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二十歳の約束

 秋深まるある日――。
 ヴァイシャリーに存在する教会で、女性同士の結婚式が行われていた。
 女子校である百合園女学院に所属している2人だから、というもともあり、参列者の大半が女性だった。
 2人とも、プリンセスラインで、フリルとレースで華やかに、そして薔薇をあしらったデザインのドレスを纏っていた。
 薄いブルーのドレスを纏った女性の方が、新郎の秋月 葵(あきづき・あおい)で、薄いピンク色のドレスを纏った女性が、新婦のエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)だ。
 2人はパートナーとして、このパラミタで助け合って生きてきた。
 葵は地球に居た頃、甘やかされて育ったため、パラミタに来てからしばらくの間はエレンディラがいなければ、日常生活に困ってしまうほど、1人では何もできない娘だった。
 箱入り娘で、世間知らずで、他人を疑うことを知らない素直な性格の彼女は、百合園女学院での学園生活や、契約者としての活動で、沢山の友人ができた。
 そして友達を守るために……友達と、世界を守るために、白百合団やロイヤルガードに所属し、活動してきた。辛いことも、苦しいことも沢山あったけれど。
 持ち前の明るさと、可愛らしい笑顔で、皆を鼓舞し、今でも仲間達と日々、頑張っている。
 エレンディラはいつも、側で葵の事を見守っていた。
 世話好きで、つい葵を甘やかしてしまってばかりだったけれど、葵はきちんと大人へと成長していき、進む道をも決めている。
 始めはエレンディラが親代わり、姉代わりみたいなところがあったけれど、今では葵が夫で自分は妻だと胸を張って言える。
「少し緊張していますか? 大丈夫ですよ」
 祭壇に近づきながら、エレンディラは隣の葵に声をかける。
 葵は緊張で体が固くなっているように見えた。
「……うん。緊張とはちょっと違って」
 沢山の友人達が集まっていることに、照れくささを感じていた。
 エレンディラと選んだ、可愛いウエディングドレス姿を、見てもらえるのは嬉しいけれど……。
 2人は祭壇の前に到着し、賛美歌が歌われ、司会者が愛の朗読を行い祈りを捧げた。
「あなたはその健やかなるときも病めるときも富めるときも貧しきときもこれを愛し、これを敬い、これを助け、その命の限り硬く節操を守ることを約束しますか?」
 牧師の言葉に、2人は互いにはっきりと「誓います」と答えた。
 それから、互いの指に指輪をはめる。
 そして……。
「葵ちゃん、いつも通り、天使の微笑みを私に見せてください」
 エレンディラはそう言って微笑んだ。
「う、うん。そこまで緊張はしてないんだけど、ほら。お姉ちゃんもいるし、優子隊長とか、アレナちゃんもいるし……」
 葵は人前でキスをすることに、恥ずかしさを感じていた。
 自分をとっても可愛がってくれている姉、秋月 梓も今日は来てくれていて、葵達を見守ってくれている。
 梓は亡くなった両親に変わり、秋月財団の総帥として日々忙しなくしている。今日は大切な末妹の結婚式ということで、何とか都合をつけて、遠いこのヴァイシャリーまで来てくれたのだ。
 親友のアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)と、ロイヤルガードの隊長神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)も、こちらをじっと見ている。
(皆こっちみてる……当たり前だけどっ)
 葵は少し照れながら、手を伸ばしてエレンディラのベールを上げた。
 そこにはいつもと変わらない、エレンディラの綺麗な笑顔があった。
 エレンディラは少し屈むと、目を瞑ってドキドキ、葵のキスを待つ――。
(エレン、大好きだよ。これからもよろしく……)
 葵はそっとエレンディラの唇に、自分の唇を重ねた。
「結婚が成立しました」
 牧師のその言葉と同時に、拍手とお祝いの言葉が湧きあがる。
「おめでとう、2人とも……。エレンディラさん、葵を頼むわね」
 真面目な顔つきながら、梓は感動で声を震わせていた。
「葵さん、エレンディラさん、おめでとうございます……!」
「おめでとう」
 アレナはとっても嬉しそうな笑顔で、優子も微笑んで、2人を祝福してくれた。
「へへっ」
 恥ずかしげに、葵はエレンディラを見上げる。
「ふふ、幸せですね。今だけじゃなくて、私は葵ちゃんと一緒ならいつでも幸せです」
「うん、あたしたちは、いつも一緒でラブラブだよね」
 今までもこれからもそれは変わらないだろう。
 だけれど、互いに20歳になり、大人の仲間入りし、自分の言動に十分責任を持たねばならない年になったから。
 2人は結婚を決意したのだ。
 皆の拍手と祝福を受けながら、2人は腕を組んでバージンロードを退場した。

 挙式の後。
「せーの!」
 教会の外で、葵とエレンディラは皆に背を向けて、ブーケを投げた。
 ブーケは葵の友人の方へと飛んでいった。
「ほら」
 優子がトンとアレナの背を押した。
「あ……っ」
 一歩足を前にだしたアレナの手の中に、可愛らしい花束は落ちてきた。
 自分に視線が集中し、アレナは真っ赤になった。
「次は、アレナちゃんが幸せになる番だね」
 エレンディラと手を組みながら、葵が笑顔を見せる。
「ありがとうございます! 葵さん、エレンディラさん、ずっとずっと幸せでいてください。本当に、おめでとうございます!」
 アレナが普段は出さないような大きな声で、2人を祝福する。
「おめでとう、幸せになりなさい」
 梓は涙をこらえて、いつものやや厳しめの口調で言った。
「ありがとう」
 葵はエレンディラとつないだ手を青い空へと上げた。
「あたしたち、ずっと一緒に幸せに生きていきます!」
 澄み渡る青空の下の澄んだ葵とエレンディラの笑顔は、参列者たちの心に幸福感を与え、記憶に長く残った。