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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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ティセラ

 西軍キャンプに向けて、一台の軍用バイクが荒野をひた走る。
 サイドカーに乗る姫宮 和希(ひめみや・かずき)がバイクの爆音に負けじと、バイクを運転する百々目鬼 迅(どどめき・じん)に大声で言う。
「スピード違反でとっつかまるとか勘弁だぜ!」
「目標に直進してるだけで、むちゃくちゃ安全運転だぜっ!」
 バイクはクラックで飛び越えてバウンドすると、そのまま土煙を上げて疾走していく。

 ようやくキャンプが見えてきた頃、前方に検問が張られていた。
 蒼空学園の制服をまとった生徒が、二人に駆け寄ってくる。
「この先は西シャンバラ王国の各校連合軍が……」
「おぉーっと、皆まで言うなぃ」
 和希が遮り、用件と立場を告げる。蒼空生は態度をころりと変えた。
「失礼いたしました! どうぞお通りください」
 和希は東シャンバラ・ロイヤルガードであり、アムリアナ女王の為のメッセージをもらいに訪れたのだ。

 キャンプに入った二人は、十二星華が居をおくテントを訪ねる。
「おう、ティセラ! ちょっと頼み、聞いてくれねぇか?」
 迅の姿にティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)が少々意外そうに出迎える。
「パラ実生ですのに、よくぞここまでご無事で」
「ああ、これは東西が協力できるネタだからな。っと、俺は迅のダチの姫宮和希」
 和希はティセラと握手をかわす。
「わたくしは十二星華のティセラ・リーブラですわ。確か、以前にお会いしたかしら」
「ああ、でも前はちょっと絡んだだけだったからな」
 迅と和希は、使節団がアムリアナ女王へのメッセージを集めている事を彼女に説明した。
 ティセラはぽつりと、つぶやくように返す。
「アムリアナ様の事は毎日、とても心配しておりますわ。でも……罪人であるわたくしの立場で、それが許されるのでしょうか……」
 悩む彼女に、迅は言う。
「ティセラ、お前さ、前からずっとシャンバラを想って動いてたよな? 洗脳されてた時だって、行動は全部シャンバラを想っての事だった。今となれば尚更だろ?」
 代わって、和希も言う。
「洗脳から解放後もいろいろ思い悩んだんじゃないか? まわりから白い目で見られる事もあっただろう。
 それでもティセラは、腐らずに女王やシャンバラへの想いを大事にしてきたんじゃないのか? その強い意志や気持ちを女王の元へ届けられたなら、きっと生きる力になる筈だ」
 ティセラは静かに二人の話を聞き、しばし考え込んだ。

「……分かりました。今この時代、五千年前のアムリアナ様をよく知る者は、ごくわずか。
 陛下を知るわたくしがメッセージを寄せる事で、アムリアナ様のお力となるならば……喜んでご協力させていただきます」
 和希と迅は、ティセラの答えを聞いて笑顔になる。
「そうか! 恩にきるぜ!」
「色紙とペンは用意してきたんだ。足りなきゃ、まだあるぜ」
 ティセラは迅が差し出した色紙に、綺麗な古代語で想いを書き込んでいく。
 女王を心配して回復を願っている事はもちろん、かつての思い出もそこには記されていた。

「かつてアムリアナ様がシャンバラ王国の十二星華計画に最後まで反対し、人工的に生み出されたわたくしたちの為に涙を流してくださった事は、忘れられません。
 そしてお子様のいらっしゃらなかった陛下にとり、十二星華が娘であるとおっしゃってくださった事は、わたくしの誇りです。
 ですが、このように陛下の思い出がぼんやりとでも残っている、わたくしは幸せなのでしょう。
 同じ十二星華でも、テティスのようにすぐに戦場に出されてしまって陛下との思い出がない子や、長い年月のうちに陛下の事を思い出せなくなってしまった子もいます。
 今、宮殿の庭園で、わたくしが淹れた紅茶をアムリアナ様に召し上がっていただいた事を思い出します。
 いつの日かアムリアナ様と十二星華がそろって、なごやかにお茶会を開く時が来る事を……そんな新たな思い出を作れる時が来る事を、願ってやみません。
 もっとも、貴女とシャンバラを裏切ってしまったわたくしに、その席に立つ資格があるとは思えませんが……。
 たとえシャンバラに別の国家神が誕生しようと、わたくしたち十二星華の『母』がアムリアナ様である事には何の変わりもありません。
 陛下がご無事で戻られますよう、お祈りいたします」

 ティセラはメッセージをしたためた色紙を渡す。
「こちらを使節団の方々にお渡しください。
 このような機会をくださって、ありがとうございました」
 ティセラに笑顔を向けられ、迅は力コブを作って見せる。
「礼には及ばねぇ。俺の事頼りなく思ってたろうが、心配すんな! 俺はこう見えてやる時はやるんだぜ?」
「ふふっ、そうですわね」
 ティセラはほほ笑んだ。
 迅と和希は、彼女との距離が近くなったように感じ、嬉しくなった。