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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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第2章 眠りし女王 12

 それからまたしばらくは、平坦な道中が続いた。
 その最中、金鋭峰に話を持ちかけてきたのは叶 白竜(よう・ぱいろん)だった。
 慎重さが顔に滲み出ているような、無骨な男である。精悍な目鼻立ちに、顎には無精髭を生やしている。身体は服に包まれていて分からないが、恐らく鋼のように引き締まった肉体があるだろう。そんなことを感じさせる男だった。
 彼が団長と話していたのは、主に明日に控えたイコン戦闘のことだった。
 特殊なクリスタルが封じられた弾薬やナイフ等の近接武器がどれだけ用意されているかということ。イコン部隊の各種編成のこと。戦艦内のイコンへの搭乗手段等。
 多くのことを事前に確認している。
 クリスタルを使うのはどんな方法でも良いらしい。手段は問わない。とにかくインテグラルに多くのクリスタルを撃ち込むことが重要だという話だ。
「アムリアナ女王の力を得られれば、また未来との通信が回復するかもしれない。その時には、戦艦のオペレーター各員に向けて連絡を頼む」
「はっ……了解しました」
 白竜は恭しく答えて、書き記したメモをポケットに突っ込んだ。
 それと同時に、彼は横へと向き直った。そこにいたのは、世 羅儀(せい・らぎ)である。彼は口にペンを銜えて、この東京の地図を見下ろしているところだった。
「どうだった?」
「有益な話が聞けました。これで、明日の戦いも有利に進められるでしょう」
「そりゃあ、良かった」
 羅儀は笑いながらペンのキャップを外し、きゅっと地図に印をつけた。
「ちょうど、いまは地上のこの辺かな? 千代田区の真ん中にきちゃったんだねえ」
「すみません、地図を任せてしまって」
 白竜はあいにくと日本語が苦手だ。それに比べれば、羅儀は地図を読むぐらいは出来るようで、ルートの確認に一役買っていた。
「日本に住んでいたことがあるんですか?」
「うんにゃ。勘だよ勘」
 そう言って、どこか空白な笑みを浮かべる。白竜は羅儀のその言葉に必要以上の返答はせず、彼がルート確認をしてくれるのを、自分も地図を覚えるために一緒に行うに努めた。
 そして、彼らとの話を終えた金鋭峰団長は、距離を離して石原の近くに位置を取る。
 と――そんな彼に、タイミングを見計らっていたように話しかけてきたのは一人の娘だった。
「あ、あの……金団長……っ」
 意を決してという顔で娘は――董 蓮華(ただす・れんげ)は救急パックを片手に鋭峰の隣にやって来た。
「どうしたのだ?」
「その……団長の、傷の手当てをしようかと思って……」
 ぴくりと団長の眉が上がった。
 彼は皆には隠していたが、その腹部に軽い傷を負っていたのだ。蓮華はそれに気づいていたというわけである。もちろん、大した怪我ではない。それほど大きな怪我であったら、鋭峰とて治療に専念する必要があるのは分かっている。
「作戦活動に支障はない」
 そう言って、彼は蓮華の申し出を断ろうとした。
 だが――そのとき横から声を挟んだのは予想していなかった人物だった。
「そう言うでない。他人の好意は素直に受け取っておくものじゃぞ」
 石原肥満である。
 彼はそう言うと、鋭峰に断られて哀しげに瞳を揺らしていた蓮華を見やる。それから、皆に『ここいらで休憩にしよう』と告げた。
 確かに、ここまで歩き通しだったということもある。疲れが溜まっている人員もいることだし、休憩にするのは悪くない提案だった。まして、部隊の中心人物である肥満の提案であれば――鋭峰ですらそれに意見することは出来なかった。
「…………」
 諦めたように鋭峰はその場に座り込んだ。
「治療を、頼む」
「……は、はいっ……」
 蓮華はその傍に座り込み、嬉しそうに彼の手当に取りかかった。