校長室
そして、蒼空のフロンティアへ
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★ ★ ★ 「ほんと、今日は凄い人出だよね」 空京に買い物にやってきていた川村 詩亜(かわむら・しあ)が、人混みにちょっとヒーヒー言いながら商店街のメインストリートを歩いていました。 「あ、あのアクセサリー、可愛いよ!」 店頭ワゴンの大売り出しに、可愛いペンダントなどを見つけて、川村詩亜がそちらに駆け寄りました。 「ホントだ!」 一緒にいたミア・マロン(みあ・まろん)も、人をかき分けてそちらへと駆け寄りました。 「ねえねえ、これ……」 可愛い? っと聞こうとして、川村詩亜がはっとしました。しまった、さっきまでしっかりと繋いでいた川村 玲亜(かわむら・れあ)の手を放してしまいました。これは大ピンチです。きっと、迷子スキルが大発動しているに違いありません。 「あー、ホントだよね。可愛い♪」 ところがところが、川村詩亜の目の前にいた川村玲亜が、普通に返事をしてきました。 「えっ!?」 思わず、川村詩亜が、ミア・マロンと顔を見合わせます。 「ええっと……。そうかあ、なんだあ、中の人が一緒だったのね」 ちょっとホッとしたように、川村詩亜が言いました。 川村玲亜の中の人の奈落人の川村 玲亜(かわむら・れあ)は、外の人のように迷子属性がすべてではありません。大抵は、こういうときは入れ替わってくれているので、今までも何度も大事に到らないですんでいます。今回もきっとそう……。 「あーっ、目が青いまんまだから、普通に玲亜ちゃんだよ!」 驚いて、ミア・マロンが叫びます。 「あははは。そんなことは……なんですって!!」 驚いた川村詩亜がミア・マロンと一緒に、べたべたと川村玲亜の顔や身体を触って確かめました。もしかすると、よく似た違う生物が擬態して……本物でした。 「どうして……」 川村詩亜とミア・マロンが、声を揃えて愕然とします。今まで積みあげてきた認識が、一瞬にして崩れ去ってしまったかのようです。 「えっ、ワタシずっとここにいたのに……。なんでそんな目で見てるの? ミアちゃんまで……」 逆に、ちょっと面食らってしまった川村玲亜が、川村詩亜とミア・マロンに聞き返しました。 「酷いよ、私だってごくまれに迷子にならないことだってあるもん……」 『――自分からごくまれって言ってるじゃない……』 緊急事態に、川村玲亜の中の人である奈落人の川村玲亜が目覚めました。ああ、ややこしい。普段は川村玲亜の外の人にずっと憑依したままで眠っているのですが、何かあれば目覚めるようにしています。たとえば、川村玲亜の外の人が川村詩亜と物理接触を断った場合とか、視界から消えた場合とか、そういうときに表だって憑依するようにしていました。 ところが、今回は、チェンジするタイミングを感じないままだったわけです。 『――おかしい』 「おかしい……」 「おかしいよ……」 みんなに言われて、ちょっと納得のできない、ちょっと成長した川村玲亜なのでした。