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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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第3章 繋がる刻(とき) 1

 14日の夜のことだった。
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)はなかなか寝付けず、外に出て新鮮な空気を吸っていた。
 処は石原邸の庭である。日本家屋を思わせる中庭と縁側は、ここで花火でも見たら最高だろうな、とそんなことを思わせる雅な雰囲気がある。風呂に入ったことでぺたんとへたりついている黒髪の下で、アキラはあくびを噛み締めながら縁側に座り込んだ。
「なんじゃ、寝られんのか」
 背後からかかったのは、そんなからかうような女の声だった。
「緊張でもしておるのか? らしくないのぉ」
「……別にそんなんじゃねえよ」
 憮然とした顔で振り向いたアキラの目の前に、長い金髪を靡かせる女が立っていた。
 アキラのパートナーで、これまで度々の戦いをともにくぐり抜けてきた魔女――ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)である。
 老獪な口調をした魔女は、アキラの隣に腰をおろした。
「さて、話してみるといい。ん? お姉さんにどんと来いじゃ」
「誰がお姉さんだよ……まあいいや。なんかさ、目がさえちゃってさ。悪いイメージばかり頭をよぎっちゃってよ……」
「ふむ……悪いイメージばかりのぉ」
 ルシェイメアは繰り返しつぶやきながら熟考するように空を見たが、すぐに、その顔は愉快げに変わった。
「まあ、考えるなと言うのも無理な話かも知れぬが、いまさらじたばたしても仕方なかろう。ワシらは出来るだけのことを最大限に努力するだけじゃ」
「わかってるんだけどさ。なかなかそう上手くいかないもんだよ、これが」
「なんなら、ワシがよく眠れるようにおまじないをしてやろうか?」
「おまじない?」
 訝しげに眉を寄せたアキラは、ルシェイメアがくいくいっと指先を動かすのを見た。その指示に従って、彼はルシェイメアと向き合う。
「目を閉じて、少しかがめ」
「……こうか?」
 そのとき、ふいに訪れたのは額への生々しい感触だった。とろけるように柔らかな、とても暖かい感触――
「…………!! お、おいっ!」
「じゃあの。ワシはもう寝る。貴様も早く休むんじゃぞ」
 くすっと笑ったルシェイメアは立ち上がると、アキラに背を向けてパタパタと自分の寝床に戻っていってしまった。
「……余計に寝付けねーじゃねーか、コノヤロー」
 額を抑えながら、顔を真っ赤にしたアキラはその背中を見送りながらぼやいた。
 そして夜は更けていく。寝不足の不安を抱えながら。


 2022年。タイムワープを控えた戦艦の中――各操縦者のイコンが立ち並ぶ格納庫内で、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はインテグラ戦に向けた戦術の再確認を行っていた。
「おーい、あんたんとこの装備はこれで大丈夫か?」
 足場に乗ってイコンの整備をしている恭也の足下から、スタッフの声がかかった。整備用油と煤で顔を汚した青年は、それに振り返る。
「ああ、問題ない。そっちに積んどいてくれ」
 スタッフは恭也の指さした方角に、運んできたクリスタル装備を運び込んだ。また、今度は自分でそれをイコンに装備しなくてはならない。無論、スタッフの力は借りる予定だが――出来る限りは自分で整備しておきたいと思っていた。
「エグゼリカ、いまのうちに積めそうな装備だけでも頼んでいいか?」
 恭也は自分の横に向けてそう告げた。すると、イコンの影に隠れていたのか、一人の女が顔をのぞかせる。銀色の鮮やかな髪をポニーテールに束ねた、育ちの良いお嬢様のような雰囲気を感じさせる娘だった。
「はい、分かりました」
 エグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)――恭也のパートナーである機晶姫の娘である。彼女は抑揚のない声で素直にうなずくと、足場と隣接している作業用アームの操作卓に向かった。
 慣れた手つきで操作卓に指先が走ると、アームが動き出して運び込まれたクリスタル装備をイコンの腕や武器格納部位に積み込んでいく。一つの作業に時間がかかるため、彼女だけですべてを終わらせることは不可能だろうが……あとしばらくしたら、スタッフが総出で発進準備と整備を開始する。その時には、準備は万端になるはずだった。
「んー、どうにも役立ちそうな情報が少ねぇな」
「どうかしましたか、主?」
 細かい作業を終えて、今度は小型コンピュータを片手に首をもたげている主人に、機晶姫の娘は訝しげに声をかけた。
「いや、艦内のコンピュータに入ってるインテグラル情報を再確認してたんだけどな。やっぱり使えそうなものはねえや。圧倒的に情報量が少ないな」
「戦術はクリスタル装備で戦うことで間違いないのですよね?」
「つっても、それはインテグラルの力を弱らせるわけじゃないからな。あくまで封印のための手段に過ぎないんだ。それも、結構な量をぶち込まないといけないから……効率が悪いのなんの」
 恭也は頭を抱えてがしがしと髪をかいた。
「まあいいや。とりあえず、データは入れられるだけイコンのメインコンピュータに入れとく。あとはどうとでもなるだろ」
「……相変わらず計画性がありませんね」
「うっせぇ。これでも頭は使ってんだよ」
 呆れるような顔の機晶姫の指摘に、恭也は憮然とした顔になった。小型コンピュータとコクピットから伸ばしたコードを繋げて、データ移動を開始する。
 しばらくの間はそれで放置だ。
「さてと……どうなるかねぇ」
 明日には決戦。そのことを考えると、緊張と不安が身体を震わせる。しかし、確信めいたものもあった。絶対に負けないと――そう、信じている。
 恭也の瞳は、明日を見つめていた。