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白百合革命(第3回/全4回)

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第4章 鍾乳洞の先へ

 大荒野の鍾乳洞にジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)アルファ・アンヴィル(あるふぁ・あんう゛ぃる)は今日も調査に訪れていた。
 共に訪れたわけではないが、こうして顔を合せる事が多く、変化がないかどうかの情報交換のみ行っていた。
「グラ……なんとかさんがここにいるかもって思って来たんだけど、見なかった?」
 今日はアルファと共に秋月 葵(あきづき・あおい)も百合園から訪れている。
「グラ、なんとか?」
「ええっと、探している地球化兵のパートナーだよ。アレナちゃんの知ってる人だったみたい」
 葵はジャジラッドに当たり障りない範囲でアレナから聞いたことを話す。
「グラ……なんとかさんは、古代シャンバラの光の魔道書で、凄い力を持ってるんだって。だから、その魔道書さんを探し出して、説得してダークレッドホールを何とかするために協力してもらおうと思ってるの」
 脱走兵は『焔狼盗賊団』と行動を共にしていたらしく、その盗賊団はこの辺りを拠点としていたそうだ。
 そして、盗賊団の一部がここで遺体として発見された。
 更に、百合園生の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)と、若葉分校番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が鍾乳洞へ入ったまま戻らないという報告がアルファから白百合団に届いていたため、葵もここを調べに訪れたのだ。
「グラ……なんとかさんは女王器かもしれないんだよね。となると、王家の血を引く人に惹かれたりして? 6首長家の誰か一緒に来てくれたらなぁ」
「ああ、古代王国に関するモノが眠ってるんじゃないかと思ってな、オレも知り合いに連絡して2人ほど当たってみたんだが、断られちまってな。おまえなら呼べるんじゃないか?」
 ジャジラッドは古王国の騎士の子孫であるミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)と、十二星華のアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)に協力を求めたが、ミルミは本人的に行く理由が全くないということで、アレナは優子を含む友人達からの反対があり、こちらに来ることはなかった。
 更にジャジラッドは御堂晴海(みどう・はるみ)に、晴海とパートナーのヴェントが動けないのであれば、本国から増援――レスト・フレグアムを呼んで欲しいと連絡をしたが、龍騎士団も世界的な事件の対処に動いており、団長自らこちらの事件の対処に動くことは不可能だと、こちらも良い返事が得られなかった。
 鍾乳洞の奥は、契約者2人の安否が分からないほどの危険な場所である。
 そこに単身で突入するほどジャジラッドはうぬぼれておらず、むしろ『石橋を叩いて他人に渡らせる主義』な為、結局状況を見守る以上何もできずにいた。
「ご無事なら、百合園に連絡があってもいいはずです。連絡も一切途絶えたままということは、お2人の身に何か起きたか……あるいはダークレッドホールのようにどこか別の場所へ出てしまったのかもしれません」
 身に何かが起きたのなら、自分の時と同じように鍾乳洞の外に出てから起こるのではないか?
 だから、後者の可能性が高いと、アルファは考える。
「わたくしも奥に進みます。鍾乳洞に何かしらの変化があったのかもしれませんから」
 アルファは決意を固めていた。
「ここでの調査に関しては、動かなければ得られるものは無さそうです。
 鍾乳洞の奥がどこかと繋がっているのであれば、調査するのに人手があっても良さそうですからね」
 アルファの言葉に、ジャジラッドは眉を顰めるが何も言わなかった。
「もし以前と同じように、わたくしがおかしなことをしだしましたら、氷の魔法で助けてはくれませんか?」
 危険は覚悟の上、負傷も覚悟の上だと、アルファは葵に言う。
「ん、わかった。でも、あたしも行くよ。危なくなったら、すぐ外に出るけどね」
「あなたはどうしますか?」
 アルファはロープを体に結びながら、ジャジラッドに尋ねた。
 勿論いかない。ここで様子を見させてもらうぜ! などと思っていたジャジラッドだが。その時――。
「ボゴル副団長……と、秋月さん」
 ワイバーンが降下し、乗っていた女性がジャジラッドと葵の名を呼んだ。
「あちらは人型のヴェントに任せておけそうだから、私だけだけど協力に来たわ」
 秘術書の『ヴェント』を持った晴海だった。
 メイクで変装をしており、良く知る人物以外は、彼女が騎士団の団長のパートナーだとは気付かないだろう。
「こんにちは。優子隊長から話、聞いてるかな?」
 葵が晴海に問いかける。
「ええ、彼からもね」
 晴海はジャジラッドを見て、目で頷き合った。
「協力者の方ですか? ちょうど今、鍾乳洞の奥に向かってみようと思っていたところです」
 アルファがそう言うと、晴海は首を縦に振った。
「それなら私も一緒に行くわ。それでもし……奥に指名手配犯がいたり、魔道書が眠っていたら、強硬手段に出るかもしれないけれど、許してね」
 晴海の言葉の意味は、アルファには良く分からなかったが、葵とジャジラッドが信用している人のようなので信用することにして、共に進むことにする。

 葵の光精の指輪で人工精霊を呼び出して、アルファ、葵、晴海、ジャジラッドの順で鍾乳洞の中を進んでいく。
 念のため、アルファは長いロープを自分と鍾乳洞の入口に縛って出発をした。
「知っているとは思うが、精神に異常を及ぼす攻撃を受ける可能性がある。オレはニンフを連れているが、おまえ達も意識を奪われぬよう注意しろ」
 ジャジラッドが皆に言う。
「うん、気を付けるよ」
「承知しています」
 葵とアルファが答えるが、ジャジラッドからすると2人ともここを探索するほどの防具や対策はしていないように見えた。
 ジャジラッド自信も、脱走兵を見つけたら闇に葬るつもりであったが、武器は、直径5メートルアダムスキーの戦輪しか持ってきてはおらず、鍾乳洞に持ち込めなかったため、丸腰であった。
(3人とも魔術師系のようだな。魔法が封じられたら分が悪い)
 ジャジラッドは状況を分析しながら、いつでも退けるよう準備をしていた。
 鍾乳洞の中は一本道だ。
 アルファを先頭に慎重にゆっくりと進み――。
 彼女が意識を失った場所へと到着を果たす。
「精霊さん、お願い♪」
 葵が人工精霊に進ませて、奥を照らし出してもらう。
「……行き止まりですね」
「なんにもないねー」
 奥はやはり行き止まりで、何もなく誰の姿もなかった。
「遺体がないってことは、ガスか何かにやられたってわけでもなさそうだ。壁に仕掛けでもあるか?」
 そうは言うが、ジャジラッドは自らは近づこうとしない。
「忍者屋敷のどんでん返しみたいない仕掛けがあるのかしら」
 晴海が近づいて壁に手を伸ばした……その時。
「!?」
 彼女が突然胸を抑えた。
「洗脳か!?」
 ジャジラッドが晴海を腕を引いて外に引っ張り出そうとするが、晴海は手で制して、懐にしまっていた、エリュシオン帝国『秘術書「ヴェント」』を取り出した。
「震えてる……共鳴してるみたい」
 そして壁の向こうに目を向ける。
「この奥に在るわ。……「ヒュー」が」
「ヒュー?」
 晴海の隣で壁を確かめながら、アルファが尋ねる。
「古代に記されたエリュシオンの魔道書。そのうちの1冊がこの壁の奥にあるみたい。道がないというのなら、砕いてでも進……」
 晴海は壁を強く叩こうとしたが、その腕が壁の中に沈んだ。
 同時に壁から淡い光が発せられ、魔法陣が浮かび上がった。
 そしてそのまま晴海は壁の中へと引っ張られていく。
「一旦退いて、体制を……」
 ジャジラッドは晴海の身体を掴み、光の力に抵抗しようとするが。
「行きましょう。解決するには進むしかありません」
「ヒューがあるのなら、ダークレッドホールを抑えられるかも!」
 アルファと葵に押されて、壁の中へと押し込まれた。