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白百合革命(第2回/全4回)

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第6章 鍾乳洞に向かった者

(なんか物騒な話になってきたわねー)
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、大荒野に訪れていた。
 彼女も康之たちと共に、エリュシオンから訪れた使者――晴海達から話を聞いていた。
 脱走兵が潜んでいそうな場所と言えば、やはり大荒野だろう。
(ダークレッドホールに関与しているとしても、ホールの方に隠れる場所はなさそうだし、焔狼盗賊団が遺体で発見された場所付近の鍾乳洞あたり……怪しいかしら)
 焔狼盗賊団の団員の一部は、ダークレッドホールに飛び込んだという。
 残りの団員も、大荒野の鍾乳洞付近で遺体で発見されたという噂をリナリエッタも耳にしていた。
「危ねえから、てめぇはここで待ってろ」
「ええ、今回は入るつもりはありません。ですが……」
 鍾乳洞の側で、いかにもなパラ実生と、ドラゴニュートの女性が話をしている。
「あれ?」
 リナリエッタは近づいて2人を確認する。
「こんなところで何してんの?」
 鍾乳洞の近くにいたのは、若葉分校の番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)と、白百合団員のアルファ・アンヴィル(あるふぁ・あんう゛ぃる)だった。
「なんか光が悪さして、この娘を危険な目に遭わせたらしいからなァ。その光の原因を見つけ出しに行くつもりだぜェ!」
「わたくしも、この鍾乳洞の秘密が気になっていまして、今は、外から調査を行っています」
 アルファはパートナーのハルミア・グラフトン(はるみあ・ぐらふとん)に家のことを任せ、引き続きこの場の調査を行っている。
「人の出入りなどあるかどうか……そうしましたら、吉永さんにまたお会いしまして」
 アルファは心配そうな目を、竜司に向ける。
「このイケメンに任せておけ! てめぇがここに残るってんなら、万が一の時には、水でもぶっかけてくれりゃあ、火は消せるしな!」
 竜司は自信満々な口調でそう言う。
(頭も良さそうじゃないし、イケメンでもないけど、なんか頼りになりそうだわあ)
 そう思って。
「私もちょっとこの鍾乳洞に用があってきたの。情報交換しない?」
 リナリエッタは2人に情報交換を持ちかける。
「この鍾乳洞を調べていましたら、奥で強くて心地良い光を感じ取りまして、意識を奪われてしまったようです」
 アルファは調査時の出来事について、白百合団に全て報告をしていた。リナリエッタの耳にも届いている。
「鍾乳洞から出てた後、炎の魔法を自分にかけたわたくしを、彼が助けてくださったのです」
 アルファがそう言うと、竜司が強く首を縦に振った。
「なるほど、魔法的な装置か、魔術師が奥にいるのかしらねー」
「で、てめえがここに来た理由は?」
 竜司がリナリエッタに尋ねた。
 リナリエッタは事前に、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に、どこまで百合園の仲間や事件関係者にテレパシーで伝えてもいいか確認をとってあった。
 許可を得た範囲で、決して公にはしないことを条件に、竜司とアルファにそれぞれテレパシーで情報を伝えていく。
 ダークレッドホールの事件に、古代のシャンバラとエリュシオンの戦争で使われた魔道書が絡んでいるらしい。
 エリュシオンの火の秘術書である『ヒュー』と、シャンバラの光と時空を操る魔道書が、ホール発生に関わっているかもしれない。
 光と時空を操る魔道書は、エリュシオンの第七龍騎士団に所属していた地球化兵と契約をしていたらしい。
 その地球化兵は龍騎士団を脱走しており、行方不明だという。
 地球化兵の殺害、魔道書の保護のために、エリュシオンの兵が動いていると思われる。
 ……リナリエッタは2人に概ねそのような内容のテレパシーを送った。
 既に、百合園で動いている円にテレパシーで送った内容でもある。
「で、その地球化兵が、ここに潜んでる可能性があるんじゃないかと思って、来たわけ」
「どうか、それなら準備万端ってわけだな……だがなァ、寒くねえのか?」
 竜司は別のルートからもう少し詳しい話を聞いていたが、口止めされているためその件については口に出さなかった。
 リナリエッタは、派手で露出度の高い肉食系の格好をしている。個人を特定出来るものも持っていなかった。
 知り合いではなければ、百合園のリナリエッタとは気付かないだろう。
「大丈夫ー。寒くて仕方なくなったら、温めてくれそうな男さがすわあ」
 にやにやリナリエッタは笑みを浮かべた。
「その情報、一体どこから……。確かなものですか?」
 アルファが考え込みながら尋ねる。
「いつ、誰と接触して情報を入手したかは内緒。ついでに私の正体も内緒よ。服はいつでも脱げるけど、そこは、ね。……ふふ。冗談はさておき【エリュシオンが脱走兵と、ホールについての情報を集めている】のは本当よ?」
 リナリエッタは2人に携帯に写してきた、脱走兵の写真を見せた。
「よし、そいつが悪さしてんなら、引っ張り出してシメねえとな!」
「んー、とりあえずは敵対はしない方向で」
 荷物を持ち、2人は歩き出す。
「気を付けてくださいね。テレパシーで時々連絡してください」
「おっけー。深追いはしないわあ」
 不安気にアルファが見守る中、リナリエッタと竜司は鍾乳洞へと向って行った。

 アルファはそれから長時間、鍾乳洞の側で調査をしていたが、鍾乳洞に入っていく者も、出てくる者もいなかった。
 ……リナリエッタと竜司も戻らなかった。

○     ○     ○


 鍾乳洞の側にあるオアシスでは、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が調査を行っていた。
 ジャジラッドは酒場で出会って意気投合した仲間、竜司、美咲、シリウス、そして瓜生 コウ(うりゅう・こう)のパートナーのマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)と情報を交換した結果、自分に求められていたダークレッドホールの調査には行かないことにした。
 応じれば、中の調査に駆り出されるのではないかと考えた。しかし、今の段階でダークレッドホールに足を踏み入れるにはリスクの方が大きく、二次災害が起こる可能性が極めて高いと判断した。
 君子危うきに近寄らず。別の方面で成果を上げようと考え、自分の第六感を頼りに、ジャジラッドもまた鍾乳洞の調査に訪れたのだ。
(何かが浮上してくるとすれば地盤の緩いここだ)
 シリウスから聞いた話では、ヴァイシャリー家から盗み出されたデータの中に、アルカンシャル等古代の技術に関するデータがあったそうだ。
 アルカンシェルのような、古代の要塞や戦艦がこの辺りに眠っているのではないかとジャジラットは想像していた。
 ウォータブリージングリングをつけて、ジャジラッドは水中を探る。
 水の量は大してなく、深くもないため調査にそう時間は要さないが、スキルや道具を駆使し、綿密に慎重に時間をかけて調べた。

 しかし、この小さなオアシスには、やはり特に怪しい場所も反応もなかった。