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リアクション
■ 久しぶりの里帰り ■
百合園女学院校長室。
書類に目を通している桜井 静香(さくらい・しずか)を手伝いながら、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はふと聞いてみた。
「静香さんは今年の夏は実家へ里帰りをするんですか?」
「実家かぁ……。ずっと帰ってないから里帰りしたいんだけど、余裕がないんだよね」
チェックし終えた書類にサインをすると、静香は次の書類に取りかかる。
「夏休みって生徒は完全に休みだけど、先生は授業が休みになるだけで、他の仕事はそのまま……どころかいつもより沢山あるんだよね」
そうなれば当然校長である静香も忙しい。
「でも、お盆とかの時期は実家に帰るのが日本での風習だと聞きました」
「うん。僕も帰りたいのは山々なんだけど……ねぇ」
静香は情け無さそうに机の上に積まれた書類を見た。
「かなりありますね……」
「いつになったら終わるのかなぁ、これ」
「次から次に来ますので、もしかしたら終わるどころか増える可能性も……」
「うわ、ここが書類に埋もれないように頑張ろう」
懸命に書類に取り組む静香をロザリンドはしばらく眺めていたが、1つ頷くと足早に校長室を出て行った。
それからロザリンドはラズィーヤや白百合会にもかけあって、静香のスケジュールを調整出来ないかと試みた。
手伝える部分はロザリンド自身も手伝うからと、なんとか数日だけ連続した空き時間を確保する。
「え、帰省の時間が取れたの?」
そのことを告げると、静香はまず驚き、それから嬉しそうな顔になった。
「実家に帰るのってほんとに久しぶりだよ。つい、学院のことが優先で、向こうは後回しになっちゃうから」
「きちんと帰ることも重要ですよ。たまにはご両親に会いまして、こちらでの出来事とか色々お話をしたりするといいと思います」
そう説くロザリンドに、静香は素直に同意する。
「うん、そうだね」
「良かったら帰省の手配や必要な雑用は私にお任せ下さい。静香さんにはその分、お仕事に専念していただくということで。……あ、それと……私も護衛兼荷物持ちで付いて行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんいいけど、荷物持ちなんてしなくてもいいよ」
出来れば普通に同行してくれた方がいいと静香は笑った。
そして当日。
静香は後は宜しくとラズィーヤたちに学院のことを頼み、ロザリンドと共に地球にある静香の実家に向かった。
「ここだよ」
ロザリンドを案内してきた静香は、やがてある門の前で足を止めた。
借金まみれの桜井家だけれど、外から見ている限りでは堂々たる豪邸だ。
瀟洒な門を入り、綺麗に手入れされた庭を通ってゆくと、明るい洋風の屋敷に着いた。
「ただいまぁ」
静香の声にお帰りと出てきたのは、優しそうな両親だった。
両親に問われるより先に、ロザリンドは丁寧に挨拶をした。
「桜井校長の学校で授業を受けています、ロザリンド・セリナと申します。今後ともよろしくお願いします」
「ようこそ。静香から話は聞いていますわ」
上がって頂戴とロザリンドを迎え入れてくれる母の面差しは、静香に良く似ている。
父の方も、人の良さそうな笑顔が静香を思わせた。
通された応接間には明るい日差しが差し込んでいた。
ロザリンドは静香の父母に、パラミタで静香がどのように校長として頑張っているのかを話したり、静香の小さい頃のことを尋ねたりした。
「静香は小さい頃からこんな感じだったよ」
「そうそう、女の子の服が好きで……あ、アルバムを持ってきましょうか」
「ちょっとお母さん……」
恥ずかしいよ、と言う静香を大丈夫大丈夫と宥めると、母はアルバムをテーブルに広げた。
「まあ、可愛らしいですね」
フリルやリボンたっぷりの子供服を着ている静香は、お人形のように可愛い。両親も静香に可愛い服を着せるのを楽しんでいたのか、アルバムに写っているだけでも相当な服の枚数だ。
おしゃまにスカートの裾をつまんでお辞儀をしていたり、大きな犬に顔をなめられて半泣き状態になっていたりと、アルバムをめくるたびに表れる静香の写真に、ロザリンドからは微笑が絶えない。
「桜井校長はとても素敵な方ですが、ご両親はどういった教育方針でお育てになったんでしょうか?」
興味を惹かれてロザリンドが聞いてみると、静香の母が答えてくれた。
「教育方針なんて大仰なものではないですけど、優しい、人の気持ちが分かる子になって欲しいと、育ててきたつもりですわ」
そう育ってくれていればいいという母に、ロザリンドは確信をこめて頷く。
「校長はそういう方になっていると思います」
「なんか、そういう話を目の前でされると……ものすごく照れるんだけど」
静香はほんのり頬を染め、恥ずかしそうに視線を天井に向けた。
ある程度、両親との会話を楽しんだ後、ロザリンドは静香の家を出た。
「近くのホテルに宿を取っていますので、何かありましたらご連絡を。急ぎ駆けつけますので」
「うちに泊まってくれてもいいのに」
客室をもう用意してあるんだという静香に、ロザリンドは笑顔で首を振る。
もちろんロザリンドだって静香と一緒に居られた方が嬉しい。けれど、なかなか帰って来られない実家なのだから、ここで優先すべきなのは静香に心おきなくゆっくりと家族との時間を味わってもらうことだろう。
それには家族ではない自分がここにいない方が良い。
そう判断したからこそ、ロザリンドは駆けつけられる距離にホテルを予約しておいたのだ。
「どうか家族の団らんを楽しんでください」
ロザリンドは静香と両親に一礼すると、桜井家を辞したのだった。
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