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第五章
葦原納涼酒宴

 今回のお祭りは諸事情につき、酒及びアルコール飲料は持ち込みを禁止している。
 というのも、以前開いた飲み会で大量のウォッカが混じり、一部の参加者とハイナたちが暴走。色々なモノを破壊し、数人が病院送りになったことがある。その事件を反省し、お祭りのときはジュースでやろうと決めた。

「せっかくのお祭りなのに酒禁止? 関係ないね! 私は飲むし、飲ませるよ!」
 そんな中、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は堂々と会場に酒を持ち込んだ。明倫館の入り口や屋台行列の各所に警備がいたはずだが、どうやってすり抜けたかは彼女らのみぞ知る。そもそもすり抜けたのではないのかもしれない。

 透乃をはじめとする契約者たちは、花火が良く見える、或る場所を見つけて占領し、仲間内で酒を煽っていた。
 何しろ、今日はめでたいことが多い。
 まずはここにいるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が今年で二十歳になる。ついに成人となった。
 さらにそこにいる緒方 太壱(おがた・たいち)のパートナー、緒方 樹(おがた・いつき)が産気づき、ただ今病院にて医師で夫の緒方 章(おがた・あきら)が緊急手術を行っている。母体も胎児も良好なので、安全な出産となりそうだ。
 あとは本日不在だが、諸事情で離れていた彼らの友人が葦原に帰還した。
 加えて今日はお祭り。久しぶりに集まった仲間たちのテンションは青天井というもの。

「マスター。私、この度の納涼祭にて皆様方とお会いする機会が出来て良かったです!」
 フレンディスはパートナーのベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)ににっこりと笑って言った。
「透乃さんたちともご無沙汰でしたし、本日は存分に楽しみたく思います!」
「祝い事が多いのは有り難ぇ話だが……面子的にイヤな予感しかしねぇぞ」
 後半はぽつりとつぶやくように言った。
「なあ、ベルクさん!」
 と、太壱が『世界樹の雫』とビンに銘打たれた酒を注いできた。
「フレンディスさんのこと好きなんだろ? 一線超えろこんにゃろう!」
「酒の力を借りろってか! すげえ積極的に酒注いでくるな、太壱。そういうお前だって思い人いるんだろ?」
「……え?」
 と、こんな具合で太壱とベルクが互いにつつきつつかれ、酒を注ぎ合っていた。
「あははは、やはりお二人とも仲がよろしいですね! ところで、そのお酒って、いったいかような味なのでしょう」
「む、興味ある?」
 と、透乃がフレンディスの後半の言葉をきっちり聞いた。
 フレンディスは超感覚の、犬のようなの耳と尾を全力で動かした。金色のふさふさがぶんぶん回っている。
 にやり、と透乃は笑った。
「フレちゃん、今年ついに二十歳になったんだから、酒デビューもしっかりやりたいわね」
 そういうと、持参した酒の中から『ハロウィンのパンダ鮭』を取った。新しいグラスを出してきて、なみなみと注ぐ。お酒という、透明な未知の液体が溜まっていくグラスを見て、フレンディスの目がキラキラ輝いた。
「ん……では私からも」
 透乃のパートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)も物静かな女性なのだが酒を持参している。
「私は私で、メインをそろえてきました」
 陽子が出してきたのは、いくつかのワイン。それぞれをワイングラスに注いで、フレンディスの前に置いた。
「さ、好きなの飲んでみてください」
「で、では……まずはこの赤ワインなるものを!」
 そして、豪快にぐいっと一気に飲んだ。

「イヤあの……すんません皆さん、親父の名代で参加した身で悪いんですけどさ……何でみんなウワバミ何スか!?」
 と、太壱が突然、空になった酒ビンを掴んで叫んだ。
「持って来た『世界樹の雫』、もうスッカラカンッスよ!」
「何言ってんのよ、太壱ちゃんが飲まなさすぎなのよ。ほら、めでたい宴なんだからもっと飲みなさい! フレちゃんのように!」
「……フレイ!? 大丈夫か!? こないだ飲んだ、酔った気分になれるジュースで気分悪くしてただろ!」
「……ふあい?」
「顔真っ赤じゃねえか!」
 フレンディスの前には空になったいくつかのグラス。そして陽子の手には、半分ほど減ったワインのビンが握られている。
「赤ワインがお好きなようです」
「後でいい! その報告!」
「おおお〜、ますたぁがぐにゃってなっているのです。ふひゃひゃひゃ!」
 そしてそのままひっくり返った。
「フレイ―!!」
「ほら、太壱ちゃんも飲みな!」
「俺そんな呑めねぇっす、だから絡まないで呑ませないで俺死ぬからーっ!」
 こんな感じで酒を飲まされ続けて、若干足元がおぼつかなくなってきた。

 ややあって、からかい気味に透乃が酒ビンでラッパ飲みをぐいぐい進めてきた時、新たな男の声が割って入ってきた。
「太壱君、酒は飲んでも呑まれるな、だよー?」
 緒方 章がどこか幸せそうな雰囲気を纏って現れた。
「お、親父? 何でここにいるんだ?」
「倒れている場合じゃありませんよ。皆さん、無事産まれました! 双子です!」
「ホントか!?」
「はい、君の妹と弟です。樹も無事で、もうすぐ電話かメールかが皆に来ると思います。名前は未来と同じように付けますよ。早速ですが私は報告に行ってきます」
「はい、俺も一緒に報告に行きます!」

■■■

 現在、ハイナは太鼓を少し休憩するため、やぐらを下りていた。
 そのまま校庭のわきに赤い敷物を敷いて座る葦原 房姫のもとに行き、赤い唐傘の下に座って、差し出された緑茶をぐいぐい飲んでいた。
「ハイナ校長、折り入ってお話ししたいことが御座います」
「お、突然改まって、何事でありんすか?」
 ざん、と太壱と章は、二人が座る赤い敷物の前で正座をした。
 ふだん、目つきが細い章の目が、すうっと大きく開いた。
「本日酉の刻中頃、我が妻樹が、女児と男児の双子を出産したことをご報告致します」
「なんと! 今日でありんすか! そいつぁめでたいでありんすな!」
「ありがとございます。つきましては、わが子達の名前に使う漢字をハイナ校長に決めて頂きたいと存じます」
「……漢字を? わっちが?」
「はい。読みはもう決まっているのです。女児は『ニチカ』、男児は『ミサキ』です。こちらに控えている彼、未来人である我が息子、太壱の弟と妹が、そう呼ばれていたので、それにちなんで付けたいのです。 お願いできますでしょうか?」
「未来人?」
「あ、はい! 何かややっこしい話なんですけど、俺は親父とお袋の息子で、俺が居た未来には、弟と妹がいて……んで、今日生まれたのも俺の妹と弟になるんです。頼んます、読みに合う漢字を選んでください!」
「ハイナ、良いではありませんか。彼らのために、素敵な字を選んであげてください」
 と、房姫にまで頼まれ、ハイナはあぐらをかいて、腕を組んだ。

 そのままの姿勢で、十分も経過しただろうか。
 ハイナは、至極真面目な表情で、紙と筆を取り出した。

 ――弐千華
 ――三咲

「……奥さんの名前、樹、でありんしたな。樹にもちなんで、華を咲かせたでありんす。こんな具合でいかがでありんすか?」
 二人はその文字に何を思ったのか。
 それは、彼らのみぞ知る。

 その後、太壱は誕生祝いに章が持って来た日本酒を差し出すと、今回の禁に触れていることで房姫とともに叱責を受けたが、今回はめでたいことだということで笑顔で受け取ってくれた。

■■■

 その後、飲み会では出産を終えた樹からベルクに対して『腹をくくれ、黒いの』とか、フレンディスに対して『忍び娘、次はお前が頑張るといい』とか意味深なメールが届き、合流した章が幸せそうに双子の写真を見せびらかては『愛してる!!』とか、名前を大声で叫んだりと惚気全開で暴走し、カオスなまま明け方まで続いた。

 その間、警備の人が一切通りがからなかったのは、ハイナと房姫が密かに、特別に配慮を図ったからであるとか、ないとか。