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白百合革命(第3回/全4回)

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白百合革命(第3回/全4回)

リアクション

 ヴァイシャリー家の地下にある留置室。
 ベッドとトイレ、シャワールームだけ設置された部屋で、桜月 舞香(さくらづき・まいか)崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は過ごしていた。
(崩城さんと2人なら、強行脱出できるかしら?)
 ドアを見ながらちらりとそう考えた舞香だったが、亜璃珠とは同じ理由で捕えられたわけではない。
(この部屋魔法使えるのよね……脱出も出来るかもしれない。つまりまた罠?)
 脱出しても罪が重くなるだけだということも分かっていたので、大人しく迎えを待つことにした。
「崩城さん。……崩城さん?」
「あ、ごめん。ちょっと気分が悪くて」
 亜璃珠は舞香にも、事情聴取に訪れた憲兵にも事情を話すことはなかった。
 凄く真剣な顔で何かを考えている……もしくは、テレパシーで誰かと会話をしているようだった。
「もうすぐ、誰かが迎えに来てくれるそうだから、それまで我慢してね」
 舞香がそう言うと、亜璃珠は首を縦に振って、両手で自らの顔を覆った。
「桜月さん、もしかしたらここで『爆発事故』が起こるかもしれない」
「?」
 自爆したという行方不明者と同じように――亜璃珠も偽物なのだろうかと舞香は思うが、どう見ても戻ってきた行方不明者とは違い、亜璃珠には記憶もあるようで、言動も本人そのものだった。
「迎えが来てからは、その人たちと一緒に私からは離れていて」
 亜璃珠の言葉に疑問を感じたが、尋ねても教えてはくれなだろうから。
 舞香はとりあえず「わかりました」と返事をしておいた。

 接見室へと呼ばれた舞香と亜璃珠は、身元引受人として訪れていた人物と対面した。
「優子お姉さま! 百合子お姉さま! どうしてこちらに……」
「キミの身元引受人として呼ばれたんだ」
 苦笑しながら答えたのは、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)だった。
「私は崩城さんをお預かりするために参りました」
 錦織百合子が亜璃珠に目を向ける。亜璃珠は無言だった。
 優子と百合子の他に、百合園関係者が2名同行していた。
 同田貫義弘(宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ))を装備した祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)と、白百合団の副団長のティリアだ。
「その前に、事情を聞かせてもらいましょうか」
 祥子が亜璃珠に歩み寄る。
「……話してもいいけど『爆発事故』が起こるかもしれないわよ」
 目を煌めかせ、口元に笑みを浮かべながら亜璃珠が言った。
「爆発事故ねぇ……なるほど、縦ロールが普段と逆回転だから偽物かも?」
 祥子は彼女の巻かれた髪に触れながら言った。
「どちらにしても、知っていることを話してもらうわよ」
 そう言って、祥子は亜璃珠から少し離れた。
「私はファビオに雇われて向かったの。ヴァイシャリー家からの紹介で」
 祥子は嘘感知の能力を用いて、亜璃珠を見ていた。
「向かった先にいたのは、シャンバラのパワーバランスを危惧している人達――。
 で、ミケーレにも話したし、どうせ伝わってるでしょう。目的は古代が所持していたという『騎士の指輪』か、あなた達のようなシャンバラやヴァイシャリーで要職につく、もしくはついていた地球人。見せしめにはちょうどいいらしいわ。とはいえ私も地球人だし……指輪の手がかりのために、ミケーレの元に、ということ」
 百合子と、それから優子をちらりと見て亜璃珠は言った。
「ヴァイシャリー家では、独身の家督継承権を持つ者が1つずつ預かっているとファビオから聞いたわ。婚約指輪として使われているそうね。……百合子さん、貴女ならちょうど持ってるんじゃないかしら?」
「……」
「それで、その指輪をどう利用するつもりだ」
 百合子が答えるより早く、優子が亜璃珠に感情を押し殺した声で尋ねた。
「言えないわ」
 亜璃珠は軽く目を伏せた。
「……叶うなら、誰かの同伴付きでもいいから、今後は夏合宿の夜に、瑠奈が受け取ったという指輪の動向を追わせてほしい。事情は話すことができないけれど、今の自分に出来ることがこれだから」
 亜璃珠は『白騎士の指輪』を持ってくるように、命じられていた。
 噂でヴァイシャリー家の男性が、瑠奈に指輪を渡していたという話を聞いており、それが探している指輪なのではないかと思っていた。
「何故その者達に従っている? 瓜生 コウ(うりゅう・こう)のように抗わなかったのは何故だ」
 優子が静かに尋ねてきた。
「……私は、彼らの意志に賛同して、その手先になったの。それでも、自分の意志であなた達を救うためにそうしてるの、それは信じて」
 亜璃珠の言葉に嘘は感じられなかった。
 少しの沈黙のあと。
「“夏合宿の夜に、瑠奈ちゃんが受け取った指輪”の行方は知らないけれど、あなたが探している指輪のありかの見当はつくわ」
 軽く笑みを浮かべて、百合子が言った。
「私があなたと一緒に行くわ。優子ちゃんには彼女を送り届けるという別の仕事があるしね」
「百合子さん……」
 優子は少し迷いながらも頷いた。
 それから、亜璃珠に目を向けて、近づく。
 亜璃珠も優子のことをじっと見つめていた。
「行ってこい」
 手を伸ばすと、優子は亜璃珠を抱きしめた。
「無茶をするなとは言わない。既に手遅れだろうから。キミを信じて、この地を守りながら待っているよ、亜璃珠」
 亜璃珠は自分を通して、彼らが優子に手を出さないだろうかと緊張していた。
 だから抱きしめ返すことは出来なかった。
「百合子さんを頼む」
 そう背を叩くと、優子は亜璃珠を開放した。
「それじゃ、手続きをすませないとね。行きましょう」
 祥子は、百合子、優子、ティリアに声をかけて、接見室を後にする。
「舞香、君の手続きは終わってるから、一緒においで」
「は、はい!」
 舞香は亜璃珠を気にしながら、優子に続いた。

 その後。
 準備を終えて戻ってきた百合子と共に、亜璃珠は再び姿を消した。
 祥子はティリアと共に百合園に戻り、舞香は優子に連れて行かれ、優子の部屋で説教を受けた、とのことだ。