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【祓魔師】アナザーワールド 2

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【祓魔師】アナザーワールド 2

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第12章 AfteWorld_個として存在する裏

 裏切り、絶望に堕ちた人の顔。
 それら全てがグレゴリーの心を満たしてくれる。
 しかし、今…それを壊そうとする者に襲われ、町のいたるところに身を隠し歩くことになっている。
「くそ、くそっ、何でこうも簡単に見つかるんだ!?」
 面白くなさそうに、洗面台の溜まった水を乱暴に叩く。
 水面が乱れ、自分の顔すら見えなくなった。
 カツ、カツンッ
 聞きなれない足音が自分の部屋の前に止まった。
 その時は何も気にならず興味もない。
 ―…が、すぐにそれは間違いだったと気づくことなる。
 ドアノブが回る音が聞こえ、隙間から侵入者の足が見えた。
 慌てて窓際へ隠れ身をし、じっと息を潜めた。
「うん…」
 相手は誰かと話しているのか一言そう言い、室内をうろうろと歩き出す。
 それは迷わず自分のほうへ近づき、ピタリと隠れているそこに足音が止まってしまう。
 侵入者は探すそぶりすら見せず、的確に自分の服に触れた。
 このままでは捕まる…。
 そう感じたグレゴリーは窓を破り、ホテルから飛び降りた。
「ちっ、あいつは警察犬か何かかよ!!」
 だが、それもすぐに否定するしかなかった。
 匂いも消しても見つかってしまい、追跡してくるのだ。
「まるであいつらみたいだな」
 火山で隠れていたところをすぐに発見され、追われてしまい森に墜落までしてしまった。
 忌々しい過去を思い出しつつ、まさか…と嫌な予感がした。
 それは半ば的中するかのように、現実となって現れた。
「―……みっ、み…つけた」
「くっ」
 長身の男に阻まれ、逃走するべく人ごみへ逃げる。
 しかし、それもすぐに見つかり…。
 人通りの少ないところへ無理やり引きづられていく。
「このやろう、離せ!」
 無茶苦茶に手を振り、彼の手から逃れるとミラージュの分身に紛れて逃走する。
 それもあっけなく失敗し、本体である自分へ目掛けて向ってくる。
「なんでだ、どうして分かるんだ!?」
「い、わない」
「だったらすぐ口を割りたくなるようにしてやろーか!?」
 六連ミサイルを放ち爆殺してやろうとするが…。
 土煙の中から再び顔を見せた男は、何事もなかったよに平然と立っていた。
 “何故、近距離で1発も当たらない?
 ミサイルの破片をサイコキネシスでも使って、心臓や頭をぶちぬいてやればいいか?
 いや、それも無駄…”
 この男には全てが見え、何もかも回避してしまう力があるのだ。
 そう解釈したグレゴリは、どう逃げようか思案したが何もよい考えは浮かばない。
 何やら男が片手を上げたかと思うと…。
 突然、背後から足音が迫り、何者かに羽交い絞めにされ、身体を拘束さえれてしまう。
「貴様…、仲間がいたのか?」
「う…ん」
「やっと、…やっと見つけたよ、メアリー」
「き、貴様はっ」
 耳慣れた声音に、はっとした彼はそこへ目を向けた。
 背から拘束されているせいでよく顔が見えなかったが、確かにあいつ…ニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)だった。
 メアリー・ノイジー(めありー・のいじー)を取り戻すために、こいつは仲間を連れて来たのだ。
「ふぅん。でも、俺としては…会いたくなかったけどな!」
 ニケの膝を蹴りつけ、彼の拘束を逃れるものの、縄が身体に絡みつき簀巻きにされてしまう。
 “どこからこんなものが?”
 けど、それを考えている暇はない。
 力いっぱい引き千切ろうとするが、びくともしなかった。
「な…何だこれは!?」
「えぇ、取れませんよ。そんな力だけでは…」
 冷静に言い放つ女の声を耳にし、顔を上げるとそれは何やら本を抱えていた。
「これは、魔性と呼ばれる者の中でも、邪悪な意思を持つ相手に対抗するものです」
「やっぱり祓魔師をつれてきたのかっ」
 この男に教えていたのは、おそらく結和の肩にいるロラだったのだろう。
 そう確信した時、すぐに居場所が目撃されたり、容易く攻撃をかわされたのも納得するしかなった。
「フンッ。術なんて永遠に持つものじゃないだろ?」
「―…そうですね。けど、それはどうでしょうね」
「はっ、……!!」
 術が解けのを待てば逃走するチャンスが巡ってくるはず。
 そう思ったが甘かった。
 ニケのワイヤークローに締め付けられ、もはや指1本動かすことができなかったのだ。
「ご苦労様でした、エメリヤン」
 にっこりと労いの言葉をかけると、嬉しそうにエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が微笑み返した。
「グレゴリーだったけ。君は確かに存在している…」
「当たり前だ!これは、もう俺の体なんだからさ。ククッ」
「けど、それは君のじゃない」
「ねぇ…離してくれたら返してあげようか?」
「もう、逃がさない…逃がすわけがないだろう!!」
 そんなものメアリーの体を使って逃げるための言葉に過ぎない。
 ワイヤーを握る手を強め、さらに締め付ける。
「チッ。そうだこれは俺の体だ!返すとか意味分からないな!」
「…あなた、自分の顔を鏡で見てみたらどうです?」
 結和から借りたコンパクトをグレゴリーの前に置き、しっかり見ろと視界に入れてやる。
「これは誰ですか?」
「誰…?俺……のはずだっ」
「いいえ、メアリーです。あなたじゃありません」
「う、嘘だ…」
 そんなことあるはずがない、あってたまるか。
「嫌だ、嫌だ嫌だ自由を失うのは!俺は、俺はまだ見たいものが…っ」
 手足をばたつかせ必死に抵抗するが、あるものが視界に入り、それもできなくなってしまう。
 それは、昨晩降った雨の水溜りだった。
 そこに移されている顔は、誰…。
 自分じゃない、誰か。
 身体の持ち主、メアリーそのものだった。
 自由が欲しかった。
 この世界で、たくさん見たいものがあった。
 だから俺は…。
 そう思考し続けたが突然、視界が暗くなるように意識が途絶え…。
「…ご…ごめ、ごめんな、さ…ごめ…」
 “グレゴリー”と名乗った男は別の声音を発する。
 それは、もう彼ではなく、身体の持ち主…メアリーのものだった。
 水溜りに後ろにいるニケの姿が映る。
 ニケが1人…2人…、自分自身の顔もいくつ増えて見えた。
「そうか、これは。『あたしの』涙か」
「おかえり、メアリー」
「ただいま…ニケ」
 久々にパートナーの声を聞き、安心したかのようにまた涙が零れた。
「あ、あの、グレゴリーさんは?」
「彼は…うん」
「一緒に生きるということはできないのでしょうか?」
「―…それは……」
 今までメアリーの体で許されないことをしてきた者を、簡単には許せない。
 けど、それは彼女が決めること。
「メアリー、あなたはどうしたい?」
「あ、あたしは」
 しばらく口を紡ぎ考え…。
「もう、悪さをしないなら。いろんなものを、一緒に見たりしていきたい…かな。ニケ…、だめ?」
「ううん。あなたが決めたことなら異論はないよ。その時は、私も連れて行ってほしいな」
「分かった。…皆と一緒にっ!」
 まだ完全に彼が許されたわけではないが、共に生きていける道だってある。
 これからの毎日の楽しくなりそう。
 ザンスカールの病院で療養中のマイシカ・ヤーデルード(まいしか・やーでるーど)には、後々ゆっくりと時間をかけてグレゴリーの口から話させよう…。
 またニケとも一緒にいられる、そう思うと嬉しくなり、彼の懐に抱きついた。