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空を観ようよ

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空を観ようよ
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話がある

 赤や黄金色に染まっていく木々を見ながら、皆川 陽(みなかわ・よう)は軽い足取りで歩いていた。
 街で買い物をして、自室に戻る帰り道。
 特別な出来事なんてなにもないのに、微笑が浮かんでしまう。
 平和になった世界で、陽は今幸せを感じていた。
 世界が平和になったからというよりも、大切な人――テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)との関係がとても良好なものになっているから。
 この数年間、本当にいろいろなことがあった。
 テディとは喧嘩をしていたことが多かったと思う。
 プロポーズをされた時には、拒否して別れを告げて。
 果たし状を送りつけて、決闘して、主従契約の証を投げ捨てて。
 でも今は、結婚はしていないけれどテディは陽の嫁だ。
 最近は思っていることをきちんと相手に言えるようになった。
 その分喧嘩もしてしまうが、以前のようなお互いが深く傷つく、破滅的な事に繋がる喧嘩ではなく、普通の喧嘩――痴話喧嘩と言われる部類のものだと思う。
 陽は今、テディと一緒にいられて、本当に幸せだった。
(このまま大学卒業したら本当に結婚とかしちゃうのかなー。薔薇色なのかなー。卒業はまだまだとはいえ、今から仕事の事とか住む家のこととか、ちゃんと考えないとね。えへへー)
 一人笑みを浮かべながら、薔薇学の寮へと歩いていた陽だが。
 部屋についた途端、はっとして着替えも忘れ立ち尽くした。
(そういえばボク、テディにちゃんと好き……とか言ったこと、あったっけ……?)
 記憶を巡ってみるが……思い出せない。
 彼を前に言葉できちんと、好きと伝えた覚えがなかった。
「ああ……ああああ……なんという……なんという駄目男なんだボクは……」
 陽はガクリと膝をついた。
 今まで、言葉にしなければわからないことを1人でため込んで、爆発して、テディとこんなに揉めてきたというのに。
「こんな大事な事も言わずに、自分の中だけで勝手に自己完結して、結婚について考えてたとか……あり得ない……ほんと……ほんとごめん……」
 自分だったらキレるだろう。
 それはもいつもの勢いでキレるだろう。決闘ものだ! そして破局だ!!
「う……っ、また破局かッ!!」
 想像力豊かな陽は自分がキレる姿、それから再び破局に陥る姿を想像し、項垂れる。
 胸が、痛かった。
 そして、自分のダメなところに、また一つ、気付いた。
 分かっていたようなつもりでいたけれど、きちんと解っていなかったこと――。

 テディはその日、自室で武具の手入れをしていた。
 この数年間、いろいろなことがあったけれど、陽の嫁となれたし。
 以前は陽が何を考えているのか、思いやろうとしなくて、それがもとで拒絶されたり……そんなことばかりあったけれど、最近はちゃんと話をするようになっていて。
 陽は何を望んでいるのか、自然と考えられるようになっていた。
(少しは自分も成長できたのかな)
 ピカピカに磨いた鎧を見て、テディは満足げな笑みを浮かべた。
「陽の故郷の日本では、20歳になったら自分の意志のみで結婚出来るらしいし……僕は既に20歳で、陽はあと少しで20」
 すぐにでも形にしたい。陽は自分の気持ちを言う習慣がないから、形にして自分のものにしたい。
 陽が20になったら、直ぐに役場に行くんだ。そしてそして……。
 そんな幸せな妄想をしていたテディの部屋に。
「話がある」
 帰宅した陽が深刻な顔をして訪れた。
 磨いていた鎧を全て床に落とすほど、テディは緊張して、身構える。
「うん」
 答えた後は、歯を食いしばった。
 拳を強く握りしめた。
 経験上、陽がこんな顔をして何かを言い出す時は、とてつもなく良くない事が起こる!
(さよならか? 馬鹿にするなーか? 失せろ消えろか?)
 これまで何度も同じような事があったから、間違いはない。
(また自分は何かを間違えていましたか……。
 それでまたさよならですか……)
 悲しみの感情が込み上げるけれど……それでも、諦めないという決意もテディの胸の中にはある。
 何度振り出しに戻っても、何度でも何度でも。
 生涯かけて追いかけるって、決めているから。
「テディ」
「う、うん」
 緊張して、にらみ合うような2人。
「……すっと、好きでした」
「……? !!!?」
「振ってくれて良いです……うん……ほんとごめん……」
 陽はテディの前で、崩れ落ちて両ひざをついた。
「え、ええええ? な、なんて??」
 あまりにも突然で。陽が言うはずもない言葉を聞いたせいで、テディは酷く混乱した。
「ずっと、好きだったんだ……。
 今まで、あれこれ言ってきたのも、不満をぶつけたのも、みんなみんな、好きだったから……」
 テディは放心して、口が半開き状態になっていた。
「決闘を申し込まれて振られたら、今度はこっちが追いかけるね……」
「け、決闘!?」
「ずっとずっと、憧れてたから。隣に立てるような人間になりたいって夢見てたから」
 愛する人から、突然出た言葉は、テディの予想と全く違うもので。
 しばらく、状況が良くつかめないでいた。
 ただ……。
 次第に目頭が熱くなってきて。
 胸がとっても苦しくなってきて。
 耐え切れなくなり、テディも崩れ落ちて床に膝をついて。
 手を伸ばして、陽を抱きしめた。
「……好きだ」
 叫び声を上げたいほどの強い気持ちなのに、その瞬間は、胸の苦しさ負けて大きな声はでなかった。
「ありがとう」

 それから2人は抱きしめあったままで。
 一緒に築く未来を――未来の自分達の姿を語り合って。
 同じ未来を思い描いていることを、確認しあった。