう者たちのために机の柱へよじ登り、小さな指で校長室のパソコンのキーを打つ。
「おいおい、ただの布ばっかりだな?」
「当たり前じゃないの、カルキ。一般人の服なんだから布ファッションオンリーよ」
「へ?いやいや、大抵は布地だって。特殊な格好がなくたって、布は布だぞ!?」
 “ほとんどの人の服装が、布ファッションになっちまうだろ”などと声を上げた。
「ほえ…?そーだった!まー、細かいことはいいじゃないの♪」
 へらっと笑う長年苦楽を共にしたパートナの姿に、“おいおい、こんな調子でクリスタロスにのりこんで大丈夫か?”と心の中で呟いた。



「オメガさんはここでエリザベート校長のお世話をしているのかい?」
 魔法学校に残ってエリザベートの世話をするのかとエースが聞く。
「はい…。皆さん、お忙しいでしょうし、幼い身体ではなにかと大変でしょうから」
「なら、オイラもお世話手伝うよ!」
 同じ子供なら何をして欲しいかとか分かるもん♪とクマラは子守の手伝いをしようと手を挙げた。
「え、この学校で…ということですか?」
「あーそっか。どうするかにゃ、エース」
「タイムコントロールで校長を元の年に戻せないかな…と。そうすれば、敵の意表をつけるんじゃないかなってな」
 校長に同行してもらえれば、先手をうてるのではとエースがいう。
「―…む、たわけが!」
 支度を終えたダンダリオンが会話を耳にし、エースに向かって怒鳴った。
「これは普通の魔法とは違うのだから、元の姿に戻すなど容易ではない。戻させたとしても一瞬だろう。幼い身を危険地帯に晒すようなマネは許さんぞ」
「ん〜、何か見つけた時に指示をもらう程度ならどうかな?」
「うーむ…。サリエルたちとの遭遇は直接さけたほうがよい。その身体では器として狙われる可能性は低いだろうが、なにかあってからでは手遅れだ」
「校長が捕まってしまうこともありえるか…。うん、やつらとなるべく遭遇しないようにするよ。万が一、逆に発見されてしまったら俺から連絡させてもらう」
「こちらの状況もあるが、それは考えずほうれんそうを怠るな」
 “約束せよ”と抱えているスペルブックをエースに向ける。
「あぁ、その時は頼むよ」
 無愛想な態度の少女に対してエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は紳士らしく笑顔を崩さず頷いた。
「むむ。めーるが!ルカルカたん、およーふくががっこーにとどいたらしいでし〜。せいもんのほうに、にもちゅをとりにいってくだちゃい」
 魔法学校の生徒が荷物を受け取ったらしく、校長であるエリザベートの携帯に“お荷物が届きました!”とメールが届いた。
「はーい、ありがとうね♪」
 ルカルカは一言そう礼を言うとパートナーたちと正門へ駆けていった。
「校長、俺も提案があるのだけどいいかい?」
「なんでしゅか、くりすとふぁーたん」
「未来の祓魔師に自分たちが観念的な保証人のようなものになることで、自分たちのランクから何段階か下でのエクソシストの力を行使できるように支援はできないだろうか?」
「んん〜。あのまどーぐは、もうないんでちゅ。あったとしても、みなちゃんがつかっているまどうぐのほうが、あつかいがむずかしーので〜。かれらではきびしーかとぉ」
 本来の威力を発揮できる魔道具はこの時代にはなく、また指南する時間もないとかぶりを振る。
 訓練ではなく今回の任務として赴くにも彼らでは実力が不十分で、これほどまでに大地の荒廃が進んでしまっているのは、そのせいもあったのだ。
「ひとでがたりなくちぇ、きびちーこともたくさんあるとおもいまちゅが。みなたんにがんばってもらうしかないんでちゅ」
 自分がこんな姿でなければと心苦しく思いながらクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)に言う。
「エクシストとしての力は使えるけど、彼らでは無理があるということなのか」
 最悪の場合、ミイラ取りがミイラになるようなことになりかねないか…と納得する。
 無用に怪我人などが増えるだけなら協力を頼むのは厳しいようだ。
「ボクもそろそろ行かないと…」
「あぁ、分かった。皆が待っているからな…。では、行ってくるよ」
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)に肩を突っつかれ急ぎクリスタロスへ向った。
 任務に赴いていく2人にエリザベートは“いってらっちゃーいでちゅー!”と両手をぶんぶん振った。



「祓魔術の成功のおかげでしょうか?テスタメントたちは年の影響は受けていないようなのです」
 老化や若年化の姿でなく、20年という歳月の影響もないことにテスタメントは首を傾げた。
「判ったわ。穢れた未来だからわたくしの胸がこんなことに!サリエル許すまじ!」
「いえ、聞いていましたか?皆さんも20年後の状態ではないのですよ。まよまよの胸のサイズは過去とかわらなくって当たり前かと」
「な…そうだったの。ふふーん、未来のわたくしはきっと素晴らしくなっているはずね」
 テスタメントにも自慢できる胸になっているはずだという。
「って、まよまよって呼ばないでちょうだい!しかも、なんで下のやつらからタメ口きかれてんのよ、わたくしだけーっ」
「そ、それはしらないですよーっ!?」
 頭をぐりぐりと八つ当たりされ、逃れようとじたばた抵抗する。
「あ、そうそう。ここの生徒さんから祓魔に携わった者たちのアルバムを貸してもらいましたよ。ほら、これが20年後の姿だそうです」
「へー、どれどれ…。むっ…ちょっと、なんでよ!成長してないじゃないのっ」
 特別訓練教室の棚に保管されていたアルバムの写真をバンバン叩き、怒りの声を上げた。
「何それ、私も見たい!ふむふむ…、大人の女…って感じになってるわね。服装からして、教導団は所属のままのようね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が横からアルバムを覗き込む。
「私の未来の姿、なかなかじゃないの。セレアナもかわらず綺麗だし?」
「はぁ、セレン。うっとりしている場合じゃないわよ」
「ま、突然20年先にとばされた年になってるなんてのはいやだけどね」
「ていうか最悪の場合、お年寄りか子供のにされていたわよね」
 サリエルの能力を封印できなかったとしたら、未来に転送された先では“よちよち”か“よたよた”していたかもしれない。
 杖ついて任務なんて想像したくもないと、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がかぶりをふった。
「ちっちゃいセレアナ…見てみたい気もするかも」
「な…、ちょっとセレン!こんな時にっ」
 冗談めかして言う恋人に対して声を上げると…。
「アンタたち、何そこで遊んでいるの?」
 きゃあきゃあ騒いでいるところをグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)に目撃されてしまった。
「んもぅ。早くいくわよセレン」
 無駄口ばかり叩いていると出遅れてしまいそうだと、恋人を肘でつっつき急ぎ出向するように促す。
「べ、別に遊んでるわけじゃっ」
 慌ててかぶりを振り、遊んでなんかいないなどと言ったその時。
 “まよまよ!”と魔法学校の生徒の声が聞こえた。
 耳障りな呼び名にムスッと不機嫌になる。
「あなたたち、その呼び名やめてくれない!?」
「えー、いつも呼ばせてくれてたのに。なんか機嫌が悪いわけ?」
「あ、当たり前よっ。だいたい…」
「グラルダさんもいらっしゃったんですね。いやぁ、いつも忙しくて会えないから今日はラッキだなぁ」
 怒鳴る彼女を言葉を遮り、視界に入ったグラルダへ寄る。
「そ…その、なんかいつもと違って、すごく若く見えますね。あっ、女の人にこんな言い方するのは失礼でしたか・・・」
「いえ?別に…構わないけど」
 かしこまった言い方をする生徒に対し、不思議そうに首をかしげる。
 …が、これは未来の自分に対することなのだろうとすぐに理解した。
「こ、今度…お暇でしたら、本の魔道具をうまく使うコツを教えてもらえないでしょうか」
「悪いけど、ちゃんと約束はできないわ。でもまぁ、時間があれば…ね」
 全て上手く解決したらこの時代にはもういないだろう。
 それに未来の自分は今どこで何をしているかすら分からないため、約束らしき言葉は与えなかった。
「アンタ、なぜそんなに緊張しているの?」
「そ、そりゃ、グラルダさんが……とてもキレイだから。い、いえ、なんでもありません!では、お忙しいところ失礼しましたっ」
 かっと赤くなった生徒は、スペルブックを抱えて走りさっていく。
「なんというか、もの好きもいたもんですね。いくら面倒見がよく見たとしても、その無愛想な態度でこんなに慕われているとは予想外にもほどがあります」
 意外を通り越したファンの多さに唖然とし、つい皮肉にも似た言葉を口にしてしまった。
「無礼すぎるわよ、シィシャ」
「ほんの冗談です。ふむ、これは未来の私たちが、全員写っているのでしょうか?人数が足りないような…」
「そりゃ写真が苦手な人もいるのだから当たり前よ。ん、クリストファーがいないわね」
「クリスティーさんもいらっしゃらないようですが…」
 2人は非社交的ではなかったはず、と不思議そうに小首を傾げた。
「―…と、今は考えている暇はないわね。アタシたちも行くわよ」
「はい、了解です」
 いつもの如く無表情に頷きグラルダに付き従う。
「セレンもそればっかり見てないで」
「仕方ないわね。後で見ようっと」
 アルバムを手放さそうとしないセレンフィリティも恋人に促され、棚に戻して教室から出て行った。