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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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テティス


 使節団メンバーの一人、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、彼らに同行する帝国の従龍騎士にして参事官バルレオスに訊いた。
「もし、戴冠式が成功し、アイシャさんが国家神になったら、『保護』する理由が無くなるこちらのアムリアナ・シュヴァーラ女王陛下を返してもらえるか?」

「貴様らの小細工は、我らがアイリス卿と龍騎士団により阻まれる。そんな事を起こらんよ」
 大帝や皇女、龍騎士を信奉するバルレイオスは聞く耳持たなかった。
 その様子に、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)はそっと肩を落とす。
(とにかく、どんな形でも……さすがに操られるのは勘弁だけど、なんとかしてアムリアナ女王が戻ってきてくれないかな。
 こんな事は考えたくないけど……葬儀するにしてもシャンバラでやりたいし)
 しかしロートラウトは、悪い想像を頭から追い払おうとする。
(力を他の人に渡そうとしていても、渡した後でも、アムリアナ様だってことに変わりないんだから、しっかりとお見舞いしなきゃ)


 使節団の西側代表に選ばれたテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)は、ぼんやりしそうになるのを我慢しながら、団の書類仕事をしていた。
 しかし、やがて大きなため息をついて、イスの背によりかかる。
 そんな彼女に、レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)が声をかける。
「テティスさん、お茶はいかがですか?」
「そうね……いただきます」
 すかさずレオポルディナのパートナー道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が手馴れた手つきで一同にお茶を用意する。
 つかれた表情でカップを傾けるテティスに、バルレオスのもとから戻ったエヴァルトが声をかける。
「レジャさんの悩みは、俺も無関係ではない」
「えっ?! あなたが……なぜ?」
 テティスは驚きの目をエヴァルトに向ける。
「あの時は俺も、何が正しい事か、ウェルザングさんが本当は何者なのか、何一つ分からぬまま、感情に任せてレジャさんを止めようとした……行動そのものは正反対だったとは言え、何も分からずに行動したという点では俺も同じだ。だから、一人で抱え込むことはない」
 意外そうにエヴァルトの言葉を聞いていたテティスは、ふっとほほ笑んだ。
「ありがとう……優しいのね」
 レオボルディナもテティスに言う。
「そう! そうですよ。テティスさんが選ばれたのは『屈託なく女王に対面する』ことが出来ないという、わだかまりがあるということですし、それを解消するチャンスであるからだと思うのですよね。
 皆の気持ちを伝えると共に、自分の気持ちもきちんと伝えるように頑張って欲しいですね」
 エヴァルトが引き継ぎ、言う。
「今は、俺も貴女も、女王陛下を何とかして助けたい、と思っているのだ。反省もほどほどにせねば、女王陛下もフォローばかりで気が休まるまい?」
「そうね。病床の陛下に、お気を遣わせてはいけないわね」
 テティスは神妙な顔で、うなずいた。