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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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空京市長

 空京市の高級住宅街。空京市長マーガレト・ベルモンドの邸宅を、姫神 司(ひめがみ・つかさ)グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が訪ねた。
 すでに手紙等でアポを取っており、メイドはスムーズに二人を応接室に案内する。
 若き女性市長は、見た目にはケガも完治しているようだ。彼女の娘ユーナも、冬期休暇で百合園から戻ってきていた。
 グレッグはユーナに「お元気でしたか?」と微笑む。
 彼女は母親の陰に隠れながら、こくりとうなずく。
「学校は楽しいだろうか?」
 今度は司が聞いた。今度はちょっと考えてから、こくり。
「お父上とは会えているのかな?」
 ユーナは無言で、人形を出した。地球でよくある着せ替えも楽しめる人形だ。
 娘の代わりに、マーガレト市長が答える。
「クリスマス休暇で遊びにきたんです。これは彼からのプレゼント。新年には反対に、私とこの子で日本へ彼を訪ねる予定です。天沼矛ができてから、日本との距離が縮まりましたから」
 今は全世界的に長期休暇になる時期だ。空京市長と日本の議員である夫と、普段はそれぞれ多忙を極める夫婦だが、この時ばかりは家族水入らずで過ごせるようだ。

 なごやかに近況を話した後、本題の話となった。
「今日はどんなご用件でしょう? 市長舎では話せない、という事でしたけれど」
 司は市長に、使節団がアムリアナ女王へのメッセージを集めている事を一通り話してから、切り出した。
「契約者ではないシャンバラの民からのアムリアナ女王に対するメッセージを集めたい。協力を願えないだろうか?
 五千年の間、個人の名前が残るほど民に切望された女王に対し、シャンバラの民が声を届ける機会は今回が最後であろう……だが、私はシャンバラにやってきた契約者としてまだまだ諦める気はないがな。女王を含め、何もかもに対してだ」
 司は不敵な笑みを浮かべる。
 市長は戸惑ったようだ。
「そういう件でしたら、市長舎に来て公式に頼んでいただけた方が協力できたのですが」
「公舎では継続して危険が在るだろう」
 司の答えに、市長の戸惑いはさらに増しただけだ。
「私はそこで毎日、仕事をしています。このような用件に、妨害やテロを考えるシャンバラ人も地球人も、まずいないはずです。あなたはいったい何を危惧しているのですか?
 ともかくアムリアナ女王陛下へのメッセージは、すでに空京放送局が中心になってキャンペーンを行い、集めているようです。
 空京市としても、女王の回復を祈願する等のイベントや集会への公共施設の無償貸し出しなどのサポートを行なっています」
 司は首をかしげる。やはりシャンバラの情況は、契約者の生徒達にはよく理解できていないようだ。
「市長に聞きたい。民も、東西に割れているのであろうか? それとも、早く統一され、元のシャンバラに戻る事を切実に望んでいるのだろうか?」
 市長は大きく息をつき、説明した。
「シャンバラが統一されていたのは、五千年も前の事です。現在まで、シャンバラは各都市や種族間での悲しい争いも経験してきました。それが西と東に分かれている形でも建国が成ったのは、たいへん喜ばしい事です。……ただ、次は東西の合併を望むばかりですが。
 女王の存在しない、国ではない貧しい一地方に戻るという意味では、誰も元に戻る事など望んでいません。
 これは地球人には理解できない事なのかもしれませんが、パラミタにおいて国家神とは、国そのものであり、国土そのものであり、国民そのものでもあるのです。地球の名ばかりの王などと一緒に考えられては困ります」