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リアクション
第16章 AfteWorld_5年後
元の世界へ戻り、その数年後…。
芦原長屋では、2人の夫婦が今日もひっきりなしにやってくる患者の対応に大忙しだった。
細やかな検査も行ったが、時間を操作された影響は特にないらしく、本来の未来へと進んでいるようだ。
「なんでこんな忙しいのかな」
特に影響がないのなら、もう少しゆっくりできるんじゃと思っていたが甘かった。
人気が出てしまえば、葦原以外からもやってくる。
「えーっと、今日はどうしました?」
「それが、子供が急に凶暴になったりするもので…」
「急に…ですか。では、1日預かりましょう」
たった1日でも入院扱いになるものだから…。
患者の親に“どこか悪いのでしょうか、何か重病とか?”などと言われる。
もはや耳慣れた言葉に対してやんわり理由をつけ、上手く預かれるようになってきた。
「ふぅ、やっと帰ってくれたね」
「また患者を扱ったのか?」
「うん。魔性憑きの可能性があってさ」
「ふむ。この顔色…、間違いない。かなり衰弱しているぞ、早めに処置を行わないとな」
「あ…電話だ。この番号…って」
またかとため息をつきながらも、しぶしぶ受話器を耳に当てた。
『ちょっと、もう聞いてよぉお!!』
「太壱君…また何かやらかしたのですか?」
窓を開けると見慣れた相手、レクイエムの姿があった。
「というか、来ているなら電話する必要あります?」
「アンタたちの息子、どうにかして!とりあえずぶっとばせとかないわよ〜っ」
「は〜…」
息子の相変わらずの様子に嘆息するしかなかった。
やれやれと責任者の1人である樹が太壱に電話をかける。
『お袋、ちょっと相談したいことがある』
「で、何をしている?」
『うん、今祓い中、ツェツェの結界の中。多分魔性だと思うんだけどさ、どうやってぶっ潰すかで迷い中なんだ』
「一回結界でぶっ飛ばしておけ、と小娘に伝えろ。良いな?」
『お袋ー!ツェツェの治療も済ん出るからってその言い方はなんだよー』
「バカ者、ぶっ飛ばされるのはお前だ!」
言っている意味を理解しない息子に怒り、ガチャッと乱暴に受話器を放り投げた。
数日後。
久々に葦原の我が家に遊びに来た太壱は…。
玄関先で母親の鉄拳をくらい、叱りつけられた。
何故、こっぴどく怒られなければならないのか分からず、混乱するばかりだった。
「理由も聞かず、いきなり魔性をぶっ飛ばすとは何事だ!」
「だ、だってさ…」
「交渉の余地のある相手もいるだろ。きちんと話しを聞け、仕置きするかはそれからだろうがっ」
「いや、だからっ」
家の中に入れてもらえず、玄関先に正座させられ永遠説教される。
「タイチ、また怒られてるの?」
「ツェツェ!」
「ちゃんとタイチのお母さんのこと聞かないからでしょ」
「そーよ。やたら攻撃するなって散々教わったのにねぇ」
レクイエムも説教に加わり、今までの怒りを全力でぶつけてやる。
「あ、エキノちゃん元気?」
「む?あぁ、今おやつを食べているところだ。小娘の分もあるぞ」
「やった♪ありがとう、タイチのお母さん。久々に、双子ちゃんの顔も見たかったのよね」
うきうきしながらセシリアが緒方家にあがりこむ。
「お、俺も…」
「アンタはまだよ」
「そうだ。話しが先だ、バカ息子!」
まだまだ説教は続き、ようやく終わった頃には…。
お菓子があったはずの皿はすっかり空っぽになってしまっていた。
夕飯時になり、今度はレクイエムの愚痴が始まった。
「ちょっと聞いてよん『おかーさま』。セシルがゴリマッチョのタイティ−?と祓魔師の仕事で学院の宿舎出てってから、一応アタシがご飯作ってるんだけど…」
「ほう、それで?」
飯のおかずがてら話を聞いてやろうと、卵焼きをつまみつつ言う。
「いちいちセシルのこと思い出して、溜息付くからもーうっとうしくってぇ!…あ、このお茶お代わりお願い」
「娘のことが心配なだけだろ」
くだらないといった様子で嘆息しながらも、お茶を淹れてやった。
「でね、見てよこのメール」
セシリアと太壱が席を外した頃合を見計らい、数日前に届いたメールを2人に見せた。
-お家に帰りたいよ…-
その後、緒方家の皆様、お元気ですか。
わたしとタイチは元気にしてます…というか、毎日依頼で忙しいです。
昨日もパラミタの一地方のもめ事を仲裁してきたところ、
やっぱり魔性が関係してました…全くもう面倒臭い。
今度は南の方に、奇怪な事件が起こったらしいので行って来ますね。
「免許片手に、仲良くイルミンスールの任務受けているのにねぇ。この愚痴は何かしら?のろけにしか思えないわよ、まったく」
任務で忙しいと言いつつ、観光地で土産物を見たりしているのだ。
疲れたと愚痴をこぼしながらも、実はしっかりと楽しんでいた。
「あらん、着信?」
メールを見せている途中で、着信音が聞こえてきた。
誰からだろうかと見ると、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)からだった。
どうせセシリアがいない愚痴でも聞かされるのだろうと察し、電源ごときってしまう。
「ゾディだったわ」
「出なくてよかったのか?」
「いーのよ。ゴリマッチョさんの葬り方でも聞かされそうだし」
娘が傍にいない寂しさもそうだが、その元凶である彼に対する怒りをぶつけてきそうだと思い、無視を決め込んだのだった。