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我を受け入れ、我を超えよ

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我を受け入れ、我を超えよ

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 居合の構えを取っている赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)と、抜き身の刀を持つ霜月が向かい合う。
 息ひとつ、汗ひとつつくのをためらうようなピンと張りつめた空気の中、先に動いたのは抜き身の刀を持つ方だった。

『言ったでしょう、情をなくして機械的にものを考え、敵を斬らねばと。そのためにはどんなものでも利用しなければならないのですよ』

 斬りつけてきたのを受け止める霜月。
 それを流し、距離を取る。

『戦うことを否定し、斬ることを嫌がっても、躊躇ってはならないのです』
「なるほど、これが自分か……予想はしてましたけど、矛盾の塊……大変ですね」

 否定し、嫌がっても、躊躇してはならない。それは相反するものである。
 矛盾を抱えていても、こうして向き合うまではそれを自覚する事は出来なかった。

「多分クコたちが見ていなければ、こういう行動に出てしまいそうですが……」

 ここにはいない妻のクコや家族のことを思い出す霜月。

『家族さえ無事ならそれでいい……そのためなら他人でも何でも利用する……それのなにがいけないのですか』
「確かに、一番『効率』はいいですが、それをしない。いや、したくないから自分はもっと強くなりたい……だから、こうしてあなたと向き合っているのですよ」

 ふぅと雑念を払うかのように息を吐きだし神経を尖らせる霜月。
 対する抜き身の刀を持つ霜月もそれを感じて刀を握りしめ直す。

「話しはこれくらいにしましょう。言葉ではなく、正面から正々堂々と自分の信じる居合で行かせてもらいます。よろしいですね、もう一人の自分」
『それがあなたの信じる道であるなら。手加減などせず、全力で行かせてもらいましょう』

 凛とした空気が流れ、刀と刀がぶつかり合う音が響く。

 抜き身の刀を振る霜月の動きはあくまでも機械的な範囲なのに対し、居合の霜月は抜刀術でそれを往なしつつ時を待っていた。
 片方が攻めればもう片方が防ぎ、防いだ方が攻めに転ずれば、攻めの方が今度は守りに転ずる。

 両者どちらも引かない刀のやり取りが続く。

 その終わりは霜月の滅殺の構えから抜かれた抜刀術をもって幕が引かれた。
 手にしていた抜き身の刀が手から離れ、離れた場所に突き刺さる。

「勝負ありですね」
『そのようです』

 刀を鞘に仕舞い、頭を下げる。
 戦いの道には時として、礼に始まり礼に終わる。

 下げていた頭を上げた時にはすでに部屋は元の教導団の部屋に戻っていた。



◇          ◇          ◇




 まるでナラカの世界にいるような雰囲気が作られた空間に立つ甲賀 三郎(こうが・さぶろう)
 闇から現れるようにして現れたもう一人の自分は、己が忌み嫌う超兵器イコン・PSを着ていた。

「なんでもう一人の我がかような超兵器を着ているのだ……」

 苦々しく吐き、睨みつける三郎。
 PSを着た三郎は他に腕にはウエアラブル機器が、手にはスマートフォンが、かけている眼鏡は腕のウェアラブル機器と連携された超演算機能が付いている、なんともハイテクな道具を身に着けていた。

 インテリ・ヤクザ改め、ハイテク・ヤクザ甲賀さんここに見参と言った風である。

「今時、イコンを超兵器と呼ぶ奴はいない。お前だって道具は使うだろ、クナイ、手裏剣、魔法にギフト、道具に恐怖を抱くな!! 振り回されると思うのならば使いこなせる腕を持て……ねじ伏せる胆力を示せ!」

 言葉と共にハイテク甲賀が威嚇してくる。

「言われなくとも、見せてやろうぞ!」

 アサシンブレード【無光剣】で攻める三郎。
 けして大ぶりの攻撃ではないのに、軽くかわして見せるハイテク甲賀。

 よく見ると、スマートフォンを持っていた手でウェアラブル機器を操作・演算を行い、三郎の攻撃を計算している。
 計算から導き出された位置を避ければ攻撃は当たらない。

『道具を使いこなせ。我のようにハイテクな機器すら使いこなせ。今のままだと、我にかすりもしないぞ』
「そんなもん、我はいらぬ!」

 アナログ対ハイテク。

 動きが読まれるているのならば、光学迷彩で姿を隠せばいけるかと仕掛けてみるが、それもあの眼鏡の前には叶わなかった。

 やはりアナログはハイテクに敵わないのかと見ている者がいたら感じたであろう。
 しかし、ここにいるのは第四師団臨時教員の情報局諜報部所属の少尉である。

 同じ自分であっても今までに培った経験は己には敵わない。
 ハイテクな機器たちはその誤差で徐々にズレが大きくなっていき、最終的には大きな敗因を生み出した。

「位置がバレていても、これならどうだ!」

 すでに破られてる光学迷彩をそのままに『我は射す光の閃刃』はいくつもの光の刃となってハイテク甲賀に差し迫る。

『な、エラーだと!? この演算で読み切れない事があるのか!?』

 光の刃はウェアラブル機器を、超演算器を破壊する。
 PSすら斬り裂きハイテク甲賀は地に倒れた。

「どうだ。我はこのようなハイテク機器が無くても勝つ事が出来るのだぞ」
『そのようだな。見事であった』

 ハイテク甲賀は闇に溶けるようにして消えていく。
 そしてこの闇も薄くなっていき、元の部屋に姿を戻した。