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リアクション
朝。
「賑やかな音楽、踊る人、舞い降る秋、美味しい匂い、もう堪らないね」
芦原 郁乃(あはら・いくの)は広がる光景を目にしすごい良い顔。
「このお祭りの雰囲気、ワクワクした空気、にぎやかな喧騒にいれば、しょうがない、だってそれが『わたし』なんだもん……ね、そう思わない?」
祭りの空気にやられてテンション最高潮を自覚する郁乃は隣を振り返った。
「そうですね。このお祭り特有のなんともいえない賑やかで、陽気で、幸せな空気、何か盛り上がっちゃいますよね(何よりお姉ちゃんが楽しそうだと私も楽しい)」
隣に立つ荀 灌(じゅん・かん)も祭りに当てられすっかりテンションは上昇し天井知らず。
その時、オカリナの音色と観衆達の声が耳に入って来た。
「早速、荀灌、あっちいってみよう!」
盛り上がりたくてウズウズが止まらない郁乃は荀灌の腕を掴み、音が聞こえる方向を示した。
「はいです! 行くです!」
荀灌はノリノリで共に郁乃と共に賑やかな現場へ。
行った先ではオカリナの音色に乗せて素敵な躍りを披露する者がいた。
それが終わるなり少しの間を置いてしっとりとした曲が流れ始めた。
しっとりとした曲が流れた後。
「お姉ちゃん、ワルツを踊ろう!」
「踊ろ! 踊ろ!」
荀灌と郁乃は手を取り合い、軽やかなステップでワルツを踊り出した。
踊りながら
「……降り注ぐ葉っぱと黄金色の光、何か目をつぶれば……まるでダンスホールで踊ってるみたいです」
荀灌は軽く目を閉じ、音楽だけでなく想像でも楽しむ。
「本当だねぇ」
郁乃は可愛らしく想像する様子の荀灌を見てクスリと笑みながら上手に荀灌をリードしていた。
しばらくはしっとりが続いたがそれが終われば陽気な音楽が鳴り始めた。祭りを彩る音色は同じ一曲ではなく様々な曲が流れ、時には音楽を一休みとして参加者が彩る事もあったり。
「しっとりもいいけど、陽気なのもいいよね。テンションがもっともっと高くなって」
「そうですね。心がますますウキウキしますね」
郁乃と荀灌は先程とは打って変わって心躍りながら陽気に踊った。
散々踊りを楽しんだ末にいつの間にかお昼時となり
「何の匂いかな? 行ってみよっか?」
どこからともなく香ばしい美味しそうな匂いが郁乃の鼻をくすぐり、自然と足はそちらに向かってしまう。
「お姉ちゃん、どこに行くですか?」
置いて行かれまいと荀灌が急いで郁乃の後を付いて行く。
そして辿り着いたのは
「民族料理にみんなに馴染みの料理があるぞ」
「お昼時の今、少し食べて行けよ」
双子が宣伝するセレンスの店だった。面白そうという興味で手伝っているのだ。
「へぇ、民族料理かぁ。ちょっと気になるかも」
「……変わった料理が出て来るのでしょうか」
郁乃と荀灌は興味を引かれ、来店し
「いらっしゃいませ!」
ウェイターのセレンスが迎える中適当な席に腰を下ろした。
席に着いた後。
「やっぱり、呼び込みしていた民族料理だよね」
「それじゃ、お姉ちゃん、民族料理にしましょう」
郁乃はレーヴァン、荀灌はガル族の民族料理に決めた。
すぐに女双子の一人が注文伺いに現れ、郁乃達の注文を受け付けてから料理担当の元に伝えに行った。
しばらくして、料理が運ばれ
「……独特な味だけど悪くないね」
「……美味しいです」
郁乃と荀灌はそれぞれ注文した料理を楽しんだ。
その時
「美味しいか、それは良かった。そのガル族の料理は妹が作った物だ」
義妹の料理の腕を自慢したいウッドが現れ、予定通り自慢。『調理』を有するブランチェの料理はウッドが自慢するように美味しい。
「はい、とても美味しいです」
荀灌はニコニコと料理の感想を口にしたところで
「お兄ちゃん、何してるの? 早く戻って来てよ」
ブランチェの呆れ気味の声。何せ自分の料理の注文が出る度に先程の事を繰り返すので。しかも忙しいというのに。
「あぁ、すぐに戻る」
ウッドはさっさと作業に戻って行った。
ウッドが去ってしばらく。
「ねぇ、荀灌、そっちの料理はどんな味? 一口頂戴」
自分が頼んだ料理を堪能した郁乃は荀灌の前にある料理も味わいたくなりあーんと口を開けておねだり。
「いいですよ」
そう言うなり荀灌は郁乃の口に料理を放り込んだ。
「ん〜、美味しい。お礼にこっちの料理もどうぞ」
郁乃はほわんと料理を楽しんでから自分が頼んだ物をお裾分けしようとすると
「あ、はいです」
慌てて荀灌は口を開けて放り込んで貰った。
そして
「ん〜、美味しいですぅ」
ホクホク顔に。
こうして和みながらも料理を楽しんだ郁乃達は店を出た。
店を出た後。
「荀灌、そっちのお菓子、半分頂戴。これ、半分あげるから」
「いいですよ」
郁乃と荀灌は店を出て屋台で購入したお菓子を半分こして食べ合いっこをして口内に広がる甘い味に幸せに。
「踊ったり食べたりして、お姉ちゃん、今すっごく楽しいです!」
荀灌がもごもごしながら満足そうに言うと
「うん、ほんと楽しいよね」
郁乃もお菓子を食べ景色を楽しみながらうなずいた。
「はい、私幸せです♪」
「そうだね、でもまだまだ足りないよ、もっともっと幸せにならなくっちゃね♪」
言葉通りの幸せそうな笑顔の荀灌に郁乃が茶目っ気たっぷりに言うなり
「……という事でまだお祭りは始まったばっかり、夜の花火までこのままいくよっ!!」
発見した美味しそうな店に向かって駆け出した。
「はいです! 負けないです」
荀灌も急いで追いかけた。祭りをたっぷりと堪能すべく。
時間は朝から昼になりあっという間に花火が打ち上げられる夜になる。
夜。
「荀灌、ほらほら、花火、花火」
打ち上がった花火を郁乃は隣の荀灌にも見て貰おうと急かす。
「はいです。綺麗ですねぇ」
急かされるまま荀灌は空を仰ぎ、光輝く花々に表情をゆるめた。
「荀灌、あそこのベンチに座ってゆっくり花火を見よう」
「そうですね」
立ってみるよりはと郁乃と荀灌は近くのベンチに座りゆっくりと秋の花火を堪能する事にした。
ベンチに座った後。
「……(食べたり飲んだり踊ったりそして花火……今日は本当に楽しいなぁ)」
「……(今日はお姉ちゃんと一緒に祭りを楽しめて良かったです。一人よりも誰かと一緒の方が祭りは楽しいですね)」
花火を見上げながら郁乃と荀灌はまだ今日は終わっていないが今日を振り返っていた。
そのまま花火を最後まで楽しむかと思いきや朝からハイテンションで行動していたためか
「……」
二人頭を寄せて、もたれかかって寝息をたて幸せそうな顔で寝込んでしまい最後の花火を見る事は出来なかった。
しばらくして
「……おーい、起きてますかー」
「起きていないみたいだな。だったら……」
少年達の声と頬をつつかれる感触に
「……ううぅん……」
郁乃と荀灌は目を覚まし、ぼんやりと目の前の三人を確認。
そこにいたのは
「げ、起きたのかよ」
「やっぱり、確認が必要だからって声をかけない方が良かったか」
祭り主催者の双子と
「眠っている相手に悪戯をしようとする方が悪いだろう(あっちの双子が帰っても世話が掛かるのは変わりないな)」
双子の悪戯を止めようとするロズであった。
「やばっ寝ちゃってた! ほら、荀灌、起きて」
はっきりと覚醒した郁乃は自分にもたれて寝込む荀灌を慌てて起こすと
「……ん……お姉ちゃん?」
瞼を擦りながらぼんやりと荀灌が目覚めた。
「お祭り終わったから帰るよ(あぁ、いつの間にか寝てたなんてしまらない最後になるなんて……折角楽しかったのに)」
早々にこの場を退散したい郁乃は立ち上がり荀灌の腕を引っ張って立つよう急かす。
「……お姉ちゃん……」
急かされるまま立ち上がった荀灌は郁乃に引っ張られながら会場を後にした。
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